呼吸がしやすい社会を目指して

「リトリートたくま」2年8か月の歩み

マインドファースト理事 柾 美幸

リトリートたくまは,2019年8月に香川県子ども・若者孤立化防止支援事業として三豊市に誕生しました。ひきこもりの問題が社会で問題視されている中でのスタートであり,2022年3月末までの2年8か月の実績を踏まえて,分析をすることで,より奥行きのある新たな取り組みが進められるか…と期待をしていましたが,県はあくまでもスタートアップであり,続けるかどうかは皆さんで決めてくださいとのことです。

ひきこもって家から出ることが困難な状況の人に,どんな支援ができるだろうか?そんなことを考えながらの2年8か月でした。しかし民間の力にそこまでは期待されていなかったようです。

でも,今年度から三豊市の委託を受けてリトリートたくまを継続運営することになりました。

NPO法人マインドファーストでは,心の健康を何よりも大切に考え,心の健康を損なった時に少しでも早く回復するための活動を続けてきました。それは自殺防止にもひきこもり防止にもつながっています。 リトリートたくまでは何もしなくてもいい,参加された方にとって居心地がよければそれでいいのです。心をゆったり休めてあげることができればいいのです。そうしていると語り合いが自然に生まれてくることがあります。様々な年齢の人の中での語りの中からその人が持つ回復力が目覚めるようです。

「語り合い」は一方通行では成り立ちません。私たちマインドファーストが目指すものと三豊市が目指すものを実現するために,立場は違うけれど「語り合い」を重ねてい

きたいと思います。そしてそれぞれの社会的責任を果たしていきます。ほんの少しかもしれませんが,それぞれの人にどのような事情があろうとも呼吸がしやすい社会を目指して。

2年8か月の間にリトリートたくまへ来られた方は,延べ295名でした。(実人数は初年度(8月~3月)21名・2020年度30名・2021年度43名)

年代別に見ると10代が圧倒的に多く89名・20代49名・30代29名・40代70名となっており,しんどさを抱えたご家族の方の利用も多くなっています。

技術援助 講師派遣

綾川町ゲートキーパー養成研修

マインドファースト理事 花岡正憲

2022 年 3月15 日(火) ,綾川町のケアマネージャー等40名を対象にゲートキーパー養成研修に,マインドファーストから,理事の森本と花岡を講師として派遣しました。今回は,COVID-19まん延防止等重点措置が施行中でもあり,研修はオンライン形式で行われました。はじめに,村上阿佐美保健師から綾川町の自殺の状況について解説があり,引き続き,マインドファーストから,「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」と題して講義を行いました。

今回の研修では,自殺したがっている人との向き合い方の基本に解説の力点を置きました。死にたい気持ちをほのめかす人に対して,例えば「それは自殺することを考えているということですね?」と自殺の意図についてストレートに問いかけることで,相手は不安は隠さなくても良いのだと感じ,考えていることや感情を表現しやすくなり,←


→それだけ自殺の危険性が少なくなると言うことです。

さらに,近年,15~34歳の若い世代で死因の第1位が自殺となっている現状を踏まえ,介護支援従事者として,また一家族として,次世代に関わる立場の人に求められるのは,自己肯定感が傷つき無力感を覚えている子どもや若者を支援する上で,エンパワーメントが大切であることを強調しておきました。

講義の後の質問では,自殺の意図についてストレートに問いかけることが大切だと言われても,自殺を行為化させるのではないかと言う不安が拭えない,他の方法はないのかと言う懸念が示されました。これについては,すべての自殺を防ぐことができるわけではないが,一般には,オープンに語ることが,抑止力として働くこと,一方,絶望や救いがない感情を表現させ過ぎることは控えた方が良いと答えておきました。さらに,介護現場において自殺を口にする同居の家族への対応についての質問がありましたが,これには,複数の人が関わっているときは,関係者が一致した向き合い方をするために,関係者会議が有効であることを説明しておきました。

今回のオンライン研修では,テクニカル面のみならず,司会進行の労を取っていただいた綾川町地域包括支援センターの奥野高史さんに心より感謝申し上げます。

(文責 花岡正憲)

第218回理事会報告

日 時:2022年4月11(月)19時00分~21時30分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(事前配布資料有):島津理事長から,3月期の会計報告について,説明資料を基に報告があり承認された。あわせて2021年度の収支決算書の準備状況の報告があった。

