認定NPO法人取得記念シンポジウム開催される

マインドファースト副理事長 柾 美幸

2016年3月21日(月・祝)サンポートホール61会議室にて52名の参加者を迎え,特定非営利活動法人マインドファーストの認定NPO法人取得記念シンポジウム『次世代家族支援―幼児と若者―』が開催された。今年度マインドファーストが認定NPO法人の認証を受け,地域社会におけるメンタルヘルス活動をさらに推進していくため,その活動内容を広く知っていただく機会にしたいと考え開催した。

はじめにマインドファースト理事長島津昌代の挨拶があり,マインドファーストの活動とその歴史について説明があった。マインドファーストの活動が,地域社会のみならず私たちの身近な人や私たち自身の心の健康に繋がっていくものであるとの説明があった。

その後,岡山大学大学院教育学研究科教育臨床心理学専攻塚本千秋さんの基調講演が行われた。『安全基地としての家族-若者の支援のための理解-』と題して,子どもの成長過程における家族の役割と時代の変遷と社会の変化,今私たちが置かれている社会の状況を子どもの成長に合わせてご講演いただいた。

先ず冒頭に塚本さんがお住まいの地域の見事な桜並木が紹介された。しかしその桜並木は川の護岸のため『安全』の名のもとに今では全て切り倒されたそうだ。今ではコンクリートで固められた何の魅力も無い風景になってしまった。身体の安全と心の安全について考えさせられた。

家族の役割,乳幼児期においては栄養や温度・湿度・外敵などの物理的な保護。また有害刺激からの保護。これは親自身,何が乳幼児にとって有害なのかを分かっておかなければならない。遊びを通じての試行錯誤,失敗の保障そして許容される体験。人は失敗によって学ぶものでありその体験を保障してあげる事が成長の大きな力になるものであり「悪い事をするとおまわりさんに捕まるよ」というかかわり方では子供の失敗が保障されている事にはならない。また内面に対する統制(コントロール)の手がかりの獲得がしつけであり,しつけということで子供をたたくと,自分の内面を出さない無頓着な子供,自分の欲望を無視してしまう子供に育ってしまう。対人関係の基盤となる『愛着(愛し愛される関係)』については,深刻なものは,対人場面で情緒的に引きこもったり,あるいは過度になれなれしく警戒心が無い,などの状態になる事もある。思春期青年期においては大人の役割を知り,親は子供にどのように接するものかを感じる事になる。子どもは親の言う様にはならず,親のするようになる。又この時期は自己

実現と巣立ちの準備の時期である。

生命を守る段階,道具としてのモノを手に入れる段階,これらが満たされている現代では目の前の快感・欲望をくすぐるモノを手に入れることばかりに目が向いてしまう。生命や基本的に必要な物を得るというプロセスをきちんと通過する事が大切である。

遊びについてもテレビゲームなどが普及する以前の遊びは全身を使い五感を使い,道具やルールを自分たちで作るなど,そこには危険が伴う事もあるが,多くの遊びがその体験を通して,生き物としての成長が有った。現在の遊びは視覚や脳だけを使う遊びになっており,そこには人と人の協力も要らないし,肉体の危険も無いのであり,それは人間としての体験ではなく,企業から与えられたルールの下に,○×など記号の体験であり,生き物として力がついているわけではない。どんどん人をゆがめてしまう環境に近づいている。

一人ひとりが心の窓や色々な箪笥を持っており,その中に宝物をしまっている。心の窓をトントンたたいたり,引き出しの中に宝物があったよね,と語りかけていく事で,それぞれが持っている情緒的な豊かさを引き出していくことができる。またわれわれは,弱者と呼ばれている人を支援するのではなく,支援する事により自分の中の弱者性に気付かせてもらっているのだ。

シンポジスト

休憩の後,3人のシンポジストによる発表があった。コーディネーターはマインドファースト理事の浅海明子と同じく理事の花岡正憲が務めた。

シンポジスト1の小西昭子さんはNPO法人子どもの虐待防止ネットワーク・かがわで,マザーズグループや訪問型子育て支援に関わっている。「家庭訪問による支援から」というテーマで,さまざまな事情で外出しづらい家庭の支援を,一定の研修を受けたホームビジターというボランティアによるホームスタート事業について説明された。子育てが「孤育て」にならないため,地域全体で支える仕組みを作り活動しているという報告があった。

シンポジスト2の谷本智子さんは香川医療生活協同組合へいわこどもクリニックで,障碍をもった子どもやその家族と関わる経験を豊富にもつ臨床心理士として幼児の←




→検診業務にも積極的に取り組んでいる。「生きづらさを持った子どもの家族支援」というテーマでクリニックを訪れる子どもたちの現状やその家族が抱える問題について,また家族だけでは家庭の問題は解決できない事情があることなど,家庭の問題は社会を担う私たちの問題でありそのために今クリニックでは子どもたちが色々な経験をする場を提供しているという報告があった。

シンポジスト3の柳谷貴子さんは小・中・高の養護教諭の経験を持つ。香川県教育委員会事務局保健体育課指導主事を経て香川県立高松西高等学校養護教諭として高校生の健康相談などに当たっている。養護教諭としてずっと考えてきた事を今回のシンポジウムのテーマとして語られた。「共感し合い,認め合う場所,それが保健室-縦の糸から横の糸へ-」というテーマで,子どもは家庭の中が危機的な状況の時に何とか自分の力で家族をつなぎとめようとし,学校へ行くどころではなくなる。そんなときにも何とか学校へ来て保健室で仲間同士が支えあっている。共感し合い認め合い,前に踏み出す事ができるピアルームである。教師など大人が支えるのが縦の糸,そして生徒同士支えあうのが横の糸でありそのどちらも大切である。

