国際協力 国際交流

第5回精神的健康の増進と精神及び行動の障害の予防に関する世界会議(2008年9月10日-12日)に参加して


国際交流をとおして肌で感じたメンタルヘルスの多様性

マインドファースト 理事長 本丸真実

自分の英語力も顧みず,ただ「カンファレンスに参加したい」という想いだけでメルボルンへ向けて飛びたちました。学会や会議と名の付く会合に身を置いたことが一度もなかったので,今回の3日間のカンファレンスは何もかもが新鮮で,カンファレンスの雰囲気を肌で感じることが出来,とてもいい経験となりました。スポンサーの充実,システマティックなプログラムデザイン,豊富なセッション,数多くのポスタープレゼンテーション,多彩なアトラクション等々,参加者にとって快適で,楽しい時間を過ごせる工夫がよくされていたのも,5回目を数えるカンファレンスであったからかもしれません。

ここで,私が参加したセッションをいくつか紹介したいと思います。

“暴力”の問題は,やはり世界共通な問題であると痛感しました。参加したセッションでは,南アフリカを中心に国際的に活動している“Sexual Violence Research Initiative”という機関の調査研究の発表がありました。メンタルケアの早期介入のプログラムも整っており,被害者の自己肯定感の回復を目的とした心理社会的なサポートシステムを研究,提供する機関があることを知りました。

“差別”の問題は,人種,民族,宗教など文化的なもの,ジェンダー,経済的なものなど,奥深い問題であります。それぞれが生まれ育った環境の影響は大きいですが,差別や偏見を払拭することは可能だと思います。参加したセッションでは,homophobiaをなくすプログラムが学校で行われているオーストラリアの取り組みが紹介されました。マジョリティ,マイノリティの概念は,人間が集団で社会生活をおくる上での自然発生的な差別であると思うので,優劣をつけるものではないという考え方を浸透させることが大切であると思いました。

Zippy’s friends」という,イギリスで作られた子どものためのメンタルヘルスプログラムを紹介したセッションに参加しました。現在13カ国で使われており,プログラムの柱となる6つのコンセプトが,私の傾倒するアタッチメント理論に即し,臨床家としての実践に役立つのではないかと感じ,とても興味を持ちました。

クロージングセレモニーでは,さまざまなメンタルイルネス(精神疾患)を抱えている人たちが,バンド演奏をしたり集団でコーラスを披露してくれたりしました。皆楽しそうでした。ここまでに至った過程が想像できる分,聴いている側はその姿と歌声に強く心を打たれました。音楽は世界共通言語,どんな人の心も開かせてくれる素晴らしい芸術であると思いました。

自分自身,いままで心理学的な見地からメンタルヘルスを捉えがちでしたが,もっと広く,大きな範囲で考えるものなのだ,ということに気づかされました。メンタルイルネスにある人々が,生きていくことに前向きになれるにはどうすればよいのか。病気の治療はもちろんのこと,経済的な支援,社会参加が可能になるような社会システムの構築,差別や偏見をなくすことなど,課題は多岐にわたるので,メンタルヘルスケアは国レベルの規模で取り組んでいく必要があると感じました。その中で,今自分が出来ることは何か,これからのために何をしなければならないのか,考えるチャンスを持てたと思います。

国際的なカンファレンスに参加するということは,他の国の動きを知ったり,欲しい情報を仕入れたり,多くの人と出会ってコネクションを作ったりすることが世界規模で出来るといったメリットが大きいといえます。世界の中の日本,日本の中の高松で現在日常生活を送っている私ですが,常に“Thinking Globally,Acting Locally”のスタンスを取りながら,自身の専門性を磨いていきたいと思います。


精神保健の今日的課題:スティグマ,差別,暴力,貧困の解消に向けて

マインドファースト 事務局長 中添和代

オーストラリア・メルボルンは,日本から国際線でブリスベンを経由し,乗り継ぎ時間を除くと約10時間,時差1時間の距離にあります。メルボルンは,人口380万人,オーストラリアの第二の大都市で,キャンベラができるまではオーストラリアの首都でした。碁盤の目のような都心には,ビクトリア様式の荘厳で華麗な建物が並んでいます。

世界会議の概要

2008年9月10日から12日までの3日間,カーターセンター(USA),クリフォード・ビアーズ財団(UK),WFMH(世界精神保健連盟),VicHealth(Aus.),WHOの共催で,第5回精神的健康の増進と精神及び行動の障害の予防に関する世界会議がオーストラリア・メルボルンのコンベンションセンターにおいて開催されました。会議には,約40カ国から864名の参加があり,マインドファーストから3名が参加しました。

