報告

マインドファースト
NPO法人認証取得10周年記念シンポジウム

ピアサポート-結論を急がない対話と豊かさ-

2019年2月3日(日)13:30~16:40,サンポートホール高松61会議室において,マインドファーストNPO法人認証取得10周年記念シンポジウムを開催しました。

メンタルヘルスユーザーをはじめ,地域で孤立した若者,ひきこもりの人たちなど,共通の問題を持つ人たち同士が,お互いを迎え入れ,お互いの存在や体験を認めあい,行動する勇気をたたえあう。ピアサポートには,専門家からは得られない対話の場があります。

本シンポジウムはこのような観点に立ち,シンポジスト,参加者と共に「結論を急がない対話」の場を展開するために開催したものです。

シンポジストは,企画者の立場からマインドファースト理事長 島津昌代,当事者(ピア)の立場から,おへんろの駅こくぶ 久保晶代,グループホームネット香川 新村智恵美,マインドファースト 岡本幸子,ピアサポートを支援する立場(行政)から香川県精神保健福祉センター所長 岡﨑由起美,ピアサポートを支援する立場(民間)から竜雲メンタルクリニック精神保健福祉士 山下紀子,コーディネーターは, マインドファーストの花房秀二山奥浩司が務めました。(敬称略)

司会者のマインドファーストの杉山洋子の開会宣言の後,主催者側の島津理事長から以下のような挨拶がありました。「2008年から3代目の理事長を務めており,マインドファーストが掲げたそれぞれの事業を充実して行く過程にある。障害者自らが自分たちのことを決めていく精神を大事にしたい。ともすれば成果を出すこと急がされるが,今日は皆さんとじっくり意見交換をしたい」

引き続き,コーディネーターの指名により,シンポジストが以下の順番で,スピーチを行いました。

島津:ピアサポートとは苦難を乗り切った人が,同じ苦難の中にある人を支えて行くこと。マインドファーストでは,ピアサポートプログラムに早くから取り組んできた。月1回ピアサポートミーティング,週1回ピア電話相談を行っている。マインドファーストが大事にしているトータルメンタルヘルスとは何か。人は何の苦労もなく生きていられるわけではない。困難の中にある時に更に困難が重なることもある。不安定になると健康を支えてくれる人が要るが,そういう存在がいないと,心がつぶれて行く。どんな状態にあっても社会の中で健康に生きて行くことを目指している。マインドファーストは,その人の心を第一にして行く。その人の言葉とつながることで支えられ生きていける。

久保:4月21日,母がグループホームへ入所した。その日から少し淋しくなった。一方で,「こくぶ」での仕事に力が入るようになった。母が認知症になり近所に助けてもらった。近所の陰口に傷つくこともあったが,「こくぶ」で仕事をしていることを認めてくれる人もいた。母が在宅でいたときは出費がかさんだ。入所してからは姉に助けてもらっている。姉とは,それまで疎遠だったが,母親のことで週に一回ぐらい連絡を取るようになった。母と姉との関係も改善,姉は私のことも気遣ってくれるようになっ

た。地域の人にお母さんのこと誰かに相談したらいいと言われた。時には傷つくことを言われたこともあった。そんなとき,「こくぶ」のミーティングで話しあった。今は近所の人は母が在宅でいたときと同じように関わってくれる。姉も「こくぶ」へ行くのが生き甲斐やなと言ってくれる。

新村:趣味とリハビリについて。趣味は読書と映画鑑賞。病気になると趣味を続けることに後ろめたさを感じるようになる。また,病気があると趣味を続けることがしんどくなるが,趣味を続けることはリハビリだと思っている。趣味はコミュニケーション面でも役に立つ。デイケアなんかとの違いは,共通の話題を通してコミュニケーション能力の向上につながる。「何かが好き」という気持ちを大切にして下さい。

