搾取される人々

~「自粛要請」と「自粛警察」~

新型コロナウイルス対策の感染拡大を予防するために,緊急事態宣言下で,国から休業外出自粛要請が出された。

「自粛」とは,「自分から進んで,行いや態度を改めて,つつしむこと」である。自粛は自制(セルフ-コントロール)と同義だから,外部からの影響を受けない自発的意思行為である。一方,「要請」は,強く請いもとめることである。従って,国の国民への自粛要請とは,単なるお願いではなく,国が明確に何かをすることが前提になる。そうしたことから,自粛に伴う損失への保障なしにはありえず,自粛要請は経済政策とセットであることは言うまでもない。

昭和天皇の崩御の際にも「昭和の自粛」があった。昭和天皇が亡くなったのは1989年の1月7日であるが,昭和天皇の容体悪化が伝えられた1988年9月19日から,すでに社会の「自粛ムード」が街を覆うようになって行く。

当時の自粛エピソードは,以下のようなものある。テレビ番組の冒頭の軽快なテーマソングがなくなる。各地で伝統の祭りが中止になる。東京六大学野球の早慶戦で,大太鼓による応援が禁止される。クリスマスケーキの生産量が平年の2割減,街のクリスマスソングも控えめになった。祝賀会や結婚披露宴も中止や延期になる。年賀状に「賀正」や「寿」を使わない。一方で,過剰な自粛に疑問を投げかける声もあり,中止された祭りの主催者などには抗議が殺到する事態にもなった。

社会や国家は人民の自発的な契約によって成立している。個人は,生命,健康,自由,財産に関する権利の一

部を政府に託しているに過ぎない。まして,人民と国家の間に「自粛契約」と言ったものがあるわけではないから,契約にないことを国から求められても,主権者には抵抗権がある。自粛要請が出ても,人々は営業を続け,県境を越えて移動し,行楽地やパチンコにも出かける。

これに対して,店のシャッターに「コドモアツメルナ オミセシメロ マスクノムダ」「このような事態でまだ営業されますか?」という紙が貼られたり,県外ナンバーの車が嫌がらせを受けたりする。マスメディアは,行楽地の立ち入り禁止ゾーンに入る人やパチンコ店の開店を待つ列に並んでいる人に,「自粛要請が出ているのご存じですか」と「自粛警察」さながらマイクを向ける。

一般市民やマスメディアが,自警団となり超法規的な私的制裁を行う。権力者によって国民の劣情が刺激され,統治者の側について行動する。こうしたことは,これまでの歴史においても見られた。

1923年 (大正12年)の関東大地震によって生じた関東大震災の混乱の中で,官憲や自警団などにより多数の朝鮮系日本人や朝鮮人と誤認された人々が殺害された。東京で朝鮮人が暴動を起こしたと告げ,各地での朝鮮人の取締りを命じたものだった。

その対象が外国人になることもあるが,近年ではホームレスや生活保護者,障害者であったりする。

2016年7月に起きた障害者施設津久井やまゆり園で起きた障害者死傷事件は記憶に新しい。容疑者は,「重度障害者の大量殺人は,日本国の指示があればいつでもできる」と語ったことがあり,事件に先立ち衆議院議長に出した手紙では,「想像を絶する激務の中大変恐縮ではございま←


→すが,安倍晋三様にご相談頂けることを切に願っております」と述べている。

政府は,自粛要請を呼びかけるが,経済保障なしでは,協力しない国民がいることは百も承知している。そこで,政治家は,自粛要請を出しても,従わなければ,罰則を規定した特措法などを設ける必要が出てくるなどと放言,国民へ圧力をかけてくる。

かくして日本文化における同調圧力は,自警力を発揮し,実質的に公設民営型ロックダウンとして機能する。国民の相互監視機能を見越して,自粛を要請しているのであれば,政治の怠慢であり,保障なしの自粛要請は国家の国民からの搾取に他ならない。

『疫病と世界史 上・下』(ウイリアム・H・マクニール 佐々木昭夫訳 中央公論新社 2007)は,ミクロとマクロの2つの「寄生」を中心的要素として人類史を捉えている。「ミクロ寄生」とは悪疫をもたらす病原体による人体への寄生,「マクロ寄生」とは政治社会的なヒトへの支配体制,すなわち権力側の民衆への搾取システムであると言う。

政治家を甘やかせて,国民が国民を叩き,排斥しようとする。これが「自粛警察」の本態だ。政治家へ忖度する国民に政治が寄生していることに気がつけば,自粛警察に走る人たちも,搾取される側であることが見えてくる。

かつて第二次大戦下,国民統制のために作られた地域組織の「隣組」は,思想統制や住民同士の相互監視の役割も担っていた。私たちの主権者意識の遅れは,時代を経ても,さほど変わってないのかも知れない。