この会議は,2000年12月のアトランタでの初回開催以来,ロンドン,オークランド,オスロと隔年に開催され,世界中のメンタルヘルスの増進や精神疾患の予防に関与するユーザー(当事者)や家族をはじめ医療,保健,福祉,教育,司法,労働,芸術関係者などが一堂に会する会議です。

今回の会議は,「From Margin to Mainstream(辺縁から主流へ)」をメインテーマに掲げ,ともすれば健康問題における周辺課題とみなされがちであったメンタルヘルスをこれからは主要課題として捉えなおすところにねらいがありました。そのために,世界的動向を踏まえ,社会参加,差別と多様化,暴力,財源確保といったいくつかのキーコンセプトに基づいてプログラムが組まれ,6つの領域から口演341題とポスター117題が提出され,報告と意見交換が行われました(表1参照)。


表1.発表 演題の分類


マインドファーストのメンバーであり,精神保健医療福祉の専門職という立場にある私は,本会議には,諸外国の現状を知り「支援」について考える機会,さらには,マインドファーストの活動に生かすという目的で参加しました。

まずオーストラリアの精神保健と精神疾患に関して簡単に記します。

オーストラリアでは,1992年からNational Mental Health Strategyという国家規模の精神保健戦略が進められ,単科の精神病院を解体して,地域精神保健医療サービスへと移行しました。解体された精神病院の職員は,地域精神保健サービスのマンパワーとなっています。

この戦略の目的には,(1)精神保健の推進と障害の予防,(2)障害による影響(impact)の軽減,(3)精神障害者の権利の保障を挙げています。

また,精神疾患の初期治療において,日本では専門医を受診しますが,オーストラリアは,一般医が初期ケアにあたり,必要時,第2次ケアとして精神科医につなげていきます。


分科会から

演題の多くは,開催地であるオーストラリアからのものでしたが,その中でも特に関心を持った演題についてご紹介します。

その一つは,「精神疾患の親の子どもと家族」に対する取り組みです。日本の支援の中心は,精神疾患をもつ当事者になりがちですが,その子どもや家族をケアする介入のポイントやスティグマと差別の減少をめざした共同体レベルにおける活動が報告されました。親がアルコール・薬物依存症の子どもを対象とした調査では,子どもに対する差別の要因として,親がいつ再発するか入院するかに関する不確実性,精神的な病気は身体的な病気よりも家での問題を誰にも話すことができないこと,子どもを保護することの認識の低さなどが明らかになっています。子どもの支援者には,教員や友人,同級生なども含まれていますが,発表者が強調したのは,“子どもに関わる者は,自分の目をよく開いて,よく感じろ!”というメッセージでした。他の調査でも,精神障害者が働く上で,重要なバリアはメンタルヘルスワーカーにあり,そのバリアが当事者である親とその子どもおよび家族への有効な支援を妨げると述べました。

次に,南アフリカのマスメディアを通じたドメスティックバイオレンス(DV)の知識普及と意識啓発の実践報告です。テレビやラジオを通じての数分間の連続ドラマを放映するのですが,その効果は,新しい法律の実行にも影響を与えているようです。実際に,その映像を鑑賞しましたが,暴力を振るっている夫から出た言葉を聞いて(実際は,英語の字幕から)「俺の妻だ。他人は,口出しするな」は万国共通なのだと思いました。

また,ベトナムの若者に将来の夢を与える活動報告も印象に残っています。ベトナムというと戦争や貧困によるストリートチルドレンの問題が世界的に有名ですが,KOTOの活動は,そうした子どもたちの生活に変化を与えました。その内容は,レストランおよび職業訓練プログラムです。そこでは,6カ月間の言語(英語)教育と健康,衛生,スポーツおよびその他の生活技能を教えます。KOTOは,就職率100%パーセントで卒業させることを誇りとしています。また,KOTOレストラン・スタッフの35%は元卒業生です。会場の入口で,配られるリーフレットには,活動内容に加え,「あなたも支援できます」と言うメッセージと会費や寄付などの情報が記載されていました。会場からKOTOのバックには政府の財政支援があるのかという質問がありましたが,回答は「ない」でした。当初は,英国,オーストラリア,デンマーク,スイス,ドイツなどの大使館やUNESCOからの財政支援があったようですが,現在のところ決まった財政支援のルートを持たず,今後はトレーニングなどに必要な資金は,レストラン経営をはじめとした各種のサービスなどの収益で賄っていく方向を目指しています。


米国家族療法アカデミー(AFTA)第34 回年次総会 オープンカンファレンスに参加して
2012年5月17日-19日,サンフランシスコ
マインドファースト理事 花岡正憲
精神病早期診断とマネジメント-家庭医のための手引書-
2005年4月
翻訳・頒布
The Early Diagnosis and Management of Psychosis -A Booklet for General Practitioners-
第28回世界精神保健連盟世界会議に参加して
2005年9月
マインドファースト事務局長 白石裕子