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マインドファースト通信編集長 花岡正憲
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オーストラリアのbeyondblue(オーストラリアうつ病全国プログラム the national depression initiative)は,地域社会におけるうつ病,適応障害,不安障害及びそれに関連した薬物乱用障害についての意識啓発とそれによるスティグマの低減を主な目標としている非営利の全国組織である。
うつ病は,今日,どの国でも社会経済的負担が大きい健康障害の一つとなっている。2000年,WHOは,今後も世界的にうつ病による負担が増大して行き,2020年には死亡原因や障害原因からみて,2番目に負担が大きい健康問題になると予測している。beyondblueは,こうしたWHOの将来予測を先取りする形で,州と地方政府の超党派で設立されたものである。精神的健康問題に対する地域社会の態度やあり方を大きく変えるために,この種の国家的プログラムが行われているのは,今のところオーストラリアだけである。
beyondblueの主なプログラムを以下に示す。
・社会啓発とスティグマの解消(destigmatisation):うつ病の症状,原因及び治療法に関する認識を高め,その影響を受けている人々の生活の向上を図るとともに,スティグマを解消する。
・消費者及びケアギバーの権利擁護:うつ病の人々と家族など関係者が抱える課題に対して,地域社会全体の反応や態度を変化させ,権利擁護を促進する。
・予防と早期介入:うつ病の予防及び早期介入を推進するとともに,これらに関するプログラムを厳密に評価しながらプログラムをサポートしてゆく。
・プライマリケア(初期治療):地域教育と治療現場の役割の改善に向けて,プライマリケア現場の実務者を支援してゆく。
・研究:うつ病に関連したサービスの供給と治療プログラムの効果測定に関する研究を推進する。
・パートナーシップ:メンタルヘルス関係者や保健関係機関だけでなく,幅広く企業や地域社会に根ざした組織との強いパートナーシップを大切にして行く。
beyondblueは,うつ病に関する専門知識の集積を行うために,保健サービス,学校,職場,大学,メディアや地域組織をはじめ,うつ病を抱えて生きる人々とのパートナーシップを大切にしている。
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beyondblueは,一部の重症のうつ病における抗うつ薬の有効性を認めながらも,薬物療法は一つの方法に過ぎないことや,うつ病には多くの治療法があるという事実を踏まえ,うつ病を抱えた人とその援助者に対して,病気についての正しい知識や効果的な治療法に関するウェブでの情報提供や電話による相談や苦情受付の窓口(info
line)を開いている。
beyondblueでは,2000年10月の設立以来,管理運営面でも,またプログラムや研究活動面でも,製薬メーカーからの資金援助や協力は一切受けていない。うつ病と不安障害及びその関連障害など,すべての活動分野における実証的(evidence-based)アプローチの推進を可能にするためには,このようにして独立性と中立性を確保することが不可欠であるという。
当初2000年から2005年の5か年の財源措置でスタートしたbeyondblueは,2006年から2010年まで第2次beyondblueとして延長された。第1次beyondblueでは,主にオーストラリア政府とヴィクトリア州が基金へ出資を行なったが,第2次ではすべての州と地域が出資している。
ちなみに,オーストラリア政府の出資金は,第1次が1,750万豪ドル(約10億円),第2次は3,600万豪ドル(約21億円),ヴィクトリア州は,第1次及び第2次ともに1,750万豪ドルである。beyondblueは,2010年以降も政府や州及び地方自治体との協力の下にプログラムと活動を拡大することを目指している。(このコーナーは随時掲載いたします。次回はbeyondblue(下)「プライマリケアにおけるうつ病のガイドライン」を掲載いたします) |
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編集後記:オーストラリアで大規模なブッシュファイアーがありました。いろいろな団体がヘルプサイトを開いております。私たちの社会も予算のバラまきではなく,不測の事態に,人それぞれの事情に沿って各種の支援が迅速に行えるように,地域力を高めるための政策の必要性を痛切に感じております。(H) |
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