報告

オープンダイアローグセミナー

2月12日(月・祝)10:00~16:00,オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)の協力のもとに,香川県社会福祉総合センターにおいて,オープンダイアローグセミナーを開催しました。講師は,ODNJPから派遣された石原孝二(東京大学大学院総合文化研究科准教授, ODNJP共同代表),植村太郎(精神科医 神戸労災病院精神科部長,一般社団法人日本家族療法学会理事, ODNJP運営委員),石橋佐枝子(姫路獨協大学助教,ODNJP)の各氏でした。受講者は20名でした。

マインドファースト理事長島津昌代の挨拶の後,講師自己紹介に続き,リスニングワークを行ないました。リスニングワークでは,「このワークショップに参加する経緯」「このワークショップに期待すること」の2点について,受講者がペアを組んで,それぞれ話し手,聞き手のロールチェンジを行ないました。ワークの目的には,「聞くこと」と「語ること」を意識的に分けてみると言う意味があります。特に「語ること」は,イメージや曖昧な概念として捉えられていることが,言語化することで明確になるという印象を持ちました。

オープンダイアローグ(以下「OD」)に関する講義では,冒頭でODの3つの側面,「対話実践」「サービス提供システム」「世界観」について解説がありました。

「対話実践」は,①協同,②不確実性に耐える,③対話を目的とする,④すべての人の話を聞く,⑤リフレクティング・トーク,⑥オープンな意思決定,「サービス提供システムは」,①ニーズ適合・統合的治療,②チームワーク,③即時援助,④家族とネットワークの重視,⑤柔軟性,そして,「世界観」は,①他者に耳を傾け,かかわり,応答する,②現実を共に作り上げる,③システムと組織全体に考えを浸透させる,④関係的・文化的なアイデンティティと言ったコンテンツからなります。

続いて,ODの歴史と7つの原則と対話実践の12の基本要素について解説がありました。

ODの発祥の地,ケロプダス病院のヤーコ・セイクラは,もともとはシステム論に基づく家族療法を行なっていましが,1984年,セイクラは,クライエントのことをスタッフだけで話して決めると言うやり方をやめました。クライエントと複数のスタッフの対話こそが,治療方針を決めていく場になることに気がついたと言います。

7つの原則とは,①即時対応,②社会的ネットワークの視点を持つ,③柔軟性と機動性,④チームが責任を持つ,⑤心理的連続性,⑥不確実性に耐える,⑦対話主義(dialogism)とされています。

また,対話実践の12の基本要素は,①本人のいないところでは決めない,②答えの不確かな状況に耐える,③治療ミーティングを継続的に担当する2人以上のスタッフを選ぶ,④クライエント,家族,つながりのある人を最初から治療ミーティングに招く,⑤治療ミーティングを「開かれた質問」からはじめる,⑥クライエントの語りのすべてに耳を傾け,応答する,⑦対話の場で今まさに起きていることに焦点を当てる,⑧さまざまなものの見方を尊重し,多様な視点を引き出す(多声性:ポリフォニー),⑨対話の場では,お互いの人間関係をめぐる反応や気持ちを大切に扱う,⑩一見病気に見える言動であっても,「病気」のせいにせず,困難な状況への「自然な」「意味のある」反応であるととらえて応対する,⑪症状を報告してもらうのではなく,クライエントの言葉や物語に耳を傾ける,⑫治療ミーティングでは,スタッフ同士が,参加者たちの語りを聞いて心が動かされたこと,浮かんできたイメージ,アイディアなどを参加者の前で話し合う時間を取る(リフレクション)とされ,特に,①と②の要素は,ODの対話実践全体に関わる大切な要素とされています。

午後からは4人ずつのグループに別れ,リフレクティングワークを行ないました。聞き手が7分間インタビューを行ない,その後2人のリフレクティングチームがリフレクティングを行ない,聞き手と語り手が1分間の応答,最後に4人でシェアを行なうという進め方です。

本ワークショップの圧巻は,最後のセッションの←




→ロールプレイでした。クライエント役は受講者がつとめ,父親と3歳違いの姉妹の3人からなる家族の家をセラピスト役の3名の講師が訪問する場面です。訪問依頼は妹からあったものですが,姉には精神病症状があり,面接場面に出てきません。一方妹は,これまで姉の異変に無関心であった父親をなじり,セラピストに対しては,「一体どうしたらいいですか」と不満と苛立ちを向けます。

台本も事前の打ち合わせもない即興の治療場面をデモンストレーションするのは,クライエント役,セラピスト役双方にとって,かなり負担が大きく,勇気がいるチャレンジです。クライエント役を演じた受講者からは,ODの真髄に触れたいという切なる思い,そして,セラピスト役を演じた講師からは,ODを普及することへの並々ならない熱意とエネルギーが伝わってきました。

