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講師 マインドファースト理事 糖尿病専門医
冨 岡 幸 生 |
生活習慣病の増加が社会問題となっていますが，日本では特に肥満や糖尿病の頻度が増加しています。一般的には，運動不足や食事の西欧化が原因であると考えられていますが，その基にはメンタルヘルスの問題があります。
食欲は脳（中枢神経）の働き（食べたい，おいしい，食べてもいいなどの感覚）と代謝（食べて血糖や脂質が上昇するなど）によってコントロールされています。そのため，脳も食欲やエネルギー消費を介して生活習慣病に深くかかわっています。ストレスは人間として成長するために不可欠のものですが，現代のように過剰な慢性のストレスは，精神的に睡眠障害や欝を引き起こします。また脳から分泌される神経伝達物質を介して消化管や脂肪細胞に働き，過食や肥満を引き起こします。過食は身体にとって不都合ですが，過食することによって過剰なストレスから自分を守るメカニズムなのかもしれません。
睡眠時間と糖尿病の発病には関係があること，糖尿病の人には鬱病が多いこと，またストレスが大きいほど喫煙本数が多く，喫煙本数が多いほど糖尿病になりやすいということが知られています。しかし，これまでメンタルな部分（中枢神経）と生活習慣病についての関係を説明するような研究結果は殆んどありませんでした。ところが最近ようやく，食事摂取量や内容と中枢神経との関係が解明されてきました。
たとえば，胃から分泌されて食欲をコントロールするグレリンは，成長ホルモンを分泌させたり，砂糖のような嗜好食品に対する食欲を上げることが分りました。また，オレキシンは睡眠障害や過活動の時に脳から分泌され，食欲を増加させて肥満を引き起こします。咀嚼と肥満との関係も分ってきました。十分に咀嚼をすると脳からヒスタミンが分泌され，満腹感をもたらせて食欲を落とすだけでなく，内臓脂肪を燃やして痩せます。弥生時代は一回の食事時間は平均50分で咀嚼回数は4000回，平安時代から昭和10年代までは平均食事時間が20〜30分で咀嚼回数は1400回であったのが，現代は平均食事時間が10分で咀嚼回数が500回と極端に少なくなっています。
忙しくなって過剰なストレスにさらされている現代人は過活動で睡眠不足となり，咀嚼回数も少なくなっています。だとすれば，運動不足になるだけでなく，砂糖や脂肪を多く含む食事や間食をたくさん食べて肥満になるのは当たり前だとも言えます。生活習慣病対策は，「食事を減らして運動しましょう」ではなく，メンタルヘルスを考えるところから始める必要があるの |
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| ではないかと思います。（本文は1月の心の健康オープンセミナーの講師による要約です） |
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| 境界性人格障害（BPD）は，自殺企図の反復，慢性的空虚感，衝動性，見捨てられ恐怖，不安定な人間関係，不適切な怒りなどを特徴とする感情のコントロールができない精神疾患と定義されている。BPDの75％に自傷行為が見られ，10％が自殺を図ると言われる。今日BPDの治療をリードするワシントン大学のマーシャ・リネハンは，「BPDは，いわば心理学的な第3度火傷である。感情の皮膚を持たないために，わずかに触れたり，動かしたりしただけで，ひどい苦痛を覚える」と言う。従来BPDという病名は，患者が好きになれなかったり，患者に手を焼いたりしたときに，治療者の敵意の「ゴミ箱診断」として使われがちであった。2000年全米人口中2％がBPDと推計されていたが，2008年の研究では成人人口の5.9％がBPDと診断されている。BPDと診断される人が増えた理由の一つに，この数年BPDの治療が劇的に進歩したことがある。リネハンは，「BPDの患者は，感情のコントロール能力が身についていないだけである。患者が失敗するのではない。失敗するのは治療と治療者である」と言う。「死のうと思う」と言う患者には，「治療を途中でやめないと同意してくれたと思っていました」と答える。ここにリネハンの治療的アプローチの真髄がある。（TIME 2009年1月19日号から要訳 M.H） |
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編集後記：米国でオバマ新大統領が誕生しました。就任式は大勢の人たちの期待と歓喜で溢れていました。一方警備もこれまでになく厳重でした。「光」の部分が大きくなるとそれだけ「影」の部分も広がります。今年もマインドファーストは，光だけを追うことなく見えにくい影の部分にも目を向け，着実な歩みを刻んでゆきたいと思っております。（H） |
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