消費されるコトバ、消化されない思い
~「言葉の力」について思うこと~
マインドファースト理事長 島津昌代
最近、よく耳にする表現に「言葉の力」というものがある。ためしにGoogleで検索してみると約 8,630,000件も該当した。つまり“「言葉の力」をググってみたら約 8,630,000件ヒットした”のである。
日本語は、昔から外来語を取り入れたり、それを省略・短縮したり、日々変化してきた。それは日本語に限ったことではないだろう。新しいものが発見されたり作られたりすることで、私たちの持つ既成の概念の枠におさまらないモノやコトは、それらを表す新しいコトバを必要とする。それが造語であることもあれば、既にあるコトバの意味を拡大して使われていくこともある。そして、気がつけば同じコトバを使いつつも、全く違う意味が付与されていることも少なくない。ひとつ例をあげるならば、「やばい」がそうである。「やばい」という語は「危ない」「悪事が見つかりそう」「身の危険が迫っている」など不都合な状況を意味する、もとは盗人や香具師などの隠語だったものである。それが1980年代の若者の間で「怪しい」「恰好悪い」の意味として用いられるようになり、90年代から「凄い」「のめり込みそうなほど魅力的」といった肯定的な意味が派生してきた。現在では否定的にも肯定的にも用いられる語になっており、それがどちらで使われているかは文脈および非言語的なメッセージから読みとらなければいけないことになっている。つまり、
空気が読めているかどうかが問題になり、ここで意味を取り違えると、コミュニケーションのズレが生じる。
同じコトバを持つものは、それが意味するところを共有することができるから「仲間」となり、それが理解できないものは「仲間はずれ」となる。広い規模でみると国語が統一されて国となっているわけだが、卑近なところでは各種業界用語もそうである。そして、日常的にもある人を話に入れたくない時や自分の立場がちょっと違うことを示す時に、わかる人にはわかる、わからない人にはわからないコトバを用いて話をしたりする。また、逆に話が通じる、すなわち、そのコトバの意味が共有されるかどうかで「仲間」と見なすかどうかが振り分けられている。このように、そのコトバがわかる/わからないということが、話の内容が分かるか分からないかというだけでなく、人の関係性を操作しているようにも思われるのである。
コトバをどのように用いるか、コトバを操ることが人の気持ちや関係性にどのような影響を与えるか、ということを考えた時、コトバには一見、力がありそうに見える。しかし、それはコトバそのものが力を持っているわけではなく、そのコトバを使った人の思いや意図がどう働いたかという力であろう。同じコトバであっても語られたコトバと書かれたコトバは同じではない。聞いて耳触りの良いコトバが文章に起こされてみると大した意味を持っていなかったということは珍しくないし、難解なコトバの羅列が重大なことを表しているわけでもない←




→ということも、よく見かけることである。逆に平易なコトバだが深く心にしみるという経験もある。
果たして、私のコトバはどれだけ私の思いを伝えているのだろうか。そして、そのコトバは他者の思いと出会えているのだろうか。また、人が発したコトバから、ちゃんとその人の思いをききとっているであろうか。カウンセリングという作業は主にコトバを用いて心と向き合うことである。自分の感情や思いがうまくコトバですくい取れた時、心は整理されたように感じ、未消化なままわだかまっていた思いが消化されて自分の中に統合されはじめる。
先の例に挙げた「やばい」ではないが、20世紀末以降、多義的なコトバが増えているように思われる。ひょっとすると、コトバで説明しなくても見ればわかる、すなわち画像など直接見せる手段が進化した分、言語表現を端折ることができるようになり、少ないコトバ(語彙)で片づけてしまえるようになったということかもしれない。しかし、心の内側は視覚的にとらえることができず、なんとなく感じていることを表すコトバを探すのは簡単ではない。こうした言わばしんどい/面倒くさい作業を棚上げし、ただ明るく元気に消費されるだけのコトバではなく、人の思いと結びつく豊かなコトバの世界に関わりたいものである。

第119回理事会報告
日 時:2015年1月7(月)19時00分~21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 厚生労働省自殺対策事業申請に関する事項:低所得者,若年者に対象を絞った相談事業の案が挙げられていたが,カウンセラー謝金は対象外だという県の担当者からの回答で今年度は見送ることが承認された。今後,ファミリーカウンセラー養成講座を自殺予防の特色をもたせるなどして,他の助成事業を考えていくことなど,議論となった。
第120回理事会報告
日 時:2015年1月19(月)19時00分~21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 臨時総会に関する事項:1月26日に行わ
れる臨時総会の役割分担は当日に行うことが承認された。
第2号議案 2015年度自殺予防対策の県の事業に関する事項:事務局より県の担当課からの連絡を待っている状況の説明がなされた。
第3号議案 相談料の減免措置に関する事項:相談料の減免対象者について,社会階層別,課題別を考慮した原案を花岡理事が作成し,今後,議論を進めることが承認された。
第4号議案 2015年度相談事業の広報に関する事項:新聞広告などのメディアを使って広報をすることの議論がなされ,今後の検討事項とする。また,ブロシュールやPRカードなど,紙媒体による広報は,マインドファーストの事業を1つにまとめたブロシュールを作成し手渡しを優先にするなど,今後,情報伝達の効率性という観点からも,再検討する必要があることが確認された。
第5号議案 居場所づくりに関する事項:1月18日のピアワークスの参加者から,どういう居場所をつくりたいか,どういう事をしたいかを話し合い理事会に報告するとのこと,それを受けて今後議論することが承認された。
第6号議案 ファミリーカウンセラー養成講座に関する事項:2015年度のファミリーカウンセラー養成講座,6回シリーズを開催することが承認された。日程についてはサンポートホール会議室の6月から9月の空き状況を花岡理事が確認,報告し,確定することが承認された。
第7号議案 カウンセラーの交通費に関する事項:現在相談事業においてファミリーカウンセラーに支払われている交通費は駐車場料金のみであるが,市外から本町まで来る場合移動距離や時間もかなりかかっていることから,交通費に関する活動規定を確認し,新たに規定を設けることが承認された。
第8号議案 2015年度の役員改正について:杉岡理事が3月末に県外へ異動することが報告された。また現在理事が8名であり,次回5月の役員改正時に理事の交代を含め,できれば計3名理事を増員することが承認された。
第9号議案 調査研究事業「子どもの喪失体験について」に関する事項:杉岡理事の担当による上記事業に関して,理事交代後の対応について杉岡理事の意向を島津理事長より確認することが承認された。

編集後記:ネットいじめやサイバー・リンチが世界中で問題になっています。21世紀を生き延びるための条件の一つは,ネット上に自分の個人情報が流れることに寛容になれることであるとは,ジャック・アタリが『21世紀の歴史』の中で述べていたと記憶しています。確かに,有名人でなくとも,自分の名前をキーワードに入れて検索してみるとヒットする時代です。ということは,誰でもネット上のどこかで,言われなき誹謗中傷を受けている可能性があるということになります。こうした形で使用されるソーシャルメディアは,「またやっている」「好い加減なことを言っている」と,信憑性が乏しいものと見なされ,やがて信頼性が失われていくことになります。過激で過剰になればなるほど,信用するに足りないpseudo-communication(疑似コミュニケーション)となって行く分野と新たなコミュニケーション手段として純化されていく分野のすみ分けが進むでしょう。こうしたところにも,人類のコミュニケーションの進化の過程があるように思います。(H)