岡本:県のピアサポート活動やマインドファーストの電話相談をしている。「半農半ピアサポート活動」の生活。長い間,障害年金をもらわず仕事をしてきた。生活がすさんで,家でも荒れたいた。あるとき主治医が「患者同士がカウンセリングし合うんです」と言ったことがヒント。「半農半Xという生き方」という本に影響を受ける。野菜を作り,自分が作った野菜を食べていく。そして自分がやり甲斐を感じていることが「X」。今は,半農半ピアサポート活動をしている。小さな生き方だが,この生活が気に入っている。畑作業をとおして,ピアサポート活動に役に立つことがあると気づくことがある。10歳ごろ祖母の家へ行ったとき,近所の人が柿をくれた。それから30年たって祖母の畑を唐鍬で耕しているとき,三輪車に乗った子ども通りかかり自分を眺めていた。その時,昔柿をもらったことを思い出した。見る側が,今は見られる側になったと思った。大人になったと思った。私は大人になるということを深く考えないままに,31歳で発症した。大人になると言うことは,地域社会において,人からみられる存在になること,そう思うと,ちゃんとした大人にならないといけないと思う。31歳で発症して,仕事について,毎日忙殺されていた。40歳を越えて成長について考えるようになった。今やっと学び始めているように思う。半農半ピアサポート活動という,畑のコミュニティーと精神医療福祉のコミュニティーの二つのコミュニティーの中で,色々と吸収し,学んでいきたい,と思うようになった。2013年から畑仕事を7年続けることができ,少し自信ができた。ピアサポート活動も長く続けていきたい,と思うようになってきた。畑とピアサポート活動で学んだことは,自分の人生を乗り越える力になったと思っている。

岡﨑:平成12年から平成19年3月までの7年間,中讃保健福祉事務所に勤務。そこで,デイケアに入り利用者と一緒に料理を作ったりして,勉強させてもらった。ピアサポートの支援の一つに,第2月曜にピアサポーターの居場所「はばたき」を開設している。保健所の活動のキャラバン隊は,地域で生活することの魅力を医療機関へ伝える活動。今後の課題として,地域ケアシステム構築には連携が必要と考える。ピアサポートのフォロー体制,就労支援,報酬の支払いがある。専門職種の支援の枠組みは決まっていて使いにくい。専門職種の人がこうした場で話をすることも大切。自分がやれることの「のりしろ」を幅広く持←


→つことで連携の幅が広がる。そのためには日ごろからの顔が見える関係が大切。

山下:学生時代からの源流として長野県にある一軒家での経験がある。それは精神疾患を持っている人たちが集まっている「ひなたぼっこの家」である。人々はピアサポーターという意識を持たずにそこへ集まっていた。「愛のある空間」だった。以来ピアサポーターの力を信じてきた。人は簡単に孤独になるんだなと思った。そこをつなぐのがソーシャルワークだと思った。私ひとりじゃなくて他にもいるんだと言うのが,大きな力になる。ピアサポーター活動をしている人に,どうやったらピアサポーターになれるか尋ねたところ,「自分の体験が人の力になると信じられるだけで良い」と言われた。学生時代に経験した温かいものを思い出してみると,やはり場と時間がいると思う。ここにいる人がここへ座ろうと言う原動力は何か。その過程に誰と何があったのか。そこにピアサポーターとしての可能性があるように思う。それを聞きたいし対話をしたい。

そして,ここへ座ろうと思った原動力については,以下のように語っています。

久保:母のことを応援してくれる人がいたこと。

新村:それが皆さんの役に立つかと思った。

岡本:昔の私の話をすることによって,それが少しでも人のお役に立てるのであれば,という思いでいる。

以下は,参加された方との意見交換です。

参加者の声①:しんどい時,家族はどうかかわったか。

岡本:暴れてひどい時期があった。家族にはそっとしておいて欲しかった。あれしろ,これしろとせかされるのは辛かった。一人暮らしをし始めてから,電話に出てくれないと,母は冷たいなと思った。しかし,こういうのがないと親離れできなかった。親なき後のことを考えると,そういうのが良かったのかな,と思った。

参加者の声②:発病後の話として家族にこうあってほしいというご発言を聞き,そのことは社会全体に言えることであり,私たち一人ひとりに言えることだと思った。そっとしてほしいときがある,考える時間がほしいときがある。今日のテーマが「結論を急がない」ということが挙げられているが,現代社会は結論を急がされている。自分に対しても他人に対しても結論を直ちに求めたがる。いまのやりとりを,ここだけにしておくのはもったいない。社会全体で,一人ひとり自分に問いかけ,ゆっくり考え,行動に移すことを自分にも他人にも認めることが必要であると思った。

