活動報告 技術援助

香川県立東部養護学校
「こころの健康出前講座」


マインドファーストピアサポーター 山奥浩司

2021年7月12日(月)13時10分~14時,「高校生を対象とするこころの健康出前講座」が県立東部養護学校で開催され,マインドファーストから山奥が講師として派遣されました。

東讃保健福祉事務所主催の本講座は毎年開催され,私自身二度目の講師体験でした。今回の講座を引き受けるにあたり,「生徒さん参加型の講座」という点を一番重視しました。「生徒さんが楽しく」そして「私も楽しく」いっしょになって「こころの健康」について考えましょうね,というスタンスで臨みました。内容は,

  • ①身体の健康・不健康と同様にこころにも健康・不健康がある
  • ②こころが不健康になると身体症状として発出する
  • ③「不健康・不調なこころの状態」ってどんなもの(視覚的に体感する)
  • ④健康なこころを取りもどす・健康な状態を保つ方法(他己紹介)

以上の4点で,①,②については,生徒さんの近況を尋ねながら進めました。「肩がこる」「頭が痛い,日によって痛さが変わる」「だるい」「眠い」等の訴えが出ました。こころが不健康になると,「食欲がない,食べても味がしない」「腹痛や下痢をする」「やる気が出ない」「誰にも会いたくない,話したくない」「朝起きられない」等の身体症状が出る,ということを例として挙げましたが,幸い該当する生徒さんはいませんでした。

③については,生徒さん一人ひとりにカラーボールを配り(健康なこころのボール),つまんだり引っ張ったり,床に落としてどうなるかを体験してもらいました。「やわらかい」「伸びる」「ビヨンビヨン」「はね返る」「バスケットボールみたいにバウンドする」。各自が自分の言葉

で独創的な表現を返してくれました。次に,少し傷を入れたボール(不健康なこころのボール,と紹介)を提示して,私が同じことを行い観察をしてもらいました。「へっこんだまま」「ペッチャンコ」「落としてもはね返らない」等多様な感想が出ました。驚いたのが「音が違う」という意見でした。「どう違う?」「健康なこころのボールはポンポン,今のボールはカタカタ鳴る」「なるほど~,言われて初めて気が付いた。もう一度試してみようか」ということで意見を出してくれた生徒さんに落としてもらう。「みんなどう?」「大きな音がする」「転がらない」「落ちたまま」。希望する生徒さんにボールを握ってもらう。「調子の悪いボールは固い」「丸くならない」。素晴らしい意見と観察力。

④については,東讃保健福祉事務所六車さんと私がペアになり,お互いに自己紹介後に他己紹介,そして感想を述べるという流れを実演。3年生男子2名が挙手して実技。「歴史に興味があり,特に天下を統一した織田信長,豊臣秀吉,徳川家康が好き」「僕は3年の○○です。歴史が好きです。ちょっと忘れたけど徳川家康が好きです」「僕の名前は○○です。テレビのクイズ番組が好きで東大王なんかをよく見ます。みんなよく知っているなあ,と思います」「僕の名前は○○です。クイズ番組が好きです。東大王を見ます。みんな物知りです」。二人に感想を聞いてみると「緊張したけど,自己紹介がうまく言えた」「緊張した。他己紹介の時,天下を取った人の名前を忘れてしまった」という内容。しっかりとした自己評価ができているな,という印象を受けた。

最後に,「友達を最低3人(同級生,先輩,後輩)作りましょう。話をする時,聞く時は相手の目をきちんと見ましょう」という言葉で締めくくった。

半円形に座ってもらっての講座だったが,生徒さんたちは初めての座り方だったようで,その分,緊張感が増したのでは,という感想が学年主任の先生からあった。また,「地域に開かれた学校,地域で居場所がある学校教育が←


→必要」という校長先生の言葉が印象的だった。

講座の中では,専門用語は使わず日常の生活で使う言葉を意識したが,事後アンケートでは,「今日の話がとてもむずかしかったです」という声があった。使用する言葉の選択と同時に,内容(メニュー)の吟味がさらに必要だったかもしれない。

(アンケートの項目「メンタルケアが必要な時のサインが分かりましたか?」に対する回答は,はい:15人46%,いいえ:14人42%,どちらでもない:4人12%)


研修報告 前号からの続き

香川県子ども・若者支援地域協議会
実務者会議及び実務研修会

マインドファースト理事 森本雅榮

➀子ども・若者が「やりたいこと・ありたい自分」についての試行錯誤を蓄積することで達成感,自己肯定感が高まり社会的に自立につながる。つまり,PDCA(Plan,Do,Check,Action) を蓄積して社会的に自立につながる。Start and End of Life( 育てられる・見守られる)ことである。「してもらう」関係の希薄化→Learn(学ぶ)→「してもらう」から「してあげる」へ→Act(振舞う)→「してあげる」から「してもらう」への回帰

