反知性主義と向き合う

「私や妻が(森友学園問題に)関係していたら総理も国会議員も辞める」と首相が答弁したのは,2017年2月17日の衆院予算委員会だった。その直後から財務省の文書の改ざんは始まった。便宜供与が疑われるという財務省の判断があったからであろう。

今年2月には,厚生労働省が公表する毎日勤労統計の不正が明らかになった。賃金や労働時間に関する勤労統計は,GDPの算出などにも用いられ,政府における基幹統計の一つとして位置付けられている。不正な調査手法を容認するマニュアルが作成され,組織的な関与や隠蔽があったことが疑われている。

この問題で,他の政府統計にも疑いの目が向けられ,2月18日の衆議院予算委員会では,この問題を取り上げた野党議員が次のように述べた。

「『良い数字はいいから,悪い数字を持って来い。そこに国民の苦しい生活や,社会の様々な矛盾が隠れてはいないか』と言う総理大臣であれば,そもそも,こうした表層的な数値論争に陥るはずもない」と。その通りであろう。

今日,富める者はより富み,貧しき者はより貧しく,不公平や社会不安が増大している。このところ,格差解消や富の再分配など,政治本来の使命が忘れられている。

そもそも政府統計とは何か,そして統計数値の操作はどのよう意図をもって行われるのか,精神保健行政領域において,身近に見聞きした一つの例をあげておこう。

20年も前になろうか,長年隔離収容政策を行なってきた日本の精神医療現場では,新規入院患者の退院率が年々向上する一方,長期入院患者はいぜん20万人を超え,なおかつ高齢化が進むといった入院患者の二極分化が進みつつあった。

こうした状況下で,WHOやOECDなどから,世界の中

で際立つ精神科入院者数の多さや極端に長い平均在院日数など,日本の精神科医療に対する批判や改善勧告が相次いでおり,国の公衆衛生関係者の間で次のような議論があった。

精神科へ入院している患者のうち,多くが社会的入院(注参照)であるため,こうした患者が入院している病棟は本来の精神科入院病床と見なさず,入退院で動いている入院期間1年未満のものだけを対象にした患者統計として示すやり方もある。こうした議論が,公衆衛生行政分野で,まことしやかに行われていた時期がある。

入院患者数が多いのは,長年国策として行われた隔離収容政策によるもので,社会的入院は,退院促進における国の消極姿勢がもたらしたものである。

2014年4月施行された改正精神保健福祉法では,厚生労働大臣の定める指針の中で精神科病床の機能分化に関する事項として,1年以上の長期入院者の地域移行を推進するため,多職種による退院促進に向けた取組を推進すると記載されている。しかし,その後の動きを見る限り,実効性のある取り組みが行われているかどうかは,はなはだ疑問だ。

国は,国民の健康や生活を守るのためではなく,政策判断の間違いや行政の不作為への批判を恐れ,統計基準を操作することはあり得るということだ。事実を糊塗する誤謬を犯してしまうのは,官の無謬性の皮肉とも言えよう。

こうしたミスの背景にあるのは,「まあ,これぐらいは,いいだろう」と言う反知性主義に他ならない。反知性主義は,意思決定過程の歪みに対する感覚を麻痺させ,それによってもたらされる結果は,正当性を持たなくなる。

「これぐらいは,いいだろう」。反知性主義は,私たちの身近な生活の中にも潜んでいる。そして,そのすき間に落ち込むのは,いつも決まって社会的弱者である。←


→こうして不公平は是正されないどころか,一般社会からは,ますます見えにくくなって行く。

政治が本来の役割を果たしていても,制度や公的サービスのすき間の発生は避けられない。こうしたところに,市民活動や非営利活動の存在意義があるのだろうが,このところ,こうしたすき間が,修復不能になりつつあるのではないかと感じることがある。反知性主義がもたらす不幸が,この国に生まれたことの不幸にならぬことを願うばかりである。

(注)社会的入院:病気は早い時期に治癒しているのに,退院先の家族や地域の受け入れ態勢が整わず入院が長期化した状態,ないし,精神的危機に際して,地域の支援がないために,本来入院は必要ないのに,入院が選択される状態。

技術援助

三豊市ゲートキーパー研修事業

2019年3月1日(金)15時~16時30分,三豊市危機管理センターにおいて,ゲートキーパー研修事業が行われ,マインドファーストから花岡が講師として派遣されました。

三豊市役所職員41名を対象に,県精神保健福祉センターから自殺の現状の説明があった後,「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」というタイトルで,70分にわたり,講義とグループワークを行ないました。

