2017年度ゲートキーパー普及啓発事業

マインドファースト理事長 島津 昌代

2017年4月28日(金),徳島文理大学志度キャンパスにて同大学薬学部6年生18名を対象にゲートキーパー普及啓発事業が行われ,マインドファーストから島津が講師として派遣されました。同大学では,「予防医学」の一環として,将来,薬剤師として医療に従事することになる学生に,自殺予防のためにできることを学ぶ機会を設けているそうです。

初めに,主催者の香川県精神保健福祉センターから,香川県の自殺の現状とゲートキーパーの役割について解説があり,続いてマインドファーストから「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」と題して講義が行われました。

講義では,“なぜ自殺してはいけないのか”“私たちに何ができるか”という根本的な問題を考えてもらうために,精神保健福祉センターの方が講演の最後に流された「あかり」という楽曲のDVDの感想を数名ずつのグループで話し合ってもらいました。この曲は,聴講者と同世代の人の自殺がきっかけとなって生み出されたもので,それが与えたインパクトをとっかかりとして「自殺をめぐる文化的背景」や「自殺にまつわる誤解」,特に“自殺について話すことはかえって自殺の危険性を高めてしまう”と思ってその気持ちと向き合うのを避けることで,逆にその人を孤独な状態に追い込んでしまうことや,“死ぬ勇気があれば何でもできる”“死ぬくらいなら辞めれば良い”という普段の理性が働かないような心理的視野狭窄状態に陥ることがあり,それが自殺につながり得る危険な状態であることを説明しました。

こうした心理的視野狭窄状態に陥ることを防ぐには,その人が今感じているつらさや苦しさに共感してくれるコミュニケーションが重要になります。ただ,それを支えようと思う人も自分一人ですべてを解決することはできません。ゲートキーパーの役割が「きづく」「かかわる」「きく」「つなぐ」となっていることは,苦しんでいる人が孤立してしまわないように支えることと,支える側もひとり

で抱えるのではなく,社会の機能のひとつである「支え合う」ということを再構築していくことでもあると言えます。

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受動喫煙対策議論から見えてくるもの

マインドファースト通信編集長
花岡正憲

人は,罪を犯す生き物と言われる。罪とは言えないが,人は,人として生きていく上で,必ずしも必要ではない余計なことをしてしまう生き物でもある。その一つが喫煙行動である。

WHO(世界保健機関)の幹部が来日し,「日本は,タバコ対策,特に受動喫煙対策は時代遅れだ」と苦言を呈し,東京五輪に向けて,公共施設については,国レベルで屋内を完全に禁煙するよう厚労相に要請した。厚労省は,飲食店での実質的な禁煙に向けて受動喫煙防止法案をまとめたが,自民党「たばこ議員連盟」の抵抗で骨抜きにされ,今国会での法案の提出は厳しくなっている。

5月15日,受動喫煙対策を議論した自民党厚生労働部会で,三原じゅん子参院議員が,職場で受動喫煙に苦しむがん患者の立場を訴えた際に,「(がん患者は)働かなくていい」というヤジがあった。

22日,ヤジを飛ばした大西英男衆院議員は,自らの発言で誤解を与えたことを認め謝罪した。しかし,発言そのものは撤回せず,「そういう方(がん患者)にはもっと健康な受動喫煙のないところで働いていただいた方がその方のためになります」と釈明した。これを喫煙者のおためごかしと言うのだろう。

同日,がん患者団体や支援団体は,大西氏の発言について「政府が治療と仕事の両立を支援する政策を進めている中で逆行する発言」と批判した。

大西氏の発言は,喫煙者のためにはタバコが嫌いな人たちの社会参加の機会が損なわれても構わないと言う考え方だから,がん患者だけなく,タバコを嫌うすべての人たちに対して,タバコが嫌いなら近寄るなと言うことである。タバコが嫌いな人にはばかることなく自由に喫煙ができる社会にしておきたいと言うのが本音であろう。←




→WHOが作成したICD-10(国際疾病分類第10版)では,タバコの使用は「精神作用物質による精神及び行動の障害」に分類され,その中で,「ニコチン依存症」という病名コード番号が設けられている。日本でも,喫煙は依存症の一つとして認識され,2006年度から「ニコチン依存症管理料」として診療報酬上も禁煙治療が認められている。

車に人を乗せたところ,助手席でいきなりタバコを吸い始めるとか,人が大勢集まったところでタバコに火をつけてから「灰皿ないですか」と言った場面に遭遇することがある。こうしたスモーカーの言動に,単なるマナー違反では済まされない違和感を覚えたことがある人も少なくないだろう。

ニコチンは,ヘロイン,コカイン,アルコールなどと比べても依存性が高い薬物の一種である。依存症になると,薬物が手に入りにくい状況や摂取の制限が強まる環境では,かえって渇望が強くなり,喫煙に固執する行動,いわゆる「薬物探索行動」が見られるようになる。ニコチンの離脱症状として,苛立ちや不安なども見られる。

