精神科病床削減政策
   〜誰も責任を取ろうとしないこの国の姿〜
マインドファースト通信編集長 花岡正憲
厚生労働省は,全国に34万床ある精神科病床を大幅に削減する方針を固めた。入院治療の必要性が薄いにも関わらず,地域で受け皿がないために長期にわたり入院している社会的入院の解消に向けて,新たに「地域移行支援病床」という区分を設定する。地域移行支援病床では,生活力を向上させる訓練を提供し,より生活の場に近い病床として患者の退院を促し,患者が退院して空いた病床は福祉施設などへの転換を認めるという。
10年前の2004年,厚生労働省は,1999年の患者調査に基づいて,「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を示し,全国で入院中の32万人の患者のうち,約7万人を10年間で地域移行させると明言した。精神科病床の機能分化を進め,精神障害者の地域生活支援策を強化するなど,社会的入院者の退院促進を図るとした「改革ビジョン」は,関係者の注目を集めた。しかし,この10年,退院促進は一向に進んでいない。病床数も当時とほとんど変わらないままである。今回の精神科病床削減方針には,既視感を覚えずにはいられない。
2011年の医療施設調査では,わが国の精神科病床は,344,047床,うち318,000床が民間病院である。平均在院日数は298日で,諸外国と比較して極端に長くなっている。さらに,入院者の半数近くが65歳以上の高齢者である。欧米では,入院者のうち統合失調症が占める割合が10パーセント台であるのに対して,60パーセント近いのもわが国の特徴である。新規入院者の入院期間は短くなってきたとはいえ,統合失調症に限れば,平均在院日数は572日で,1年以上5年未満入院中の者が全体の27パーセント,5年以上の者は半数に及ぶ。
2002年3月第22回日本社会精神医学会WHOシンポジウムにおいて,WHO精神保健及び物質依存部長ベネデット・サラチェーノ氏は,次のように日本への提言を行なっている。「日本は精神科病院を少なくし,収容型の精神科病床を削減させ,地域処遇の受け皿づくりを進めること。そして病床削減によるリソース(人的資源)を病院からコミュニティケアへシフトさせることは緊急課題である。このプロセスを進めるために,当事者,家族,非政府組織が精神障害者の権利擁護活動などに参画して,精神医療の情報を市民へ公開する。特に専門家である精神科医が,コミュニティケアに強い関心を持ち,パートナーシップを深めて,これを推進することが必要である」という。
1980年代のイタリアの精神医療改革は,病院の中からの改革であった。その第1歩は,入院患者一人ひとりの話に耳を傾けることから始まっている。患者の話に耳を傾けるとは,ただリップサービスの質を高めると言うことではない。患者の現実的要求にこたえていくということである。患者が地域で生活を立ち上げると,病院のスタッフが病棟を閉じて患者について地域へ出て行く。そして,そこが元病院職員の新たな仕事の場になって行く。本来,患者にとって良いことは,医療従事者にとっても良いことであるはずだ。
わが国では,病床の90パーセント以上が民間病院で,内側から病床を減らす改革を進める上での大きなネックになっている。病床削減によるリソースをコミュニティケアへシフトさせるためのインセンティブが働きにくい。過去10数年,福祉ホームや生活支援施設を開設してきた医療機関の中には,自らの病院へ入院している患者を施設へ移すことには消極的で,家庭や地域で生活を送れている人まで施設入所させるところもあるなど,逆に,精神科病院と社会復帰施設による囲い込みが進んでしまった嫌いがある。
入院期間の長期化の表向きの理由は,家族や保護者からの引き取りを拒まれる,入院中に家族と離別する,経済的基盤を失う,地域の受け入れ施設の未整備などがあげられている。しかし,患者が医師に退院を申し出ると,「住むところがない」「お金がない」「仕事がない」「みてくれる家族がいない」「まだ薬が多い」などを理由に退院を先延ばしされるという話を聞くことがある。何よりもコミュニティケアへの関心が乏しい精神科医の不作為による入院の長期化によるところが少なくない。
2006年にも,厚生労働省は,「退院支援施設」を提案したことがある。これは,精神科の入院病棟を改装し,地域で暮らす様々な習慣や技術を身につけ,いずれは外の世界へ引っ越していくというものを描いていた。これに対しては,患者は退院扱いになるが,形を変えた入院になりかねないからと,患者や関係者の間で反対の声が上がったことがある。
日本の人口は世界の総人口の1.8%だが,精神科病床は地球上の18%を占めている。先進国の中では,突出して精神科の入院患者数が多く,在院日数が長くなっている。費用対効果と言う点からも,日本は福祉とメンタルヘルスにお金を使っていないと,OECDは指摘している。こうした中で,見かけの上の入院者数と医療費を削減し,国際社会における国としての面子を保とうしているのであれば筋違いだ。今回の地域移行支援型病床も,看板のかけかえだけで,患者にとっては通算では在院期間が長くなってしまいかねない。
そもそも長期入院している人の退院促進に向けて,訓練や社会生←




→活技能の習得を前提とするのは,欺瞞としか言えない。患者から大切な生活時間を奪っておきながら,何を訓練し,どのようなスキルを身につけさせようというのか。これでは退院促進のハードルを高くしてしまうだけだ。患者にしてみれば,何かと言いがかかりをつけられて退院を先送りされるとしか思えない。まず,病院の外に住む場所を確保し,地域での一歩を踏み出すことからはじめるべきだ。道に迷えば,人に道を尋ねたらよい。転んだ時は,助けを呼べばよい。散歩や外出の前に,練習など無用である。受け皿とは,物理的器ではない。患者が望んでいる方向で地域での生活を支えて行くという明確な意思を持った人との関わりのことだ。入院の長期化で,家族,友人,職場,地域社会との断絶が起きることは事実だ。この喪失を越えて患者がエンパワーされる人間関係が大切である。
