胃がん検診において内視鏡(胃カメラ)を使うことが増えている中で,2013年8月厚労省は,研究班の結果を踏まえ,内視鏡検査により胃がん死亡が減少する科学的根拠が不十分と判断し,公費で行う検診としては「推奨しない」と結論づけた。内視鏡はがんを見つける精度は高いが,治療が必要のない早期のがんも発見する恐れがあるというのが理由である。
成人を対象とする健診においても,メタボリック症候群の診断の医学的価値や基準値の科学的根拠が疑問視されている。早期診断が必ずしも生活の質や生命予後を改善しないという理由から,検査項目や感度を見直すのが世界的趨勢である。そうした中で,わが国では,オプションとされた検査項目がルーティン項目に入れられるような混乱も起きている。
予防医学や健康増進への関心の高まりが,情報社会における不安産業という新たな市場を生み,過剰診断や正常の医療化という流れが起こりやすくなっていることは事実である。子育てに関わる関係者は,こうした健康産業の網の目があることも知っておく必要があろう。
2013年5月,DSM-IV(アメリカ精神医学会精神障害の診断と統計の手引き第4版)の改訂版であるDSM−5が公表された。発達障害関連では,広汎性発達障害の下位分類が廃止され自閉症スペクトラム障害として統合された。
DSM-5では,アスペルガーという概念も削除された。独立した症候群とみなす診断学的根拠がなく,自閉症スペクトラム上の特徴ある一群という見方になっている。こうした議論は,早くからなされていたことではある。DSM-5によって,これまでアスペルガー障害とされた人のうちで,自閉症スペクトラムに残る人と,これからはずれる人が出てくることは確かなようだ。正常と異常の境界は,本来明確ではない。自閉症を自閉症と正常の連続体の中でとらえようとする。障害に対する考え方としては,多少の進歩と見ることもできよう。自閉症をはじめとした発達障害に対する考え方は,固定的なものではなく,今後も変わっていくことが十分予想される。
通常学級でも,10%が発達障害であるという数字が示されている。そもそも,この異常とも言える多さが,正常範囲の子どもの行動について精神医学的見方が広がりすぎて,他の見方が入る余地がなくなっている現れと見ることもできる。
発達障害の早期診断は,就学前から乳幼児健診時,さらに胎生期へと前倒しされる傾向にある。今日,周産期のみならず,霊長類研究やロボット(人工知能)の分野でも胎児・新生児研究が行なわれている。胎児環境にはじまる人生早期の発達環境に遡って,この問題を解明しようと言うことだ。
発達障害については,バイオマーカーも見つかっておらず,治療法も確立していない。いずれにしても,DNA以上に,良くも悪くも支援を含めた心理社会的環境の方が,子どもに多くのものを伝え,その発達に影響を与える。この事実を超えるものは,今のところ見当たらない。
人が子どもの利益のためと思ってしていることが,意図に反して大きな損失をもたらすことがないとは言えない。そもそも発達とは何か,さらに発達とは誰のためかをあらためて考えてみる。関係者にはそうした冷静さが求められよう。