活動報告 技術援助

高松市保健師等研修会
「レジリエンス研修」


マインドファースト理事長 島津昌代

2021年7月19日午後2時~3時30分,保健師等研修会が高松市保健センターで行われ,マインドファーストから島津が講師として派遣されました。参加者は高松市健康づくり推進課保健師を中心に,臨床心理士,管理栄養士を含む40名でしたが,本研修会は市職員の資質向上を図るために毎月行われているものであり,最近注目されている「レジリエンス」について学びたいという意向を受けた内容で実施しました。

「レジリエンス」が注目されるようになってきたのは,比較的最近かもしれません。研修会に参加されていた人達に聞いても,数年前に知ったという人から1年前くらいに知ったという人までバラツキがありました。一般的には,先日帰還した野口聡一氏搭乗の初の民間宇宙船の名前が「レジリエンス」だったことは記憶に新しいかと思います。

「レジリエンス」は日常用語としては「逆境を跳ね返して生き抜く力」と定義されていますが,元の意味は,「はね返り・弾力」で,これは「外力による物体の歪み(ストレス)に対する反発・復元力」を表しています。つまり,ストレスのあるところにはレジリエンスがあり,レジリエンスのないストレスはないということ。ストレスとレジリエンスは一心同体の現象であり,「生体のストレス状態には常にレジリエンス活動が内在している」ということであり,それが,私たちの自己回復力だということです。

研修では,そうした説明の後に,「患者の立場から見たレジリエンス」として,統合失調症の患者さんとうつ病の患者さんの体験記を読んで,その感想をグループで話し合っていただきました。当事者自身による回復の語りは参加

者にとってかなり印象深かったようで,病からの回復=「治る」ということは,病気になる前の自分に戻るのではなく,無理のない生き方にシフトしていくことであるという気づきや,理想に縛られるよりも,「ともかく主義」で些細なことからまず動いてみること,時には無理せず撤退することも大事,そしてちょっとした新奇体験を味わうことの意義深さが感想として述べられました。

また,自分たち自身のレジリエンスを高めるために,各自のストレスマネジメントを振り返って自分自身のコーピングスタイルについてもグループで話し合っていただきました。

今回の研修は,コロナ対策に留意しながらグループワークが行えたので,自分達の知っていることや感じていることを「レジリエンス」という概念と照らし合わせて理解を深めることができたように思います。こうして具体的に理解を深めることで,関わる人達のレジリエンスを高める支援につながっていくことを願ってやみません。

コロナ禍点描

「ワクチン受けましたか?」


「ワクチン受けましたか?」は,コロナ禍の時候の挨拶と言えるほど単純ではない。この問いかけには,人それぞれの思いや意図がある。

まだ受けてないかもしれないと心配してくれて,「ワクチン受けましたか?」と問いかけられたときは,受けていない事情を丁寧に説明する。

ワクチンの副作用への不安から,接種者の体験を聞きにくる「ワクチン受けましたか?」もある。この時は,一般的な有害事象ではなく,過去にインフルエンザワクチンを受けたときの個人的体験を話すことにしている。

「ワクチン受けましたか? 私はこれから受けようと思っています」に対して「当分は安心ですね」と返すと相手は怪訝な表情になる。←


→ワクチンの長期的影響に関する情報が不十分な中で,終生免疫を獲得できると思いこんでいる人が少なくない。2回目接種後6か月の発症予防効果は90%以上であったという報告もあるが,予防効果がどれ位持続するかは現時点で不明である。こうした人には「インフルエンザワクチンと同じですかね」と一言添えると,少し気を取り直した表情になる。

「ワクチン受けましたか?私は受けました」と興奮気味に連絡してくる人もいる。順番がなかなか回ってこないと思っていたところ,予想外に早く受けられたことで,幸運と感謝の気持ちを語る。戦後の窮乏期に先を争って配給の列に並んだサバイバル世代だ。

同じ「ワクチン受けましたか?私は受けました」には,それだけで話が終わってしまうものがある。優位性を誇示したがるマウンティングには不快感が残る。

「受ける受けないは個人の自由ですが,受けない人は自分の周りにはワクチン接種を受けた人がいて,受けない人が守られていると言うことを知っておくべきです」などと感染症学の専門家がテレビでコメントする。受けない人は,受けた人に感謝しろとでも言いたいのか。集団免疫と集団指向は別だ。集団免疫は科学だが,集団指向は,純化思想につながる危険なイデオロギーだ。

何気ない「ワクチン受けましたか?」と言う問いかけでも,勝ち組に乗ろうとするトレンド指向は人を傷つけやすい。ワクチンを受けた人たちのコミュニティの側に身を置くことには敏感だが,受けることが遅れている人や受けない人の側に立った想像力が欠如しているからだ。

エレベーターに最後に乗り込んだ人が,急いで「閉」のボタンを押すのは,よく目にする日本的光景だ。同じエレベータに乗り合わせた人たちという偏狭な「世間」を作ってしまい,そこから排除されたくないと言う不安心理が働くからだろう。子ども連れや体の不自由な人など,さらに遅れてエレベーターに乗り込んでくる人がいないとも限らない。人はそれぞれの事情の中で生きていると言う広がりのある世界を想像できない人は少なくない。

