社会生活支援のあり方を検証する機会に

~精神科デイケアの診療報酬改定~

マインドファースト通信編集長 花岡正憲


2年ごとに国が見直す診療報酬の改定で,精神科デイケ等(「精神科デイケア」「精神科デイ・ナイトケア」「精神科ナイトケア」「精神科ショートケア」)の算定要件が厳格化された。

最初の算定日から1年を超える場合は,週5日が限度であったが,4月からは,以下の3つの要件をすべて満たした場合に限られることになった。①医学的に必要との判断,②精神保健福祉士が患者の意向を聴取し,その意向に沿った診療計画に基づいて実施,③当該保険医療機関で週3日を超えてデイケアを受ける患者の割合が8割未満であること,となっている。

精神科デイケアは,ロシアの精神科医,Dzhagaow(1937)が,1930年代のモスクワでのpartial hospitalization program(部分入院プログラム)について記述したのが始まりである。デイケアの本格的な実施は,Cameron(モントリオール,1947)やBierer(ロンドン近郊モーズレイ病院,1951)実践にあると言われている。以後,変遷を経て,欧米では入院中心から地域ケアへという流れの中で位置付けられてきた。日本でも,精神科デイケアは地域精神科医療の拠点として,年々その数は増加してきた。デイケアの効果は,再発・再入院率の低減,社会生活機能の改善,陰性症状の改善にある,と多くの臨床家が指摘している。

この度の診療報酬改定については,デイケアは孤立する患者の心のリハビリには欠かせないとして,マスメディアの一部が異議を唱えている。医療費削減を理由に,

通院日数の制限は患者の社会復帰を狭めるなどとし,減算に反対する署名活動を行なった団体もある。

一方,欧米では,疫学的なデーターが蓄積されていく中で,長期間のデイケアに関する有効性に関しては否定的な見方が広まりつつある。増大する医療費に見合うだけの効果があるのかと懐疑的な声も上がっており,今改めてその治療的意義が問われている。

デイケアのプログラムは,クッキング,手芸,工作,習字,陶芸,園芸,絵画・生花・俳句・パソコン教室,カラオケ,合唱・合奏,輪投げ,卓球,バレー,ソフトボール,バスケットボール,ヨガ,ウォーキング,盆踊り・デイケア祭・イベントなどへの参加,散策や施設見学などの院外活動など多岐にわたっている。

デイケアは,閉じこもりがちな人たちにとっては,人と一緒に何かをやることが,社会参加の第一歩になることもあろう。意欲が低下した人の心身の活性化に役立つこともあるかも知れない。その意味で,プログラムの多様性は,利用者ニーズの選択肢が増え,参加のきっかけがつかみやすくなることは事実であろう。

しかし,デイケア施設によって,対象,実施体制,治療環境,目標,方法,利用期間なども様々で,曖昧なものが多く,治療法として確立したものとは言い難い。したがって,デイケアを利用している人で,改善が見られた者でも,それがデイケアによるものかどうかデイケア自体の効果判定は難しい。

デイケアは,利用者にとって居心地の良い空間になる反面,人間関係の固定化や集団指向によるマンネリ化も起こりやすい。デイケアは,診療報酬体系上は外来通院治療の一形態とされるが,partial hospitalization(部分入←




→院)とも呼ばれたように,デイケア施設側の利用者に対する生活管理の側面があることは否めず,早くからホスピタリズム(注)の弊害も指摘されている。退院の条件として,デイケア参加と訪問看護の受け入れを提示され,圧力を感じたというユーザーの声を聞くこともある。

デイケア提供者側も,デイケアに来ることだけをよしとして漫然とデイケアを継続するのではなく,利用者ひとり一人の意向や課題を明確化にして,それを利用者と共有し定期的にふりかえりを行なうことは欠かせない。利用者自身も,例えば,体力づくり,人間関係におけるスキルの向上,コミュニケーション能力の向上,就労に必要な知識や技能の習得など,自分にとってのデイケアの目的は何か,社会参加の障害になっているものは何かなど,デイケアの利用目的を見失わないようにすることが肝心だ。

デイケア利用者の回復過程は個別性が高い。だからといって,デイケアプログラムをそれぞれの利用者向けにカスタマイズできるかといえば,それほど単純なものではないだろう。本来,精神科リハビリテーションの内容は多様で,何が有効であるかは単純には言えない。インフォーマルな支援や当事者同士によるピアサポートなど,構造化されない人対人の関係がエンパワーメントにつながることも少なくない。

