講師派遣

東讃保健福祉事務所主催
 若者のメンタルヘルス講演会
  withゲートキーパー養成講座

聞こえますか?思春期のハートボイス

マインドファースト理事長 島津昌代

2016年11月27日(日)午後1時30分~午後3時,三木町文化交流プラザ会議室において,若者のメンタルヘルス講演会withゲートキーパー養成講座が行われました。出席者は若者の相談支援に関わる人,教育関係者,地域の人など30名ほどで,マインドファーストから講師として派遣された島津が,「聞こえますか?思春期のハートボイス~若者の支援について考える」と題して講演しました。以下は,講演の要旨です。

現在,「若者」というと15歳から39歳までを指すが,この年代はライフサイクルでいうと思春期・青年期と成人期初期に相当する。「若者」の支援はこの時期の発達課題を抜きに考えることはできない。

青年期の発達課題は,自我同一性の確立であるが,それは親や教師のコピーの寄せ集めだった自分からオリジナルの自分になることである。その過程において反抗という現象が現れ,それが親離れにつながっていく。

青年期のもうひとつの大きな問題は性の問題で,急激な身体の変化をどう受け止めるかということと,その過程を共に歩む友達関係が重要になる。成熟の早さは個人差が大きく,一般的な成熟からのずれや性的マイノリティといった個性はその時代の仲間内で共有されにくいため心理的な孤立や劣等感を招きやすい。親離れ(親からの独立)は,親に全面的に頼っていたのが親以外の同年輩の複数の人に幅広く頼れるようになるということであり,自らの手で横につながる人間関係が持てるようになることと同義である。それだけに,若者は対人関係上の悩みを持ちやすく,

縦でもなく横でもない中間的な「斜めの関係」の存在も鍵になるが,心のSOSは様々な症状として現れる。自傷行為もその一つである。

自傷行為と自殺企図は明らかに異なるものだが,若者の死因の1位が自殺であること,自分を大切にするという自尊感情が傷ついていたり,十分育まれていないという心の問題から見た場合,それらは自己破壊的行動スペクトラムとしてとらえることができ,摂食障害もその文脈でとらえられる。

「死にたい」という気持ちは,「死ねば楽になるのではないかと考えてしまうほど苦しい」状態であるが,そうした時に話をきいてくれる人がいるだけで,苦しい気持ちに押し潰されることから救われることがある。しかし,自尊感情が低いと自分には何の価値もないという気持ちになり,周囲に助けを求めること自体が困難となるため心理的視野狭窄状態に陥りやすい。そこをなんとか超えて誰かにSOSが発信された時,ちゃんとキャッチして支えるためには打ち明けられた気持ちをそらさずに聴くことが求められる。そして共倒れにならないために信頼できる大人に相談することを若者に伝えていくこと,大人の側も若者が相談できるような「大人」としてのモデルになれるよう,若者に迎合するのではなく,若者の反抗や批判を受け止めることが大切である。

講演終了後に,「若者が苦しんでいるとき,それに気がつきやすのはやはり親だろうか」という質問がありました。これについては「そうかもしれないし,そうではないかもしれない。それは,子どもが親にショックを与えたくないと思って問題を隠そうとすることがあるからである。ただ,向かい合っている時は隠せても,ふとした拍子にいつもと違う様子が見えることはあるので,子どもや若者と接する機会の多い人には“あれ?いつもと何か違う”←




→という気づきを大切にしてほしい」とお伝えして,講演会を終了しました。

その後,主催者である東讃保健福祉事務所の方からゲートキーパーについての説明と,2011年度の内閣府『いのち支える(自殺対策)プロジェクト』にキャンペーンソングとして起用されたワカバというグループの楽曲「あかり」の紹介がありました。この歌は,自殺したファンのことを知ってかかれたものだということでしたが,“泣きたくても泣けない”若者のつらく孤独な気持ちとそこに寄り添うメッセージが伝わるもので,講演で伝えたかった若者像を補完してくれる素敵な締めくくりとなりました。


ギャンブル依存症とは何か

~カジノ法から見えてくるもの~

世論の6割近くが反対する中,カジノ解禁を柱とするIR法(統合型リゾート推進法)が,充分な審議も行われない中で,12月14日までの会期を3日間延長し,15日未明衆院本会議で可決成立した。

IR法は,そもそも観光振興や経済振興など成長や地方活性に役立つかどうか疑問がある中で,ギャンブル依存症対策については最重要課題とされながらも審議が尽くされていない。日本では,競輪,競馬などの公営賭博やパチンコ,パチスロがあり,依存症者は既に500万人を超えると言われる。

