ひきこもり

「犯罪は起こすことはない」だけで済むのか

内閣府は,3月末,「中高年者のひきこもり」に関する調査結果を公表した。調査は,2018年12月に行われ,全人口で推計して61万3千人になるという数字を出している。

5月28日朝,川崎市登戸でスクールバスを待っていた児童ら20人が殺傷されるという事件が起き,犯人は直後にその場で自殺した。6月3日には,44歳の長男への殺人未遂容疑で元農林水産事務次官で76歳になる父親が逮捕された。父親は川崎市の事件に触れ,「長男が子どもたちに危害を加えてはいけないと思った」という内容の供述をしていることが明らかになった。

長男が殺害された6月1日,容疑者の自宅近くでは,小学校の運動会が開催されていた。長男が「運動会がうるさい」と言い出し,父親がたしなめたところ,「ぶっ殺すぞ」と反発,小学校に乗り込むという言動があり,犯行に及んだという。長男は,これまで仕事をせず,引きこもっていた。

この事件の報道に対して,支援者や支援団体などは,「ひきこもりは,犯罪とは関係ない」のコメントや声明を出した。識者や研究者も,「ひきこもりは,犯罪は起こすことはない」とコメントしている。

「ひきこもり」は,1980年代から社会問題化している。先の内閣府の調査について,ひきこもり研究の第一人者は,推定ではこの2倍はいる,全人口中では200万人にのぼると,その深刻さを強調し,中高年化については,自治体や政治の怠慢を批判している。

一方,ひきこもりの解決や予防となると,識者や専門家は,これまで何を語ってきただろうか。かつて,不登校は放置していると廃人になると語った思春期専門の精神科医が非難受けたことがある。ひきこもりについても,いまだ解決されず,ただ増え続ける社会現象として行政責任を問うだけでは,一般の忌避感情や関係者の無力感が広がるのも無理はなかろう。ひきこもりを語る専門家の話の中に,その解決の糸口を得た家族や関係者が必ずしも多くないことも事実であろう。

内閣府は,今回の調査で,ひきこもりを自室や家からほとんど出ない状態に加え,趣味の用事や近所のコンビニ以外に外出しない状態が6か月以上続く場合と定義し,過去の同種調査では専業主婦・主夫は含めなかったが,今回は家族以外との接触が少ない人はひきこもりに含めた。

このように,いまだに,ひきこもりの定義は流動的で定まっていない。これでは,ひきこもりと言う現象が拡大解釈されかねず,現場でのアセスメント力の向上や支援経験の蓄積は期待できない。何らかのメンタルヘルス上の問題

を抱えた一群というブラックボックスができてしまっているのではないか。こうした不透明感が,犯罪予備軍としての社会不安をもたらしている一面は否定できない。

統合失調症をはじめとした精神障害と犯罪との関連については,学会でも長年論争を呼んだが,ほぼ決着がついている。1998年10月時点で,日本の総人口は約126,500,000人(A),そのうち約2,170,000人(厚生省の推計)が精神障害者といわれている(B)。「2000年版犯罪白書」によると,刑法犯検挙人員315,355人(交通関係業務上過失事件を除く)(C),Cのうち精神障害者は636人とその疑いのある者1,361人の合計1,997人(D)である。こうしたことから犯罪を犯した者が総人口の中に占める割合は,C/A×100=0.25%で,犯罪を犯した精神障害者(疑いのある者を含む)が,精神障害者全体の中に占める割合は,D/B×100=0.09%となる。精神障害者の刑法犯は,一般と比較して明らかに少ない。

「ひきこもりは推計よりも多い」「政府はもっと真剣にこの問題に取り組むべき」と,見えている部分は一部で,見えていない大きな部分があることを強調し,国の責任を問う。専門家に求められるのはこうした語りだけではなかろう。40年近い実践経験を踏まえた,ひきこもりの成立要因に関する知見,そしてその解決と予防策に関する明証性のある語りであろう。長くひきこもりと見られてきたものの中には,初期の精神疾患,発達障害,遷延化したうつなど,支援や対応が可能なものも少なくない。ひきこもりというごみ箱診断化が進み,何よりも解決可能な問題まで先送りされることだけは避けたい。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)


報告

2019年度通常総会

2019年6月17日(月),高松市四番丁コミュニティセンターにおいて,2019年度通常総会を開催しました。

以下は,審議の概要です。

第1号議案 2018年度事業報告:理事長島津昌代から,総会資料に沿って,2018年度の事業の実施状況について報告が行われた。この後,議長が,第1号議案について質疑を求めたが質問はなく,採決に入り拍手多数により承認された。

第2号議案 2018年度収支決算報告:理事長島津から,総会資料に沿って,2018年度の収支決算について報告が行われた。

第3号議案 監査報告:監事井原惣七から 監査報告があり,2018年度事業における収支決算について,監事長門恵子とともに2019年5月27日に監査を行ったところ,適正かつ正確に執行されていると報告があった。←


→この後,議長が,第2号議案と第3号議案について一括質疑を求めたが質問はなく,採決に入り拍手多数により承認された。

第4号議案 2019年度事業計画案:理事長島津から,総会資料に沿って,2019年度の事業計画の説明が行われた。うち新規事業「リトリートたくま(子ども・若者孤立化防止支援事業)」について,副理事長柾美幸から追加説明が行われた。この後,議長が,第4号議案について質疑が求めたが質問はなく,採決に入り拍手多数により承認された。