長期の精神科デイケアの要件の厳格化を機会に,利用者にとっての本来の費用対効果と言う視点で,社会参加の支援のあり方を検証する機会になることを期待したい。

(注)ホスピタリズム:比較的閉ざされた施設に集団として長期収容されることによって生じる発達障害や人格変化の総称。受動的生活,施設外の世界との接触の喪失,スタッフの過保護的対応などによって,主体的動機づけが起こりようがない状況に置かれることからくる無気力,自発性減退,受身的順応,周囲への無関心,個性の喪失など人格の全般的な変化の結果としての社会適応困難などが指摘されている。


第139回理事会報告


日 時:2016年4月11日(月)19時00分~21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第 1号議案 ピアワークスの参加者の対応に関すること:柾副理事長とピアワークス担当の花崎が,参加者とその家族に面談を行なうことで了承された。

第 2号議案 2016年度ファミリーカウンセラー養成講座に関すること:講師並びにアシスタント講師の最終的確認が行われ承認された。また,受講申込方法は,AIYAシステムの助言により,少人数のためメールフォームを使用するメリットが少ないことから,郵送とFAXによる申込み方法を取ることで了承された。今後は,4月24日(日)午前中のチラシ発送準備作業に向けて,詰めの作業を行なうことで了承された。また,事前講師会については,5月19日(木)19時~21時と6月9日(木)19時~21時の2回,それぞれ高松市男女共同参画センターの第2会議室と第4会議室において開催を予定しているが,この時間帯に参加しにくい講師については,別途日時をあらためて開催する余地を残しておくことで了承された。

第 3号議案 2016年度総会に関すること:①2016年度定期総会の開催日時を2016年6月20日とすることで了承された。②三好理事並びに浅海理事両名の任期途中での退任に伴い2名の理事の補充を行なうことで了承された。③主たる事務所の移転に伴い,定款上の事務所は,「主たる事務所を高松市に置く」と定款の変更を総会の議案とすることで了承された。④役員任期について,定款上明記しておくことの是非について,担当理事が法務局に照会することで了承された。⑤2016年度事業計画(案)を花岡理事が作成することで了承された。⑥定期総会に向けて,理事会開催日を5月2日並びに5月16日とすることで了承された。

第 4号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:4月3日(日)開催の居場所づくりワーキンググループの意見を踏まえ,地域交流拠点のマネジメントや事業スキルの習得のため,おへんろの駅こくぶのノウハウを学ぶ機会を持つことで了承された。

第 5号議案 平成28年度募金(29年度事業)香川県共同募金会の広域助成事業の募集に関すること:居場所づくり2年目の取り組みに向けて,花崎理事が申請書(案)を作成することで了承された。また,5月10日(火)開催の香川県共同募金会平成28年度テーマ募金実施に向けての意見交換・研修会に,花崎理事が出席することで了承された。

第 6号議案 事業の広報に関すること:審議未了

第 7号議案 寄付金プロジェクトに関すること:3月21日開催の認定NPO 法人取得記念シンポジウムにおいて配布された標記ブロシュールを2,000部増刷することで了承された。印刷コスト並びに技術面における問題が少ないようであれば,ブロシュールと振込用紙を一体化したものにすることで了承された。

第 8号議案 家族精神保健相談員資格制度施行細則に関すること,第 9号議案 マインドファーストの登録商標に関すること,及び第10号議案 ストレスチェックの義務化を受けた新規事業に関すること,審議未了

編集後記:障害者グループホームにスプリンクラーの設置が義務付けられるようになります。消防法施行令改正で設置の義務付けの面積基準が撤廃されたことによるものです。2018年4月まで3年間の移行期間がありますが,それ以降は自治体から指導や命令を受けることになります。2013年度の消防庁の調査では,小規模グループホームのうち,スプリンクラーがないのは,高齢者系で26%であったのに対し,障害者系は90%でした。小規模グループホームには,アパートや一戸建て住宅を賃借して,非営利団体が運営しているものが少なくありません。設置費用や家主の承諾の問題以前に,一般住宅にないものを押しつけるのは,街中の当たり前の生活とはほど遠いものです。精神科デイケアの診療報酬の改定は規制強化の方向ですが,一律にグループホームにスプリンクラーを設置,こちらは困った規制強化です。(H)