かつてJTは「たばこは動くアクセサリー」というキャッチコピーで若い女性を対象にタバコの拡販を試みたことがある。喫煙がカッコ良いという文化が作られてきたことは事実であろう。未成年者の喫煙は禁止されているが,未成年での喫煙は少なくない。喫煙の男女比では,圧倒的に男性に多い。喫煙は,外形的には大人の行動であり,男らしさの象徴でもあるというサブカルチャーと関連が深い。

精神分析家のフロイトは,性的な欲動は乳幼児期から存在するとし,この欲動を満たす身体部分と関連づけた精神発達理論を提唱した。ある発達段階で,過度の満足や欲求不満があると,次の段階へ正常に進むことが妨げられ,その段階での固着が生じる。このような固着は,大人になってからも環境との関わり方に影響を与える。第1の発達段階は口唇期と呼ばれ,生後1年半ぐらいまでの時期で,乳児は乳を吸うという口唇領域の快感を通して欲動を充足させる。この口唇期で十分に欲求が満たされていないと,大人になっても,口からの満足を求めやすく,飲酒,喫煙,食べることへのこだわりが強くなると言われる。この時期の快楽にいつまでもこだわることを「口唇期固着」と呼び,爪噛み,指しゃぶり,他者への過剰な依存と攻撃なども特徴とされる。喫煙行動は,社会的に偽装されてはいるが,一時的に乳児期に退行する大人のおしゃぶり行動とする見方もある。

先の部会では大西議員は,次のような発言もしていた。「私はもう50年,タバコを吸い続けています。そして我が家でも,自由にタバコを吸い続けておりまして,子どもが4人,孫が6人,一切誰も不満は言いませんし,みんな元気に頑張っております」

父親や夫の喫煙に悩まされる子どもや女性は少なくない。普段タバコを吸わないはずの子どもや女性の頭髪や衣類からタバコの臭いが漂ってくることがある。受動喫煙の被害にあっている子どもや女性は,タバコが嫌と言えなかったり,言っても無視されがちである。受動喫煙対策の法制化の必要は,こうしたところにもある。

最近,飲食店で禁煙席を希望したところ,「今は,禁煙席が空いていませんのでこちらを禁煙席にします」と言わ

れ,喫煙席へ案内されたことがある。禁煙席とは,タバコを吸わない人の席だけではなく,非喫煙者を受動喫煙から守るための席であるという理解が浸透しているとは言えない。

分煙とは名ばかりで禁煙席のすぐ隣が喫煙席であったり,喫煙席は窓際,禁煙席は厨房の近くや薄暗い壁際であったりする。おとなしいノンスモーカーよりも,傲慢なスモーカーに迎合しがちな店もあり,分煙対策では限界がある。

タバコが吸える店は利用しないという消費者行動も大切だ。宴会などの出欠を聞かれたとき,「全店禁煙のお店であれば参加します」と幹事役に意思表示することも効果的だろう。タバコは吸わないが,モノを言うことで口唇欲求を満たすノンスモーカーであることも大切だ。

5月31日は,世界ノータバコデー。2017年の標語は「煙草はすべての人々にとって脅威」

TOBACCO THREATENS US ALL

第154回理事会報告

日 時:2017年5月8(月)19時00分~21時10分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:平成30年度香川県共同募金会広域福祉助成事業については,ユーザーの居場所の立ち上げを主たる目標とした収支計画書を作成し,5月10日までに申請書を提出することで了承された。

第2号議案 ファミリーカウンセラー養成講座基礎コースに関すること:5月8日時点での受講申込者は,3名である。締め切りの5月26日までに,チラシの手渡し等さらなる広報を行うことで了承された。

第3号議案 2017年度事業計画に関すること:ブロシュール等の増刷については,「フォークス21」のブロシュール,「ぴあワークス」のチラシは,各1,000部増刷する。「おどりば」は,会場の明記にあわせて,個別相談・訪問等との連携支援の内容を織り込んだものにして増刷することで了承された。

第4号議案 2017年度総会の準備に関すること:2016年度事業報告書並びに収支決算報告書,2017年度事業計画案並びに収支予算書,定款変更案,総会案内文及び出欠回答文は,現在事務局並びに各担当で作成中,役員改選に伴う理事候補自薦他薦届出書の会員宛発送作業は,5月14日(日)午前10時から,オフィス本町において行うことで了承された。なお,宛名ラベル,封書,発送書面の準備は,花岡が行う。

第5号議案 平成29年度(平成30年度事業)香川県共同募金会テーマ募金に関すること:2017年度も申請をおこなうこと,募金目標額は,昨年度と同額の50万円とすることで了承された。

編集後記:岩盤規制とは,役所や業界などが既得権益にしがみつき,緩和や撤廃が容易にできない規制のことです。岩盤規制の撤廃を口実にして,お友達と手を結ぶのは,別の岩盤をつくることに他なりません。一方,受動喫煙対策の方は,政党と業界の癒着と言う岩盤の抵抗にあって,なかなか進みそうにありません。こうした状況の中では,「点滴石をも穿つ」という言葉に希望をつなぎたいと思います。(H.)