以下は,側聞した受講者の感想です。

①新しい試みのロールプレイは,講師が大変だが,リアリティがあった。②ワークの中でひたすら聞くと言う体験は新鮮であった。③セラピストは,クライエントがいないところではクライエントのことを話さなさず,リフレクティングチームの意見を聞くところが,まさにOD。④セラピストチームとクライエントが時間と空間を共有するという同時性がクライエントの力を引きだすと思った。

(マインドファースト通信 編集長 花岡正憲)


2017年度ゲートキーパー普及啓発事業報告

香川県消防学校専科教育救急科

2018年1月31日(水)9:00~11:50,香川県消防学校専科教育救急科の生徒30名を対象にゲートキーパー普及啓発事業が行われました。

香川県精神保健福祉センターからの自殺の現状と取組みについて説明があった後,マインドファーストから講師として派遣された島津と花岡が,「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」と題して,講義と演習を行ないました。

講義では,「自殺とはなにか」「ゲートキーパーの役割」「自殺に関する神話」「自殺の防御因子」「気づきのポイント」「わたしは,なにができるのか?」「自殺が起きてしまったら」「自殺を考えている人の心理」などについて,解説を行ないました。

演習では,6つのグループに分かれ,ワールドカフェを行ないました。「現在の自殺について,何が問題だと思いますか?」「問題の解決のためにはどのような対応が可能ですか?」「あなた自身は何ができそうですか?」について,3ラウンド行いました。

(文責:花岡正憲)


第164回理事会報告

日 時:2018年2月5日(月)19時00分~20時30分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町
高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:花崎からの1月8日開催の第6回居場所づくり企画運営会議の報告を踏まえ審議を行ない,平成29年度の居場所は,花崎宅で開催する方向で,次回企画運営委員会に諮ってみることで了承された。

第2号議案 ブロシュールの改訂に関すること:フォークス21のブロシュール改訂版の見積もりを業者(遠山氏)に依頼し,変形A4版四つ折りで36,000円,A4版三つ折りで28,000円(いずれも2,000部)が示されたが,従来型変形A4四つ折り版で発注することで了承された。なお,「おどりば」は後刻,花岡が改定案を示すことで了承された。

第3号議案 平成29年(平成30年度事業)テーマ募金に関すること:1月29日時点で23件,24万円であることが確認された。

第4号議案 ファミリーカウンセラー養成講座シニアコース(オープンダイアローグセミナー)に関すること:1月26日に締め切られた標記セミナーの申込者数は20名(マインドファースト会員8名,非会員12名)で確定し,納入受講料総額は,136,000円であった。3名の講師との前日打ち合わせ会は,島津と花岡が対応することで了承された。

第5号議案 NPO認証取得10周年記念シンポジウムに関すること:標記開催時期は,先のカウンセラー会議の意見も踏まえ,2018年度下半期事業として行うことで了承された。なお,特別講演講師は,前回理事会で承認された京都大学こころの未来研究センター教授広井良典氏候補者を第1候補者として当たってみることで了承された。

第6号議案 傾聴ワークショップ(仮称)に関すること:2018年度事業として位置づけるため,担当理事から,年間を通して定期的に標記事業に関する企画並びに収支予算書の説明が予定されていたが,担当理事欠席のため,後日審議を行うこととした。

第7号議案 オフィス本町のカギの管理に関すること:相談支援活動の拠点となるオフィス本町には,現在常駐の管理責任者を置かず,複数の相談員がそれぞれの責任で鍵を所持し,出入りしている。相談支援に関わる人員の増加に伴い,鍵の管理については,一定のルールを設けておくべきであるとの考えから,鍵の受け渡しなどに関する誓約書等の提出を求めるなど,利用規定を設けることが了承された。

第8号議案 ピアサポート事業の連携に関すること:大阪に本社のある地元の訪問看護事業者から,当法人のピアサポート事業との連携を図りたいとの申し入れがあった。後日,先方の担当者と当法人責任者が話し合いの場を持つ方向で調整を図ることで了承された。

編集後記:弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合のJアラートによる避難訓練に対する国民の反応は多様です。「こんなことで命が守れるわけはない」「すでにミサイルはとどいていて間に合わない」「国民の不安を煽って政権の求心力を高めようとしている」「防衛費の増額の口実にするのか」「本気で避難するならシェルターが必要」「原発が先にやられる」 オープンダイアローグの実践は,ロシアの哲学者ミハイル・M・バフチンの対話主義(dialogism)とポリフォニー(多声言語)の影響を受けています。バフチンは,真理は,支配者や権力者の言語ではなく,多次元的・多視点的表現の中にあると言います。民衆的言語は,人々を支配や権力から解放し,新たな世界観を創出する力を持っています。オープンダイアローグのポリフォニーは,本来私たちの身近なところにあるようです。(H.)