9月1日問題

~18歳以下の自殺の解決のために~

マインドファースト通信編集長 花岡正憲

「若者は,なぜ,自ら命を絶とうとするのでしょうか?生きることが苦痛で,抱えている問題が余りにも大きすぎると思ってしまうことがあります。そんなとき,若者の多くは自殺を考えます。しかし,ほとんどの場合,計画を立てたり実行に移したりすることはありません。しかし,情緒的あるいは身体的に耐え難い苦痛とか,望みが持てないような困難や状況の中では,自殺を考えることが,現実的な解決手段であるように感じる若者もいます。」

マインドファースト自殺予防ファクトシート『若者を自殺から守るために』から


内閣府が6月に公表した「自殺対策白書」によると,2013年までの過去42年間に自殺した18歳以下の 子ども18,048人のうち,自殺が突出して多いのは, 9月1日であることが明らかになっている。子どもの自殺は,思春期問題,家族問題,交友関係,学校社会のストレスなどが複雑に絡んでいるが,9月1日に突出していることを見れば,教育問題が大きく関係していることは否定できない。

夏休みになって,解放感が味わえるのも,つかの間,やがて宿題や登校再開のプレッシャーを感じはじめ,楽しめない時間を過ごすようになる。また,あの煩瑣な課題を与えられ,規制と拘束性が高い空間に戻っていくことを想像することは,多かれ少なかれ気分が滅入ることだ。セミの鳴き声の変化,雲の形の移ろい,朝晩感じる冷気,人影がまばらになった海岸など,夏の盛りが過ぎて行く寂寥感の中で,9月1日というタイムリミットは,動かし得ない現実として迫ってくる。こうしたことを耐え難い苦痛と感じる若者も少なくないであろう。2学期の初日が,始業式だけで終わり,ゆるやかに始まることにほっとするが,翌日からはハードスケジュールが待っている。

多忙で複雑な現代社会は,将来を憂慮することによるストレスが,少なくない。そのために,今この瞬間が楽しめず,多くの大切な時間を失っている人たちがいかに多いことか。土曜,日曜は休みだが,月曜日からの出勤を思うと気分が滅入り,金曜日の夜からうつうつとゲームにはまり,眠れなくなる。金曜日は,かつての「花金」のようにはじけることができない。最近は,そんな大人も目立つ。

うつ病を患い,診断書を出して仕事を休む時も,記された病休期間を見て安堵するのではなく,診断書期日の翌日は,出勤日だと考え込んでしまう。刻々とその日が近づいてくると思うと病気休暇の初日から落ち着かない。職場からも,「お大事に」と言う言葉はなく,元気になって出てくるようにと言われ,さらに落ち込んでしまう。

昨年6月,労働安全衛生法が改正され,ストレス チェック制度が設けられた。従業員50名以上の事業者は,ストレスチェックの結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し,その結果,必要な場合には,作業の転換,労働時間の短縮など適切な就業上の措置を講じなければならない。これは,今日,子どもにもあてはまることだ。

日本は,教員の在校時間が,極端に長い。部活,宿題など,フォローする教師の負担も大きい。生徒に 与える課題が多くなれば,それだけその準備や事後指導も増え,持ち帰り残業が多くなる。保護者対応も複雑になっている。こうした中で,精神的健康を損なう教員も増えている。生徒と教員との間で負のサイクルが起きていることは明らかだ。ストレスで調子を落としている子どもにも,教科課題の軽減や在校時間の短縮などが必要だ。週の中日を休みにするとか,午前中だけの登校で,午後から帰宅するということがあっても良い。

30年も前になろうか,学校恐怖症(school phobia)について外国の人たちと意見交換を持つ機会があった。その中で「子どもは,学校へ行かないで過ごす時間が多くなると,それだけ学ぶことが多くなる」という言葉が印象に残っている。学校へ行きたくなければ,休んでゆっくりするのも良いが,思い切って外へ出てみるのが良い。ネットに向き合い知識や情報を取るやり方もあるが,震災や水害などの被災地でボランティア活動をしてみても良いだろう。アルバイトも悪くないだろう。 SEALDsの若者と連絡をとりあっても良い。来年の参議院選挙から18歳から選挙権が持てるようになる。議会の傍聴に行ってみても良い。家族旅行も悪くないが,親の出張について,普段は行けそうもないところを訪れてみる。学校へ行っていたのでは,体験できない楽しいことや生きていく上で役に立つことが学べるだろう。そんなことをしていると友達の中で浮いてしまうのではないかと,親や教師は心配するかも知れない。しかし,それは杞憂と言うものだ。大人たち自身,今は死語になったが,がり勉の方が,「かまぼこ」と呼ばれて浮いていた時代を生きてきた。←




→イヴァン・イリイチ(1926-2002)は,その著書『脱学校の社会』(“Deschooling Society” 東 洋/小澤周三訳 1977 東京創元社)の中で,「現代の教育の危機は,公的に定められた学習をどんな方法で実施するかということよりも,むしろ個人の学習すべき内容や方法を公が決定できるとする考え方そのものの検討が必要なことを示している」と述べている。学業不振,不登校,いじめなど,ともすれば生徒固有の問題と見なされがちだ。学校とは,大勢の若者を一か所に集め,効率よく学習させる所だ。効率性が重視されるところでは,不適応をきたす生徒がいる方がむしろ自然であろう。

あるテレビ番組で,夏休み中に部活に来ている生徒に教師が声をかける試みが紹介されていた。確かに声かけは大切であろう。ただ,教師によるこうした声かけが生徒の目にはどう映るか気になるところだ。2学期からの登校をスムーズにすることだけを狙いとしているなら,生徒は,こうしたことには敏感だ。肝心な時にヘルプを出せなくなる。

