|
マインドファースト通信編集長 花岡正憲 |
年間の自殺者数が3万人を超える日本の状況に対処するために,2006年10月28日,自殺対策基本法が施行された。その基本的施策の一つ「医療提供体制の整備」に,「精神疾患を有する者が診療を受けやすい環境の整備,精神科医との適切な連携の確保」が定められている。
自殺未遂者及び既遂者には,精神医学的にみて,なんらかの病気ないし障害の状態にあると認められるものが多いと言われる。しかし,職場で「死にたい」と漏らしたために心療内科をすすめられ,受診したところ家族が呼ばれ,精神科病院へ強制的に入院させられそうになった例もある。また,すでに精神医療についていながら自殺が起きてしまうケースも少なくない。
早期の対応も大切だが,精神医療へつなぎさえすれば良いというものではなかろう。それに,心の病やうつ病対策といった「精神疾患対策」に偏ると,自殺問題は「特殊である」とか「一部の人の問題」といった偏見を強めてしまいかねない。諸外国でも,「精神疾患」という言葉は,強いラベリングとなりやすいため,自殺防止のためには,メンタルヘルス対策全体の底上げと充実を図るところが多い。それにより,自殺率を50%減少させたというデータもある。
自殺予防に医療が必要になることもあるが,精神医療対策を先行させるのではなく,内科,小児科,外科,産科,救命救急,かかりつけ医など,プライマリケア現場におけるメンタルヘルスケアのスキルの向上を図ることで,生活者本位の自殺予防に取り組んで行くことが,本来のあり方であろう。
自殺予防につながる心の健康や自殺を身近な問題としてとらえ,その対処方法を広めてゆくための学校,職域,地域における教育も必要だ。自己破壊衝動や怒りのコントロール,喪失体験とグリーフワーク,精神作用物質(薬物やアルコール)やギャンブルなどに頼らないストレス対処法,自らの感情を伝達するコミュニケーションスキルや傷ついた自尊感情の回復方法などがあげられよう。
WHOの自殺報道に関するメディア向け提言の一つに,「自殺以外の解決方法に焦点を当てる」というのがある。生きてゆくうえでの困難を解決する方法の一つとして自己破壊的行為や自殺があるが,その予防のためには,それ以外の解決方法,すなわちオルターナティヴについて考えることが大切だという。
自殺関連行動の幅は広く,生きたいという意図と,死にたいという意図がバランスをとっていると見ることができる。他の人には取るに足らない出来事でも,自殺を考えている人にとっては,こうしたバランスを崩し,事態を左右することがある。身近に自殺を考えている人がいれば,なによりも自殺以外の解決方法をともに考えて行く作業が必要だ。 |
|
|
そのためには,自殺や当人が困っている問題について,ストレートに尋ねることが大切である。「自殺することを考えているということですね?」「それほど,あなたを落ち込ませていることがなになのか,聞かせてくれますか?」やっとこのことを話せる人が見つかったと思える関係づくりからはじめてみたい。 |
|
プログラム
開 催 日 |
テ ー マ |
講 師 |
2007年
7月11日(水) |
思春期のメンタルヘルスについて |
高松赤十字病院カウンセラー
島津 昌代 |
9月12日(水) |
やさしい統合失調症の話 |
精神科医
花岡 正憲 |
11月14日(水) |
精神病の早期発見と回復のために |
保健師
中村 照江 |
2008年
1月 9日(水) |
生活習慣病とメンタルヘルス |
糖尿病専門医
冨岡 幸生 |
3月12日(水) |
心の病と社会参加 |
保健師
中添 和代 |
|
・ |
場 所:高松市男女共同参画センター |
・ |
日 時:奇数月第2水曜日18時30分〜20時30分 |
・ |
事前申込は必要でありませんが参加費として500円が必要 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
編集後記:日本漢字能力検定協会が公募で選んだ今年の漢字は「偽」に決まりました。なにかと「半真半偽」の世の中,ライフスタイルも半信半疑の方が,余計なストレスを抱え込むことも少なくてすみそうです。今年1年間,マインドファースト通信のご愛読ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。(H) |
|
|
|
|
|
|
|