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講師 マインドファースト理事 精神科医
花 岡 正 憲 |
近年,統合失調症の治療は大きく変化した。初期に適切な対応を行なうことにより,入院を回避し,慢性化を防ぎ,有病率を下げることが可能となっている。そうした中で,日本は,病状が悪化して入院といった従来からのステレオタイプなやり方から脱皮できず,長期化ないし慢性化させやすい。
統合失調症になりやすい人は,素質的にストレスに対する耐性が低く,こうした人が生活上のストレスを受けて発症するとされている。15歳から35歳までの発症が,全体の約80%を占めることから,思春期ないし青年期における心理的社会的変化がストレスとなって発症すると考えられる。
いきなり急性期がはじまるわけではなく,必ず前兆,すなわち前ぶれの症状がみられる。この事実は,再発防止という点で大切であるだけでなく,思春期あるいは青年期のメンタルヘルスへの取り組みが,統合失調症の早期の発見とタイムリーな対応の可能性を開くという点で意味が大きい。
薬物治療によく反応する病気ではあるが,拙速な薬物療法は禁物である。不快な副作用や過鎮静を防ぐために,まず低容量からはじめ,急な増量や多剤併用は極力避ける。
本来回復する病であるから,入院は回避し,24時間のサポート,家庭訪問,危機介入などにより,とにかく回復過程にのせることである。ほとんどの場合,家族との綿密な連携を図りながら,48時間から72時間で急性期の危機を乗り切ることができる。
順調な回復と再発防止には,環境調整も大切である。家族も情緒的混乱から,患者にとってストレスとなりやすいコミュニケーションをとりがちである。家族のストレスの軽減を図るために,とりわけ家族に対する積極的支援は欠かせない。
回復期に入ると,心の健康づくりの一環として,ストレスマネジメントが大切になってくる。復学や就労は焦らず,ゆとりを持った生活時間を過ごす中で,まず楽しめることからはじめる。そのためには,ライフスタイルを変えることや社会生活技能の習得が必要になることもある。
今日,統合失調症の治療はさらに大きく変わりつつある。薬物使用と入院を低減するための取り組みが諸外国で行なわれており,思春期青年期のメンタルヘルスへの取り組みが統合失調症の発症そのものを防ぐ可能性も出てきている。(本文は9月の心の健康オープンセミナーの講師による要約です)
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9月10日から12日の3日間,オーストラリア,メルボルンのコンベンション・センターにおいて,「第5回精神的健康の増進と精神及び行動の障害の予防に関する世界会議」が開催されました。40か国から864名の参加があり,マインドファーストからは,本丸,中添,花岡の3名が出席しました。
(1)精神的健康の社会経済的決定因に関する研究及び評価 (2)権利擁護,政策立案及び体制強化 (3)分野を超えた連携の構築 (4)学習と実践に関するプログラムの策定,実施及び応用 (5)人材確保,地域づくり,組織育成の可能性 (6)情報伝達とマーケティングの6つの領域から370の演題が提出され,3日間にわたり報告と意見交換が行なわれました。
今回の会議は,「From Margin to Mainstream(辺縁から主流へ)」をメインテーマに掲げ,ともすれば健康問題における周辺的課題とみなされがちであったメンタルヘルスを,これからは主要課題として捉えなおすところにねらいがありました。そのために,世界の動向を踏まえた上で,社会参加,差別と多様化,バイオレンス,財源確保といったいくつかのキーコンセプトに基づいてプログラムが組まれておりました。
詳細はあらためてご紹介いたしますが,精神的健康づくりと精神及び行動の障害の予防の大切さを再認識するとともに,これからのマインドファーストの活動にとっても貴重な指針を得ることができました。(M.H) |
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編集後記:表紙だけ変わり中味は変わらずといった最近の風潮の中,心の健康オープンセミナーは,テーマと講師は昨年と同じですが,毎回内容のバージョンアップに努めております。どうぞご安心してご参加下さい。(H) |
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