国民は,増殖のために宿主を求めているウイルスと言うミクロの危機に晒されているだけではない。分断支配する政権にマクロ寄生をされる好都合な宿主になる危機の中にもいる。

(マインドファースト通信 編集長 花岡正憲 2020.05.25)

第194回理事会報告

日 時:2020年5月11日(月)19時00分~20時45分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 平成31(令和元)年度共同募金(令和2年度助成事業)テーマ募金助成事業変更申請書および令和2年度共同募金(令和3年度助成事業)テーマ募金申請書に関すること:標記令和2年度助成事業については,平成31年度テーマ募金の確定額408,000円と前年度未執行分を合わせた624,018円と利用者負担金135,000円の合計額759,018円を収入総額として,助成事業変更申請を行うこと,並びに令和2年度テーマ募金申請は,前年度並みに募金目標額を500,000円として申請を行うことで了承された。

第2号議案 2020年度総会に関すること:理事長から,事業報告書,活動計算書,事業計画(案),予算(案)についての説明が行われた。2020年度事業計画案ならびに収支予算案については,相談事業に伴う支出増が見込まれることから,正味財産の減額を極力抑制するために,5月31日の総会資料発送日までに,事業計画の見直しを行うとともに,次年度の事業目標として,一般寄付活動

の強化を行なうことで了承された。

なお,認定NPO認証更新手続き過程における現地指導において,2019年度に理事1名の欠員が7か月間生じていたことの指摘があり,その解消法の一つとして役員定数の改定の示唆があったが,現状では役員定数を満たしていること,むしろ,理事を承諾しながら理事会への欠席が常態化していることの方が問題であることなどの認識に立ち,今後の推移を見守りながら,次期役員改選の段階で,判断することで了承された。

第3号議案 ユーザーの「居場所づくり事業」に関すること:「REPOS」への参加は,ぴあワークス参加者及びその家族のみを対象とするという当初のルールを廃止すること,第1及び第2日曜日14:00~16:00,オフィス本町において開催することで了承された。

第4号議案 「リトリートたくま」に関すること:スタッフに対するコンサルテーションの有用性が確認され,今後定期的に実施するために,具体的な人材の確保を行なうことで了承された。

第5号議案 ファミリーカウンセラーの活動の活性化に関すること:ファミリーカウンセラーの学習意欲に応えるために,ファクトシートの読み込み等,学習の場を定期的に持つことで了承された。

第6号議案 新型コロナウイルス感染影響下におけるグループワークの開催に関すること:当法人では,新型コロナウイルス感染拡大防止のため,一部のグループワークについては,随時休会の措置を取ってきた。緊急事態宣言下において香川県では,5月7日から休業要請は行わないとの発表があったことから,グループワークについては,「三密」を避けるとともに,1.8メートルのソーシャルディスタンシングを確保した上で実施すること,また,その旨ホームページでグループワーク実施の要領について周知を行うことで了承された。

編集後記:全国で初めて18歳未満の子どものゲーム時間を定めた「ネット・ゲーム依存症対策条例」は,憲法で保障された自己決定権を侵害する恐れがあるとして,香川県弁護士会は5月25日,条例の廃止を求める会長声明を出しました。県議会や県にも声明を送付し,対応を呼びかけています。声明は,4点を理由に挙げ,条例廃止と特に18条の即時撤廃を求めています。その一つに,子どものゲーム時間の目安を定めた18条は憲法が保障する自己決定権を侵害する恐れがあると言うものです。これに先立ち,高松市の17歳の男子高校生と母親が,本条例は,幸福追求権やプライバシー権などを保障する憲法に違反しているとして,県に賠償を求める訴えを起こすことが報じられました。パブリックコメントで同様の趣旨を訴えてきたマインドファーストは,今後もこうした動きを支援していきたい考えます。◆4月終わりに全戸に配布された「香川県緊急事態宣言」のチラシに,知事から県民への5項目のお願い事項が書かれています。その第1項に「人との接触をできるだけ減らしてください」とあります。憲法に規定されている移動の自由,集会の自由の制限に関わることです。難しいことを簡単に言うものだなという印象でした。新型コロナウイルスの影響により,世界中で外出の自粛やロックダウンが相次いだことで,エッセンシャル・ワーカーという言葉が注目されるようになりました。感染防止のため外出が制限される中でも,この人たちは職場に行き,働かないと社会が回らない「どうしても必要な仕事」に従事している人たちです。医療,保健,介護,エネルギー,通信,農業,食品,電力,鉄道,配達員,ごみ収集などの分野で社会を支える人々です。一方,出勤抑制,在宅勤務,テレワークなどで,通勤,出張,会議への出席,名刺交換などが少なくなった分野もあります。ホワイトカラーとは,実は非効率的な労働形態であったことが,暴露された感も無きにしも非ずです。いかにも仕事をしている,社会を動かしている「かのような」フリが通用しなくなったのは,政治家だけはなさそうだと言えば言い過ぎになるでしょうか。(H.)