第5号議案 2019年度収支予算案:理事長島津から,総会資料に沿って,2019年度収支予算案の説明が行なわれた。

この後,議長が,第5号議案について質疑を求めたところ,以下のとおり質疑応答があった。

質問1)寄付金収入を500,000円に減額して計上したの何故か。 回答1)2018年度は,900,000円計上していたところ,大口の2件の寄付金額が合計で80万円あり,総額で1,215,773円となった。テーマ募金を見る限り,3年目の2018年度は落ち込みが大きくなっている。2019年度も,大口寄付,テーマ募金ともに,例年ほど期待できないと考えている。質問2)理事の労力が大きくなっている。今後役員報酬の支払いを検討してはどうか。 回答2)理事会で検討する。質問3)2019年度も香川県共同募金会のテーマ募金を申請しているが,事務作業が大きい。募金者が増えている状況から,一般募金に重点を置いた活動に転換したらどうか。 回答3)検討したい。

この後,議長が,第5号議案について,採決を行なったところ,拍手多数により承認された。

第6号議案 役員選出に関する事項:定款第13条及び第16条の規定により役員選出の手続きが行われた。島津理事長から,事前に自薦,他薦の届はなかったと報告があった。この後,島津理事長から,現任の理事8名のうち,1名が任期中死亡退任,1名が今期で退任の意思を表明,1名が過去1年理事会の出席もなく連絡が取れない状況であることについて報告があった。この後,以上の3名を除く5名の現任理事並びに新たに2名の会員を加えた7名を理事候補として,また現任の監事2名を監事候補として,それぞれ推薦したいとの意見表明があった。また,監事長門恵子から,定款第13条に理事定数が8人以上10人以内と定められていることを踏まえ,定款17条により定数未満の7名を候補として採決を行うことは定款違反を問われないものの,今後,理事としての適任者がいれば,臨時総会を開催の上補充を行うよう指摘があった。この後,定款第23条(6)に従い理事並びに監事それぞれの選任の賛否を求めたところ,賛成多数で承認された。被選任者は,いずれもその席上就任を承諾した。

理事に選任された者は次のとおりである。

理事 島津昌代 (重任) 理事 花岡正憲 (重任)
理事 花房秀二 (重任) 理事 柾 美幸 (重任)
理事 宮井輝男 (新任) 理事 山奥浩司 (新任)
理事 吉田 修 (重任)         以上7名
監事 井原惣七 (重任) 監事 長門恵子 (重任)

以上2名

第181回理事会報告

日 時:2019年6月10日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関する事項:6月2日・6月9日に開催したが,参加者は2名であった。開催場所が交通の便が悪く参加できない人も多いのではないか。また食事会のようなものを希望する人もいることから,毎回固定した場所ではなく,時折街に出てショッピングモールのフードコートなどで開催するなど,柔軟に計画をしていくことで承認された。

第2号議案 NPO法人認証取得10周年記念シンポジウムのHP報告記事について,会員から出されている削除希望の扱いに関する事項:編集長が6月10日に本人と話し合いを行った。本人からは,①ニュースレターの中に書かれていた,当日の参加者の中からの質問に答えた部分の削除。②実名のところを「ピアサポーター」と表記してほしい。と2点についての要望があった。理事会としては当日質問をした人の思いを無視することはできない。ピアサポーターとしての発表ではない。事前の打ち合わせから記録の完成時まで本人の了解を取り,確認を重ねてきた。シンポジウムの記録はMFの歴史として当会の財産である。これらのことにより変更はできないと結論を出した。編集長より本人に会って伝えることで承認された。

第3号議案 総会に関する事項:会員30名,委任状現在4名,当日の役割を決定した。

第4号議案 傾聴・相談力セミナーのブロシュール作成に関する事項:担当者欠席のため審議未了

第5号議案 香川県NPO基金「団体指定寄付」基金登録団体のPRページ作成に関する事項:花岡理事が作成することで承認された

第6号議案 AIYAシステムの事務委託に関する事項:委託業務の諸条件について,理事長とAIYAシステム間で協議の場を設けることで承認された。

第182回理事会報告

日 時:2019年6月17(月)21時10分~21時50分
場 所:高松市四番丁コミュニティセンター 高松市番町二丁目3-5
事務連絡および周知事項,報告事項:なし
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 理事長及び副理事長の選任に関すること:定款14条3に基づき,理事長及び副理事長の互選が行われた結果,理事長に島津昌代が,副理事長に花房秀二と柾美幸がそれぞれ選任された。

第2号議案 事業担当理事に関すること:2019年度の事業ごと担当理事を定めて事業を行うことが了承された。また,具体的な分担は,次回理事会において審議することで了承された。

編集後記:旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を受けさせられた障害者らへの救済法が4月24日,参院本会議で全会一致で可決成立しました。国家賠償訴訟が起こされた事案で,判決前に被害者の救済法が制定されるのは異例です。高齢化が進む被害者の早期救済に一歩前進した形ですが,一時金の額や周知方法には,被害者側の反発も強く,全面解決に向けては課題が残ります。被害者からは「救済策を勝手に決めるな」という意見が出ています。被害者からの意見聴取が行われないまま国会審議が進んだことは問題です。お詫び代として320万円の一時金の支給については国からの通知はなく,本人からの申し出があった者が対象になります。救済法前文に,被害者が受けた苦痛に対して「我々は,それぞれの立場において,真摯に反省し,心から深くおわびする」と明記されていますが,国の責任や違憲性は認めていません。このタイミングで成立させたのは,福祉後退との批判をかわすための近づく国政選挙目当てと,国家賠償訴訟における国の責任逃れと見られても致し方ないでしょう。一時金で済むお詫び代は,総額にして,ステルス戦闘機1機分にも及ばず,現政権にとっては,この程度で政権浮揚につながるのであれば安いものだと見ているのかも知れません。被害者の方たちにとって失われたものの大きさを考えると,国の責任で行う損害賠償を含めた恒久救済制度であるべきです。(H.)