②地域ができることは,「予防」「防止」「転向」「助長」のいずれかである。「~してあげたい」「~が必要」という考えの背景には,人それぞれの「ゴールイメージ」がある。それが,子ども・若者本人から出てきた「したい・ありたい」であるかどうか,それが支援者の間で共有できているかどうかが重要である。引きこもりUX会議代表理事小林恭子氏は孤独・孤立に関するフォーラムで,「引きこもりの人には『安心できる居場所』と『就労をゴールとしない支援』が望まれる」と発言している。

③支援の視点から見たときの孤立から自立のプロセスは,発見段階→誘導段階→支援段階→出口段階→定着段階があるが,これは単一の組織ではできることに限界がある。悩みは様々であり,利用者は自分の“知っている”所(福祉,教育,医療,矯正更生保健,雇用,その他)に行く。多様な支援があってもそれらが繋がっていないと利用者にとっても行政にとっても無意味となる。交通整理と横連携の必要性が求められ,取り組みを進めていくためには関係機関(支援者)同士の信用・信頼が重要である。

④理想的な総合相談窓口の姿は,悩みオールレンジ対応&一次受け(ワンストップ窓口)である。総合相談センターの中で支援しきるのもOKだが,困難な場合はリファー(つなぐ)する。他の相談窓口に機能ONしてもOK(看板

名も自由)である。複数の窓口で「総合相談機能」を負担してもOKだがユーザビリティには配慮する。30歳代の相談対応・情報提供ができると,とても良い。また総合相談窓口を民間事業者に委託したり,複数市町村で共同設置しても良い。個別事例の紹介として北九州市,岐阜市,豊岡市をあげる。支援の理想的な姿では,愛知県名古屋市の寄り添いサポート制度を紹介する。

⑤最も役に立つと思う支援の形態は,求める支援の形態であることから支援者は子ども・若者のDX(デジタルトランスフォメーション:日本語訳デジタル変革)化に合わせて行く必要がある。当事者にとって居場所と感じられる場所の数が多いほど,自己認識についてポジティブ(あくまで相談関係)であると言われている。居場所は家庭,学校,職場,インターネット空間,地域などあるが,居場所性(居場所になっている),相談される人の存在,助けてくれる人の存在についての認識は場ごとに異なる。今後地域は開拓が望まれる居場所となる。

後半の実務者研修会では,仮想相談事例のケース検討を通してワークショップを行った。発見→誘導→支援→出口→定着,の各フェーズで必要な活動とその活動を行っている支援機関,活動の具体的な内容を話し合った。

自立の経済効果,地域で出来ること,居場所性の話を聞きながらリトリートたくまの必要性を再認識した時間であった。

(2021年9月の理事会議事録は次号に掲載いたします)

編集後記:スポーツ番組では勝利者インタビューが行われることがあります。一昔前,特に相撲の力士は「そうすね」「がんばります」と寡黙で,インタビュアー泣かせでした。最近のスポーツマンは能弁です。余りにも言葉巧みで,かえってシンパシーを覚えないことも少なくありません。スポーツ選手が,本来の力が発揮できなかったり,スランプに陥ったりするのは,思考の呪縛に陥っている場合が少なくないようです。スポーツは,言葉よりも技量が大切な世界であることは言うまでもありません。政治と言う職業も結果を出すための実務能力が求められます。コロナ禍にあっては,安心と安全を口にするだけでなく,国民に安心と安全をいかにもたらすかが問われます。布マスクの配布といったやってるフリだけの政治は困ります。菅首相が次の自民党総裁選に出馬せず,退任することになりました。2011年3月に東日本大震災と原発事故が発生した際には,不眠不休で指示や会見を行い,日々やつれていく当時の枝野幸男内閣官房長官に対して,「枝野寝ろ」と言ったtwitterが上がりました。去り行く今の首相に対しては,コロナ対応でお疲れなのかと言う同情論はほとんど見られません。現首相が官房長官時代,記者の質問に対して,「問題ない」「お答えを控えさせていただく」「その指摘は当たらない」とそっけないものが目立ちました。これはインタビュアー泣かせではなく,国民というクライエントに背を向けた政治に外なりません。首相になってからの政治もその延長線上にありました。今日の政治は,「説明しない」「説得しない」「責任をとらない」の3Sで表現されると言われます。言葉力のない政治家の仕事は結果をもたらさないと言うことでしょう。言葉力が問われる職業と言う点では,カウンセラーやケアワーカーも同じところに立っています。(H)