参加者の声③:地域生活支援センターの人に,あなたはシンポジウムへ行かなくてもいいと言われたが,やってきた。自分の意思が動いているところから変化が起きている。

参加者の声④:どんなフォローがあるとピアサポートが続けられるか。

岡本:スーパービジョンをしてくれてアドバイスしてくれる人がいると助けになる。私は,カウンセラーや主治医に相談することもある。

岡﨑:行政は,人材育成や普及啓発という役割がある。今日の話を聞いて考え方を変えて行く機会にしたい。聞く耳を持たないといけないと思った。

山下:3人のピアサポーターの方の話がすごくありがたい。もっと聞きたい。福祉的じゃない場にピアの場がある。

最後に,なかなか味わい深い話になった。結論を急がない対話という目標は果たせた。今日の話をきいて感じられたことを皆さんの胸の内に納めてください,と島津理事長からの挨拶がありシンポジウムを終えました。

真理は,多次元的・多視点的表現の中にあると言われます。以上は語られたことのすべてではなく要約です。あいにく紙数の関係で,語られたことのすべてをご紹介できず心残りです。

(文責:マインドファースト通信編集長 花岡正憲)

第175回理事会報告


日 時:2019年2月4日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:  2/10 14時~16時,居場所を開催した。今年度購入予定としていたが未購入のコーヒーカップとオーブンに関しては,現状で使う目処が立たないため購入を見合わせることで了承された。

第2号議案 NPO法人認証取得10周年記念シンポジウムに関すること:①2月3日(日)サンポート第61会議室にて開催し,参加者は51名(一般参加者36名,登壇者8名,スタッフ7名)であった。アンケートも一般参加者の80.6%からの回答を得た。②内容については,いろんな人が参加してくれて,当法人に対する愛情が感じられて良かった/知事からのメッセージが欲しかった/企業や医療関係の参加も欲しかった/今後も開催して今回参加してくれた人とのつながりを継続させたい/男性のシンポジストが1人いるとまた少し違った話の展開になったかもしれない/家族としての父親の姿が見えなかったので、父親のことも聞きたかった等の感想が述べられた。③シンポジストへのお礼状は今週中に島津が作成して発送することで了承された。

第3号議案 2018年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:①各事業のブロシュールの残数を確認したところ,Folks21とHOPEが約400部,サバイビングが約200部であった。当初の事業計画通り,Folks21とHOPEのブロシュールを作成する。サバイビングは当初の予定がカード作成であったが,カードの残数はあるのでブロシュールを作成する。おどりばは,開催日時を変更するためブロシュールとカードを改訂作成する必要がある。

第4号議案 テーマ募金に関すること:1月末に山奥氏が共同募金会に中間報告した。1月31日現在で23名18万円の募金が寄せられているが,13名分までしか報告できていないので,残りは2月末の報告に合わせて報告する。

第5号議案 来年度の事業計画に関すること:ファミリーカウンセラー養成講座の開催にあたり,会場(サンポート会議室,レッツカルチャールーム等)の空き状況を確認し,ファミリーカウンセラー会議で日程を検討することで了承された。おどりばの活動に関連して,ひきこもりの人の家への訪問事業があっても良いのではないかという意見が出たが,それは自殺予防カウンセリング事業のアウトリーチで対応可能と思われる。

第6号議案 ピアサポート活動のファクトシートとブロシュールの関係者・関係機関への発送に関すること:今年度中に発送する。発送作業日については今月のファミリーカウンセラー会議で決定することで了承された。

第7号議案 傾聴・相談力セミナーのブロシュール作成に関すること:吉田理事より,傾聴・相談力セミナーのブロシュールを作成したいという意見が出され,了承した。ブロシュールの原案は吉田理事に作成してもらい,メーリングリストおよびファミリーカウンセラー会議で検討することで了承された。


編集後記:今,国の統計不正が問題になっています。統計または統計学は,英語でstatisticsで,語源的にはstatist+icsです。そして,statistは,統計学者の意味もありますが,国家統制主義者と言う意味もあり,さらにstatistの語源は,state+istで,古義としては政治家という意味もあります。つまり,国家を統制すること(政治)と,統計は,語源的には源流を同じくするという点で,大変示唆的です。こうしてみると,統計数字に何らかの関与ができるところにいる政治家は,それだけ高い倫理観が求められます。国民生活が,こうした虚偽の統計数字で愚弄されては,たまりません。政治家は,国民の声や民衆の対話の中にこそ真実があると言うことに気づくべきだと思います。(H.)