不確実な時代を生きる

マインドファースト理事長
島津 昌代

経済学者のガルブレイスが『不確実性の時代』という書著を出版してから約40年が経ちました。世の中の変化はさらに加速度を増し,地球規模で自然界のバランスが変わり,自然災害も増えました。人の営みである政治や経済の体制も世界の其処此処でめまぐるしく動いており,どういう影響が私たちに及んでくるか,ニュースを見ているだけで気が滅入ります。もっとも不安定な気分での想像は不安な方に傾きますから,あまり考えすぎない方が良いのかもしれません。

よく,「考えていると不安になる」という話を聞きますが,実際には「考えている」のではなくて「想像している」という方が正確なように思われます。不安な気持ちは不安な想像を生み出しやすく,坂道を転がる雪玉のように不安も大きくなっていきます。したがって,どんどん不安をふくらませていく思考はどこかでストップをかける必要があります。「気を紛らわせる」ということはその1つですし,一時の「気晴らし」ということも,実は大切なことです。それらは根本的な解決ではありませんが,簡単に解決しない大きな問題であればあるほど長期戦となりますし,そこで疲弊してしまわないために「気晴らし」や「気紛らわし」で一息つくことが大事になるのです。

昨年末来,こうしたことを考えながら「手間」ということも気になっていました。心の問題を抱えていると日常生活を送る上でけっこう手間がかかることが多くなります。

元気な時は何も考えずにできていたことが気になってしょうがなかったり,簡単に決められていたことがなかなか決められなくなったりと,何かにつけ手間取ることが増えるようなのです。しかし,こうした時に必要なのは,手間を惜しまず,ちゃんと手間をかけて自分のペースでやっていくことで,そうすれば自分なりの手応えを得ることもできるのではないでしょうか。人の世に生きている限り,他人を無視して生きることはできませんが,そうであればこそ,自分以外の人のペースを尊重することも必要なのだと思います。声の大きい人の意見ばかりが通る世になってはいけません。

今年度,私たちは香川県共同募金会の助成をうけて,「メンタルヘルスユーザーの居場所づくり」プロジェクトを始動しました。自分たちの手で,自分たちに必要な場を作り出し,同じ悩みやしんどさを抱えた人たちを相互に支えあっていけるような場をつくろうとしています。この取組みは,大変手間のかかるものであるかもしれませんが,むしろ,きちんと手間をかけて行いたいと考えています。料理と同じで,かけた手間は,必ず一味違う味わいを生みだしてくれる筈で,不確実な時代だからこそ,他人のペースに踊らされるのではなく,今・目の前の自分たちの出来ることを丁寧にやっていきたいと思うのです。ただいま実施中の「心の病から早く回復するためのプロジェクト募金」は,こうした私たちの活動への支援をお願いするものです。心が蔑ろにされない世の中であるために,心の問題に対する皆様の関心とお力添えをよろしくお願いいたします。←




→これで過労死,過労自殺が防げるのか?


労働基準法第32条では,労働時間の上限を1日8時間,1週間40時間,第35条では,週1回の休日の原則が定められている。これに対して,同法の36条には,除外規定として,残業や休日の労働を行なう場合に必要な手続きが定められており,労使が協定を結び,行政官庁に届けた場合は上限を超えた残業が認められる。これを三六(サブロク)協定と呼び,1週間15時間,月に45時間,年間360日以内という運用規定が設けられている。

政府は「働き方改革実現会議」で労働基準法改正案をまとめたい方向で検討に入った。一昨年12月25日の電通の過労自殺が問題になり,昨年11月強制捜査が入った。こうしたことを踏まえ,長時間労働に制限を設け,残業時間の上限を原則「月45時間」「年間360日」とする。ただし,繁忙期は例外として,6か月は「月最大100時間」「2か月間の月平均80時間」まで,年間では「720時間」,月平均で「60時間」は残業を認めるとする考えである。

問題は,現行法の運用で1か月45時間とされている残業の上限を繁忙期は100時間とする点である。過労死ラインは,月に100時間,または2~6か月の月平均が80時間とされている。過労死ラインを上限とした例外規定を設けるというのは非常識極まりない。

隔月100時間の残業や月80時間の残業と言った数字合わせの運用が日常化しかねず,被雇用者の同意があったことや,過労死の上限100時間未満であることなどを理由に,雇用者側に過労死責任を逃れるお墨付きを与えることになりかねない。過労死は,月の残業時間が100時間を超えなくても起こりうることである。月の残業が100時間未満の場合,労災の申請が一層でき難くならないか。