狭い世間からのけ者にされたくないというエゴイズムが,結果的に仲間外れを作ってしまう。ワクチンハラスメントが起きるのは,専門家や有識者の言説と先のマウンティング族があいまって,社会の不寛容を招くからだ。

自分と事情が異なる他者への想像力は,「道徳的想像力」とも呼ばれる。今この瞬間に働かせることができる他者への想像力は,社会正義や他者への尊厳だけでなく,カウンセリングや支援活動にも関わる鍵概念であろう。

(マインドファースト通信 編集長 花岡正憲)


第209回理事会報告

日 時:2021年7月12日(月)20時30分~21時15分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること:島津から会計報告があり確認承認された。

第2号議案 ユーザーの「居場所づくり事業」に関すること:7,8月は山奥はファミリーカンセラー養成講座・基礎コースに参加するため,「REPOS」は植松が1人で担当する。7月4日開催の「REPOS」の参加者1名,7月11日は参加予定者1名だったが欠席だったと植松から報告があり,秋からファミリーカウンセラーがスタッフとして月1回出席する予定であるが,今後は当事者の家族の参加を求めていくことで了承された。「リトリートたくま」は8月4

日スタッフ会議を予定している。今年度のコンサルテーションの回数などを相談することで了承された。

第3号議案 各理事の事業担当に関すること:普及啓発事業:花岡,相談支援事業:大西,植松,山奥,柾 教育研修事業:大西,島津,技術援助・技術協力事業:島津,人材・組織育成事業:花房,森本,調査研究事業:植松,花岡,山奥,権利擁護事業:花房,山奥,国際協力・国際交流事業:花岡,事務局:島津,柾,広報担当:花房。以上の担当理事が承認された。事業内容の見直しが行われ,居場所REPOSと傾聴・相談力セミナーが調査研究事業に移行し,その他の事業内容は昨年度と同様である。その結果,調査研究事業は子どもの喪失体験支援,居場所REPOS,傾聴・相談力セミナーの3部門を調査研究とすることで了承された。

第4号議案 令和3年度香川県自殺対策強化事業交付申請に関すること:申請内容は昨年と同様であるが普及啓発事業で新たに作成するファクトシート「パンデミックと心の健康(仮題)」への対応を書き加え,今週中に提出することで了承された。

第5号議案 子どもの笑顔はぐくみプログラム助成金申請に関すること:「一般財団法人チャイルドライフサポートとくしま」が提示する内容に関して不明なことがあるため,7月13日,柾と花岡が子ども政策課の担当者と面談した後,検討することで了承された。

第6号議案 認定ファミリーカウンセラー認定資格更新に関すること:有効期限は5年とし,自己申告とする。資格録証明書は既に資格認定を受けている者は年度末を更新日とする。新資格認定者は認定後の日とする。

第7号議案 アンケートへの回答に関すること: グリーフワークに関する調査(高松市)では,HOPEは親との死別以外の色々な喪失体験を支援していることから花岡が回答することで了承された。

第8号議案 オフィス本町のインターネット回線に関すること: 「So-net ADSL(eA)」サービスが終了するため,藤澤氏からサポートを受け,より性能の良いサービスに変更することで了承された。

第9号議案 ピアサポートプログラムに関すること:今後どのように進めていくかを考え,ファミリーカンセラー会議で諮ることで了承された。


編集後記:以前住んでいた近所に反社会勢力の事務所がありました。事務所から組員が道路に出てきて,行き来する車を強引に停止させます。急ブレーキを踏んだ車が,後ろの車に追突されそうになることもあります。やがて事務所の中から親分らしい人物が乗った高級車が出て行きます。組員は,出て行く車に深々と頭を下げますが,止められた車には一瞥もくれず事務所へ戻って行きます。人が突然車道に飛び出し驚いて急ブレーキを踏む一般ドライバーへの迷惑にはいっさい頓着しません。政治家は,IOCをはじめ五輪関係者,いわゆるオリンピックファミリーのご意向には頭が上がらず,コロナ禍の五輪開催で困惑する国民の事情には一顧だにしません。給付金は出し渋り,経済再生担当大臣が酒類販売事業者に対し,酒類提供を続ける飲食店との取引停止を要請しました。この要請は反発を受け撤回したとは言え,これは官邸の意向だったと言いますから,善良な市民を締めあげるヤクザまがいの恫喝政治です。古代オリンピックは,祭神「ゼウス」に捧げるための祭典でしたが,東京五輪は,IOCと言うぼったくり一民間事業者へ捧げるものになってしまいました。IOCバッハ会長は,五輪開催を実現するためには「われわれは犠牲を払わなければならない」と述べました。残念ながら,あたらずといえども遠からずです。国民生活を犠牲にして行われる東京五輪の開会式は,女性蔑視発言,障害者への凄惨ないじめ,ホロコーストを揶揄したコントなどで辞任・解任となった開会式演出チームに象徴されるように,多様性と調和にはほど遠く排外的なものになりました。もはや復興五輪の片鱗はなく,政治家たちの要望を反映したチープなコンセプトになりました。政治の役割は経世済民。日本政府はIOCに対して「お控えなすって」と仁義を切ることではないでしょう。本来,お控えくださいとは,「その言動をおやめください」です。そう言って欲しかったです。(H)