若者に関する理論的検証(注)によると,今日の若者は,相互依存の鎖の存在に気づかないまま,集団的 問題を個人的行動で解決しようと試みるため,そのことによって生じる失敗についても,自分で責任を負おうとしてもがいている傾向があることが明らかになっている。アイデンティティ形成過程の個人化が,うつ,引きこもり,薬物依存など,精神的健康に否定的な影響を長期的にもたらすという。特にわが国では,少子化で一人の子どもに対する親や大人の期待が,かつてなく大きくなっている。そのため,弱音を吐けず,孤立感を深め,ヘルプが出しにくい若者の主観の世界を生み出しているという事情があろう。

国立青少年教育振興機構の調査では,日本の高校生は外国に比べて「ネガティブ思考」の割合が際立って高く,「自分はダメ人間」と思っている若者が多いことも分かっている。受験や部活や稽古ごとなど,子どもにかかるストレスの総量を下げる。社会全体でこうした観点から,真剣に取り組みを考えるべきだろう。死にたくなったときは,誰かと真剣につながろうとしてみる。そうした子どもの心の叫びに応えられるだけの大人の顔や地域社会の姿が,日ごろから子どもたちに見えていることが大切だ。

9月10日は, WHOが定めた世界自殺予防デイ。

(注) アンディ・ファーロング/フレッド・カートメル著 乾彰夫/西村貴之/平塚眞樹/丸井妙子訳:若者と社会変容 リスク社会を生きる 大月書店,2009


第128回理事会報告

日 時:2015年8月10日(月)19時00分~21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 理事の互選に関する事項:理事長の登記されている任期が現在2017年6月27日までであり,その時に新任理事がいない場合は,6月27日より前に予選ができる。一方,新任理事がいる場合は6月28日以降に互選しなければならないという法務局の指導があった。2017年の総会日前日に理事全員が辞任届を出し,

総会日より理事の任期が発生する手続きを取ることが承認された。また,2年ごとの役員改選において,総会で新任の理事が選出され,かつ,前任の理事の任期が総会の翌日以降までの場合は,今年度と同様,総会終了直後の同一日に代表者の選出に新任の理事が加われないという不都合が発生するため,毎回役員改選のたびに,総会前日に理事全員の辞表を取りつける方法を取るか,あるいは,理事の任期に関する定款の変更を行なうかなどを検討するとともに,新任の理事が加わった予選決議の有効性の可能性も含め,役員の予選並びに代表者の予選に関する情報を,引き続き法務局等関係所轄庁等から収集することで了承された。

第2号議案 ホームページのドメインの変更に関する事項:ホームページ管理者AIYAシステム藤澤氏より提案のあった新しいドメインへ変更することが承認された。

第3号議案 ビジョン作成に関する事項:当会のミッションと ビジョンの違いについて,またビジョンはより当会を地域の人たちに理解してもらうよう解りやすいものにする必要がある等の議論がなされた。理事長よりビジョンについての枠組みが示され,今後さらに具体的なビジョンについての継続審議となった。

第4号議案 ボランティア役務の評価に関する事項:当会のボランティア受け入れ評価益は,受取寄付金として,計上することができる。マインドファースト通信の執筆代,無償の相談経費,詫間町の相談室代をボランティア役務の対象に上げられた。今後,「ボランティア役務評価益の算出方法を」所轄庁である高松市や会計専門家に相談し,継続審議することが承認された。

第5号議案 活動費規定,旅費宿泊費規定,報償費規定に関する事項:当会の実務について委託契約が多いこともあり,報償費支払規定を報償費並びに委託料支払い規定とすること,対象経費について,原案に加え事務委託,ホームページ管理委託,電話受理委託,電話相談委託,マインドファースト通信発送作業委託を加えることが承認され,その他審議未了となり,継続審議することが承認された。

第6号議案 寄付金の依頼に関する事項,第7号議案 家族精神保健相談員資格施行細則に関する事項,第8号議案 心の健康オープンセミナーに関する事項,第9号議案 認定NPO法人取得記念事業に関する事項,第10号議案 フォークス21のブロシュールに関する事項,第11号議案 メンタルヘルスチェックの義務化を受けた新規事業提案に関する事項,以上審議未了。

編集後記:9月9日,第189回通常国会参議院本会議で公認心理師法案(189衆法38号)が可決されました。今月末には公布され,2年以内に施行されることになっています。有資格者の登録先は,文科省,厚労省の両省になっていますが,本法案は,文部科学委員会から提出されたもので,厚生労働委員会からの連合審査は求められなかったようです。法律の目的は,「公認心理師の資格を定めて,その業務の適正を図り,もって国民の心の健康の保持増進に寄与すること」とあり,当面,教育現場やメンタルヘルス相談現場では,名称独占的な運用が行われることになりそうですが,医療現場での位置づけと役割は曖昧です。本法案は,先の第188回通常国会で一旦廃案になったもので,今回民主党からの動議で,6項目の付帯決議が付されました。第42条の2では,「公認心理師は,その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは,その指示を受けなければならない」となっており,医療サイドからタガをはめられた形になっています。これについては,付帯決議5として,「運用については,公認心理師の専門性や自立性を損なうことがないよう省令等を定めることにより運用基準を明らかにし,公認心理師の業務が円滑に行われるよう配慮すること」と付されております。もっとも付帯決議に拘束力はありません。(H)