働き方改革は,長時間労働の解消だけではなく,労働人口が減少している中で,労働の多様性を取り入れ,労働生産性を高める狙いがある。本来労働基準法は被雇用者という弱者を守るための法律である。しかし,これでは,働き方改革ではなく,過労死や過労自殺を織り込んだ働かせ方改悪になってしまう。

そもそも残業とは,臨時に,または緊急に,その都度上司の指示を受け部下の同意を前提として行うものである。繁忙期を理由に,残業を常態化させる法律には無理がある。

業種によって繁忙期があることは事実であろう。しかし,これをもっぱら残業で解消するやり方は,根本的に間違っている。日頃から労働環境や職場の人間関係を良好にしておくこと,本来のワーク・エンゲージメントを高めておくこと,繁忙期は柔軟にワーク・シェアリングを行なうとか,この時期の仕事の優先順位を変えるなど,そうした方向での労働現場の改革が必要であろう。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)

第150回理事会報告


日 時:2017年1月16日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町
高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略


【議事の経過の概要及び議決の結果】

第1号議案 ゲートキーパー普及啓発事業への講師派遣依頼に関すること:香川県精神保健福祉センターから,下記2か所への講師派遣依頼があり,いずれも受諾することで了承された。

①薬剤師対象 2月下旬~3月上旬 19:30~21:00 於:薬剤師会朝日町会館:島津を派遣

②三豊市役所職員対象 3月10日前後 10時~or14時~1時間半程度 於:三豊市役所庁舎 花岡を派遣

第2号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:企画運営委員会を基本として進めること,必要に応じて企画運営委員を補充して行うことが確認された。また,情報収集やスーパービジョンは,説明責任を負えるように,目的を明確にし,計画性をもって行うことが確認された。

第3号議案 香川県のピアサポーター登録申込に関すること:香川県障害福祉課マンパワー担当から当法人理事宛に,追加資料を添えてピアサポーター登録申込案内が届いているが,なお趣旨と運用面について不明確な点があるため,県担当者へ再確認することで了承された。

第4号議案 香川県共同募金会テーマ募金に関すること:共同募金会から振込確認が届いた募金者に,お礼状を発送すること,また,礼状文案は島津が作成することで了承された。

第5号議案 2016年度香川県自殺対策基金事業に関すること:①子どもの喪失体験の支援事業
担当理事の説明を待つことで了承された。
②各事業のブロシュール,啓発カードの作成
おどりばの啓発カードについては,AIYAシステムに対象見積りをとり,金額的に問題がなければ,発注することで了承された。

第6号議案 2017年度ファミリーカウンセラー養成講座に関すること:2017年度は,例年の会場であるサンポートの会場確保が困難であるため,丸亀町レッツを使用する方向で利用条件を確認することで了承された。

第7号議案 2017年度総会の準備に関すること:開催日時は,6月19日(月)19時とすることで承認された。また,会場は駐車場の確保の便が良い高松市総合福祉会館を当たってみることで了承された。

第8号議案 NPO法人グリーフワークかがわからの講師派遣および事務局体制に関する提案に関すること:標記NPO法人から,研修会等への講師派遣ならびに事務局業務の共同・共有について提案があった。これについては,今後前向きに検討していくことで了承された。


編集後記:窃盗犯の件数の減少は,監視カメラの設置が広がったから,という見方があります。神なき時代は,非人間的なものがヒーローになるのでしょうか。米国に登場したヒーローは,新しい国づくりのための正義を掲げる無慈悲なダークヒーローなのか,それとも立憲民主主義を無視した専制君主なのか,見方は一様ではないようです。このところ新しいヒーローをめぐる光景にデジャビュ(既視感)を覚えざるをえません。戦いは滅法強いが,民間人や白旗を掲げた敵も殺してしまう戦争映画に出てくる鬼軍曹,事業拡大のための土地を手に入れるために,手段を選ばず牧場主を追い出してしまう悪役実業家の姿と重なります。ハリウッド映画のフィクションの世界にあった原光景が,現実のものになりつつあるのでしょうか。American DreamがAmerican Nightmare(アメリカの悪夢)とならないことを願うばかりです。(H.)