いわゆるギャンブル依存症は, ICD-10(国際疾病分類第10版 精神および行動の障害)では,病的賭博(pathological gambling)と呼ばれ,「自分の仕事を危機に陥れ,多額の負債を負い,嘘をついたり法律を犯して金を得たり,あるいは負債の支払いを避けたりすることがある」とある。診断のガイドラインでは,①「持続的に繰り返される賭博」 ②「貧困になる,家族関係が損なわれる,そして個人生活が崩壊するなどの不利な社会結果を招くにもかかわらず,持続し,しばしば増強する」とある。病的賭博は,その負の側面について直視できなくなることが特徴である。ひどい損失や不利益な結果に直面すると,好ましくない習慣を抑制できる単なる賭博や賭け事とは異なると言われるが,その境界は曖昧だ。

フランスの社会学者エミール・デュルケーム(1858-1917)は,著書『自殺論』の中で,人々の日々の行動を秩序づける共通の価値・道徳が失われて無秩序と混乱が支配的になった社会の状態として,アノミー(anomie)について触れ,社会の規制が緩んだ状態においては,個人が必ずしも自由になるとは限らず,かえって不安定な状況に陥ると述べている。アノミーは,自己規範応力が喪失した先進国病とも言われる。

ギャンブル依存症は,家族の崩壊,失業,破産,自殺,治安の悪化などに加え,生活保護費や医療費などの支出,長期にわたる社会経済活動からの撤退など,社会経済的負荷は,はかり知れない。ギャンブルの心理社会経済的負の側面に向きあうことを避け,IR法案を押し通そうとする国政のあり方自体が賭博性を帯びたものになっているとも言える。

政府は,既にGPIF(年金積立金管理運用)の50%を株式市場へ投入し,国民からの預かり金のポートフォリオは,リスクが高くなっている。カジノ合法化は,それ以上に弊害が大きく,国民からの直接搾取という側面が強い。

資本主義は,節度を失い暴走する。それをコントロールするのが民主主義の役割でもある。カジノ国会の衆議院の委員会では,与党議員が与えられた質問時間を持て余し,般若心経を唱える場面があり批判を浴びた。議会制民主主義が機能しなくなっていることを象徴する場面でもあった。

国民の財産を危険に晒し,人心を荒廃させるような政策に賭けるのではなく,節度ある経済政策のために,国民の不安や疑問に真摯に耳を傾け,議論の場に英知を取り戻すことが求められる。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)

第149回理事会報告

日 時:2016年12月12日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:12月5日開催予定の企画運営委員会は,複数の委員の出席が難しく延期となった。12月4日,おへんろの駅こくぶにおいて,企画委員並びに外部から参加したユーザー12名に対して「コーヒーのいれ方」のインストラクションが行われた。コーヒーのいれ方等に関する指導への参加は,居場所づくり企画運営会議実施要領の第4条2を踏まえ,企画運営会議の情報収集の一環として行われることとし,そのつど理事長の承認を得ることで了承された。次回,情報収集は,2017年1月8日に予定している。

なお,一部の内部企画運営委員においては,本事業の概要について充分説明できていないことから,担当者が共同募金事業についての説明を別途行うこととした。

第2号議案 香川県共同募金会テーマ募金に関すること:12月18日を期限として,理事及び認定ファミリーカウンセラーが,それぞれ標記募金寄付予定者名簿を作成し,集約することで了承された。なお,周知と集約作業は,花岡が行う。12月29日に,寄付予定者宛に趣意書とテーマ募金チラシの発送作業を行う。趣意書は,島津理事長が作成する。

第3号議案 第3号議案 2016年度香川県自殺対策基金事業に関すること:①子どもの喪失体験の支援事業 基礎資料の提出が間に合わないため審議未了。②各事業のブロシュール,啓発カードの作成 残部数並びに訂正箇所の確認,今後の使用見通し等を勘案し,以下の通り初版印刷及び改訂増刷することで了承された。

  • ブロシュール「マインドファースト」「おどりば」「サバイビング」「フォークス21」事務所住所地を変更し各1,000部
  • PRカード「おどりば」「サバイビング」各10,000部,初版印刷の「おどりば」の原稿は担当理事が作成する。

編集後記:今年の世相を表す漢字の1位は「金」となりました。金メダルやトランプの金髪などが注目され,金が1位になったと言われても,年中資金繰りに追われている生活者や経営者(わがNPOもしかり)は,何の感慨も覚えないというのが正直なところでしょう。もっとも,国会会期末になって成立した年金をカットするいわゆる年金抑制法や有害性が高い金集め手段であるカジノ法は,国民生活に影を落とす「金」として1位にランクされかも知れません。今年1年間の皆様のご支援に心から感謝申し上げますとともに,来年も倍旧のご支援を賜りますようお願い申し上げます。(H.)