精神科病院増設の歴史は,精神保健対策,入院制度,精神医療,地域社会の問題など,いくつかの要因が複雑に絡み合ったものだ。ここにも病める日本的システム,ムラ社会の姿が見え隠れする。社会的入院者の解消については,これまでにも何度も話題になりながら,実現にいたっていない。問題の本質は,過去の反省と被害者補償の観点が欠落していることだ。収容政策によって発生した多くの長期入院者の社会復帰は,国と都道府県の責任において,恒久救済事業として取り組んでいくための特別立法措置が必要であろう。「過去に眼を閉ざす者は,未来に対しても盲目となる」とは,ドイツの政治家リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッガーの言葉である。積年の課題は,過去の過ちに誰も責任を取ろうとしないこの国の姿を変えていくことでしか,解決の道はない。
第109回理事会報告
日 時:2014年4月23(水)19時00分〜21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第4会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:なし
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 柾氏不在の対応に関する事項:相談について,クライエントに今しばらく再開出来ない旨を伝える。ファミリーカウンセラー養成講座の講師については,柾氏からの意向を待つことが承認された。
第2号議案 2014年度(2015年度事業)香川県共同募金会の広域福祉助成事業に関する事項:「おどりば」の申請並びに相談事業について助成の対象となるのかについて,情報収集も行うことが承認された。
第3号議案 2014年度事業計画に関する事項:新規事業として,会員の参加できる事業として定例会開催の議論の中でセミナー開催の案が出された。これについては,引き続きファミリーカウンセラー会議の議題として取り上げることで承認された。また,会員に向けて,事業に関するブロシュール等の印刷物を配布することが承認された。
第4号議案 相談事業の財源に関する事項:2015年度からの相談事業の財源について厚生労働省の助成事業についての情報収集を行いメーリングで紹介することが承認された。
第5号議案 高松市からの委託事業に関する事項:高松市からの委託事業,地域生活支援センター事業など,当会の事業として考えられるものについての情報収集を行っていくことが承認された。
第6号議案 事務局体制に関する事項:現在の体制で今年度はスタートすることが承認された。
第110回理事会報告
日 時:2014年5月12(月)19時00分〜21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 2015年度実施の共同募金助成申請に関する事項:「おどりば」「ピアワークス」を合わせてグループミーティング事業として,ファシリテーター謝金を計上すること。また,ヒアリングのさいに指摘があった電話回線については本事業専用電話として事業計画を作成し,13日に提出することが承認された。
第2号議案 2014年度総会に関する事項:2014年度新規事業として,普及啓発事業に公開セミナ―をその他事業に認定NPO法人取得記念事業を加えることで承認された。公開セミナ―は,高松市男女共同参画センター市民企画事業の助成事業の活用も図ること,及び認定NPO法人取得記念事業に100,000円を計上することが追加承認され,経常費用総額5,937,000円とすることで承認された。この後,総会当日の役割分担を決定した。
第3号議案 グループホームネット香川のスーパービジョンに関する事項:4月21日,2013年度のグループホームネット香川のスーパービジョンの振り返りが行われた。同ネット側からは,内田理事長及びサービス管理者の増田氏,当会からは中村会員が出席した。2014年度については理事長が同ネットの理事長と協議することが承認された。
第4号議案 認定NPO法人取得に関する事項:認定NPO取得に向けて,事務局レベルで香川県の担当課と具体的協議を進めて行くことが承認された。
第5号議案 高松市からの委託事業に関する事項:高松市からの委託事業並びに地域活動支援センター事業などについて情報収集を行っていくことが承認された。
第6号議案 ピアサポートラインのピアサポーターに関する事項:現在,新たなピアサポーターの希望者について,ピアワークスへの出席と事前研修を条件に,ピアサポーターとして活動に参加を認めることが承認された。
第7号議案 ファミリーカウンセラーの活動のルールづくりに関する事項:審議未了
 編集後記:日本精神神経学会は,2012年2月から17回にわたり関連学会と統一用語に関する検討会を重ね,このたび精神疾患の病名の新しい指針を公表しました。患者の理解と納得が得られやすいものであること,差別意識や不快感を生まないものであること,国民の病気への認知度を高めやすいものであることなどを基本方針としています。因みに,「学習障害」は「学習症」,「注意欠陥多動性障害」は「注意欠如多動症」,「アスペルガー症候群・自閉症」は「自閉スペクトラム症」となり,特に児童思春期の疾患では,当人や親に大きな衝撃を与えるとの理由で,「障害」を「症」に変更したものが目立ちます。「性同一性障害」も「性別違和」に,「パニック障害」は「パニック症」に変更になる一方,「アルコール依存症」は「アルコール使用障害」になりました。検討会では,診断と治療への抵抗感が少なくなることから,過剰診断と過剰治療を懸念する慎重な意見も少なくなかったと聞きます。「うつ病は心の風邪」というキャッチコピーは,気軽な受診を促すことを狙ったものですが,いざ受診してみると,回復までに意外と時間がかかることもあれば,およそ風邪とは似て非なる治療的対応をされてしまうというのが現実です。精神的健康問題は,診断や治療を急ぐ必要がないものが少なくありません。診断や治療に前のめりになるあまり,クライエントひとり一人が抱える事情や健康問題のファクトがないがしろにされるようなことがあっては困ります。(H)