講義の概要は以下のとおりです。

自殺関連行動の5つの局面がある。
①自殺思考:「自分はいない方が良いのでは?」「うまく行かないことが多いな…」
②自殺の前兆:「どんな死に方が楽かなぁ」自分を傷つける気持ちがありそうな言動-見過ごされやすい-
③自殺の仕草:手首の刺し傷や引っかき傷,自分や他人への暴力,大量服薬やアルコールとの併用-cry for help-
④自殺未遂:心身に及ぼす傷-麻痺,脳障害,腎機能障害,心の傷と“失敗”したことによるさらなる自己像の低下-
⑤自殺既遂:人の悲劇的終局

1999年,CDC(米国疾病予防管理センター)は,実証的研究に基づいて,自殺の危険因子と自殺の防御因子を明らかにしている。

自殺の可能性がある人への接し方のポイント以下のとおりである。

①問いかけよう
②その気があるか尋ねよう
③サポートを提供しよう
④こちらから出向こう
⑤利用できる資源を活用しよう
⑥迅速に動こう
⑦あなたが心配していることを伝えよう
⑧希望を与えておこう
⑨利用できる相談機関や支援機関の活用をすすめる。

自殺予防には,一人ひとりがネガティブな思考へ気づくことが大切である。費用対効果と言う点からも,精神医療よりも心のケアに重点を置いたメンタルヘルス活動が大切である。

演習では,事前に参加職員から希望があった「自殺を考えている人にどのような状況や背景があるか理解し,今後,当事者から相談を持ちかけられた場合にどのように対応すればよいか,グループワーク等で考え実践に生かせるようにしたい」という意見を踏まえ,仕事上の不満と家庭に悩みを抱える43歳の男性の仮想事例について,「何ができるか」という視点でグループでの意見交換を行ない,

研修を締めくくりました。

第177回理事会報告

日 時:2019年3月11日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:今年度の居場所作り事業は3月10日で終了した旨,山奥より報告があった。その中で,スーパービジョン(以下「SV」)の謝金が予算化されていないため,支払いがされていないことについて検討の結果,事業が当初予定していた展開をせず,当初予定していなかったSVを開催した。現状でのSVは,居場所作りを進めるためには必要であると認め,SV謝金を支払うことで了承された。

第2号議案  テーマ募金に関すること:2月28日現在,35名の方から318,000円の寄付が届けられたとの報告があった。次回共同募金会連絡会に担当者として山奥が報告をするということで了承された。

第3号議案 傾聴・相談力セミナーのブロシュール作成に関すること:担当者欠席のため審議未了

第4号議案 来年度の事業計画に関すること:①総会開催について。日時:6月17日 19時~20時30分,場所:四番丁コミュニティーセンター ②役員改選について。現理事に再任の確認を行う ③新規事業について。ファミリーカウンセラーに新規事業の募集を行う ④ファミリーカウンセラー会議の開催日時について。参加可能な曜日を確認する ⑤2019年度ファミリーカウンセラー養成講座について。開催日を6月23日,6月30日,7月7日,7月14日,7月28,8月4日とし,丸亀町レッツの空室確認を行う ⑥受講者募集チラシの発送を4月21日10時~オフィス本町で行う。

第5号議案 NPO法人認証取得10周年記念シンポジウム記録の扱いに関すること:2月3日に開催されたシンポジウムにシンポジストとして参加された方から,理事長宛にホームページなどで当日の内容がオープンになることに抵抗がある,との申し入れがあった。理事会としては,事前の説明会を2回開催し,十分説明を行い,原稿についても本人の確認をとってあるためなんら問題はないと判断した。しかし当人には何らかの混乱が起きていることが推察されるため,島津と花房が直接本人と会い,まず真摯に話を聞くということで了承された。


編集後記:ビールなどアルコール飲料や滋養強壮剤のテレビコマーシャルに,スポーツ選手やアイドル歌手が出演することが,若年層に与える影響は少なくありません。若い人たちの憧れの的だけに,アイデンティティの対象として,その言動が取り入れらがちです。スターやアイドルとしての社会的成功が,アルコールや栄養ドリンクの使用と関連づけされやすくなります。アルコールや薬物依存症予防の観点から,諸外国ではアルコール飲料のコマーシャルに,スポーツ選手や若者アイドルの起用を禁じる広告規制があります。ICHIROが米メジャーリーグの現役引退を表明しました。現役時代の活躍を称賛し,引退を惜しむ声は少なくありません。そのICHIROが,日本のビールや強壮剤のコマーシャルへ出演しているものがあります。米国で,メジャーリーグの選手が,アルコール飲料や滋養強壮剤などのコマーシャルに出ているという話は,寡聞にして知りません。ICHIROに,依存問題への理解があるかどうかは分かりません。しかし,コマーシャル出演のオファーがあったとき,有名人であれば,それが人々や地域社会に与える負の側面を考えておくことは大切でしょう。社会問題,健康問題の発生原因責任者としての自覚というアングルで有名人を見ておくことも必要でしょう。彼のスポーツ界における貢献を否定する考えは毛頭ありません。だからと言って「これぐらいは,いいじゃないか」という反知性主義に与するわけにもいかないのです。(H.)