シンポジストの発表が終わった所で塚本さんのコメントがあり,小西さんに対しては,電話相談という経験があったからこそ間違えることなく確実な支援ができたのだろう。谷本さんに対しては,心理士のライフサイクルとして,1対1の個別相談ばかりでなく経験を積む事でコーディネーターという役割を取るようになったのではないか。これからはそういうことも大切。柳谷さんに対しては,子供同士の支え合いができるのは教師が全体を見る目を持っていたからだろう。

その後,会場から質問があり,今の文明に巻き込まれてしまう。今,身を守る術は?という問に対し,塚本さんが,日本全体が発達障害化と言われる今,血肉の通っていない言葉が多い。また脳の休憩が少ない。脳を休めて楽しんで,ストレスの少ない子育て環境を作っていかなければならないと,提案された。

参加者からの感想として,問題を起こすあるいは悲鳴を上げるということはチャンスなのだと感じた。今回のシンポジウムのチラシにデザインされた蝶がそうであるように,幼虫が蛹になり,やがて羽化する。その姿を変える時は個体にとっては危険を伴っているが大きく成長する時でもある。われわれにとっても危機は成長のチャンスなのだと感じた。

最後に理事長島津から,当会への支援をお願いし,閉会とした。


第138回理事会報告

日 時:2016年3月14日(月)19時00分~21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 事務局体制に関すること:理事会の示す雇用条件で人材を当たっている。収支決算並びに収支予算計画を組む時期が迫っているため,理事長が当面三好氏に入力作業を依頼することで了承された。

第2号議案 認定NPO取得記念シンポジウムに関すること:①参加人数 ②準備物 ③謝金並びに交通費 ④当日の打合せ ⑤マスメディアへの広報 ⑥県教委への報告書作成等の事項について,確認作業を行なった。参加申込者は,3月9日時点で35名。講師並びにシンポジストへの謝金は,当法人の報償費及び委託料支払規程を基本とすること,旅費は概算払とすることで了承された。当日の講師,シンポジスト,コーディネーター等との事前打ち合わせは,午前11から所定の場所に於いて行なうこと。シンポジウム直前広報依頼を理事長作成の依頼文で新聞社5社に行なうことが了承された。教育委員会への報告書は,本シンポジウム記録係が作成する。当日配布の抄録集とアンケート用紙は,各80部をAIYAシステムに発注することで了承された。

第3号議案 寄付金プロジェクトに関すること:寄付金依頼ブロシュールに振込用紙を添えて,シンポジウム当日に配布することで了承された。

第4号議案 事業の広報に関すること:高松市報への掲載については,紙面構成の関係で今後掲載が難しくなることから,今後の広報のあり方についてアイディアを出し合う必要があるとの理事長からの提案があり了承された。

第5号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:担当理事から,事業を推進する上での助言者を必要としているとの意見があり,今後助成金の使い方等について,ファミリーカウンセラー会議も含めて協議を重ねることで了承された。

第6号議案 2016年度事業計画に関すること:理事長から理事に対して計画案を示すように指示があった。

第7号議案 2016年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コースに関すること:6月26日から6回シリーズで行われる同養成講座について,担当理事が計画案を示すことで了承された。

第8号議案 浅海ファミリーカウンセラー担当のクライエントの引継ぎに関すること:担当カウンセラーが変わることによるクライエントへの影響を考慮し,今後当該クライエントに対してフォークス21がどのような支援が可能か,クライエントの意向の確認も含めて,あらためて別のカウンセラーがクライエントとの面談の時間を持ちたい旨クライエントに連絡することで了承された。

予定審議事項:家族精神保健相談員資格制度施行細則に関すること,事業の広報・広告に関すること,総会の準備に関すること,マインドファーストの登録商標に関すること,ストレスチェックの義務化を受けた新規事業に関すること,以上審議未了。


編集後記:認定NPO法人取得記念シンポジウム『次世代家族支援-幼児と若者-』は,子育て環境のストレスについてあらためて考える機会になりました。子育て環境における親のストレスが,子どもの成長や人格形成に影響を与えることが少なくありません。貧困,飢餓,格差,情報過剰,多忙,喪失体験などは,親にとっては大きなストレスとなり,養育環境に影を落とします。戦争は言うまでもありません。戦時下では,子どもの夜泣きが激しくなるとも言われます。安保関連法に反対するママの会(Mothers Against War)の合言葉は,「だれの子どももころさせない」です。母親が破局的なイメージに圧倒され将来不安を抱く育児環境が,好ましくないことは明らかです。「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログ投稿記事が大きな反響を呼んでいます。「日本は子育て現場を戦場にしている。こんな戦争をさせる国は,負けてしまえ」という悲痛な叫びに他なりません。子育て中の親が追い詰められ,否定的な国家観を抱くようになる。これは,子どもにとっては有害刺激です。「乳幼児を有害刺激から保護しなければならない。そのためには,親自身,何が乳幼児にとって有害なのかを分かっていることが大切」シンポジウム基調講演講師塚本氏の言葉には,説得力があります。(H)