第2号議案 居場所づくり事業に関すること(事前配布資料有):①REPOS:新しい会場となる四番丁コミュニティセンターの会場使用料の支払いについては,同好会としての申請登録を行なえば,会計年度に関係なく,6か月ごとの精算払いとなること,その条件として,同好会名簿を作成し毎回出欠記録を取ることをセンター側から求められた。これについては,REPOSは,好みを同じくする人の集まりであると言う点では,同好会に違いないが,心のよりどころを求めて集う居場所であるため,参加者は,毎回変動しうる特徴があること,また,参加者のプライバシーの保護の観点からセンター側に名簿の開示は控え,3名のスタッフ名のみ名簿搭載したい旨,山奥が伝えたところ,担当者からセンター長への説明を求められた。これについては,後刻山奥が対応することで了承された。REPOSの周知を行うため,REPOSのHP掲載画面をプリントアウトして,医療機関へ配布することが了承された。②リトリートたくま:2022年度からの三豊市の助成事業による運営体制は,管理者の配置は必要とされないことから,運営責任者を1名とし,残余の人員はスタッフとすることで了承された。柾理事から,リトリートたくまの苦情及び安全管理マニュアル案が示され,審議を行った。苦情および安全管理については,事故対応についての理事長へ報告を行うこと,並びに苦情マニュアルについては第三者調査委員会を設けること,マニュアルの前文と発効年月日を明記する方向で作成することで了承された。4月13日に

はスタッフ会議が開催され,2022年度も前年度並みのコンサルテーションを実施する案を示すことで了承された。運営費の原資拡大に向けて,四国・関西地方対象の助成事業「子どもの笑顔はぐくみプログラム」に応募することが了承された。マインドファーストがリトリートたくまの運営に使用している賃借物件について,空き時間を有効活用して,収入を得ることが提案され,これについては,賃貸借契約書を踏まえて,継続審議案件とすることで了承された。

第3号議案 香川県共同募金会募金事業に関すること:令和3年度共同募金(4年度助成事業)テーマ募金完了報告書の提出,5月13日開催の令和3年度テーマ募金報告会及び令和4年度テーマ募金研修会への出席,テーマ募金実績額を踏まえた令和3年度共同募金(4年度助成事業)テーマ募金助成事業変更申請書の提出,及び令和4年度テーマ募金参加と募金目標額を100万円とした事業計画書の提出が,いずれも承認された。

第4号議案 2022年度通常総会に関すること:開催日時は,出席者へ配慮して休日の昼間が望ましいとの方針が了承され,6月19日(日)午前11時からとし,開催予定場所を四番丁コミュニティセンターとすることで了承された。また,担当者から示された事業報告書案及び事業計画書案について,他の理事が加筆修正作業を行ない完成することで了承された。

第5号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること:担当の花岡から,技術面,経費面から情報収集を行っていることが報告され了承された。

第6号議案 マインドファースト通信の掲載記事における事例の扱いに関すること:掲載記事に収録される事例の記述方法と読者としての受けとめ方について,理事者間で多様な意見があることから,今後,継続審議案件としていくことで了承された。

編集後記:「まだ夢を見ているような感じで,日常のささいなことがすごく幸せです」。ロシアのウクライナ侵攻から難を逃れ他国へ避難した人々の中には,こうした思いを抱く人も少なくないでしょう。しかし,これは,避難民ではなく,わが国の棄民政策の犠牲になった女性の言葉です。女性は,「あなたは病気ではないから治療は必要ない。しかし,他人に迷惑をかけるから退院させない」と担当医師に言われ4年間,精神科病院へ入院を強いられました。近刊『ルポ・収容所列島』(東洋経済調査報道部著 2022年3月24日発行)は,当事者の切実な声に耳を傾けた取材記録です。世界の20%を占める精神科病床,桁違いに長い平均在院日数,家族一人の同意と精神保健指定医一人の判断で行われる医療保護入院という強制入院制度,多剤併用大量投与など,日本は,WHOやOECDなど国際機関から精神障害者の治療や人権について,相次ぐ勧告や指摘を受けてきました。1981年には,朝日新聞社の記者大熊一夫氏が,自ら患者として精神病院へ潜入した『ルポ・精神病棟』が刊行されました。あれから約40年,『ルポ・収容所列島』は,「拒食症を疑われ77日間身体拘束を強いられ経管栄養と尿道バルーンを挿入された14歳の女性」「警察官OBからなる民間の精神科移送業者に精神科へ連れてこられ,医師から『もう決まったことだから』と言われ隔離室に収容された引きこもりの30代男性」など,精神医療を体験し,その後の人生で取り返しがつかない傷を負った人たちの証言と実録からなっています。本書は,長期強制入院,精神保健指定医制度の問題,身体拘束,薬漬け,職員による虐待と言った入院現場の問題だけでなく,発達障害と診断され,薬物を投与されその後の成長を奪われる子どもなど,世界の標準からかけ離れた医療についても触れています。日本の精神医学の創始者として知られる当時の東京帝国大学教授呉秀三氏が,その著書『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』(1918年)の中で,「我邦十何万ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ,此邦ニ生レタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ」と語ってから優に100年,日本の精神医療のあり方が,問われ続けてきました。「16歳の時発症して,40年間入院,国家賠償訴訟を起こすに到った69歳の男性」も,本書に登場する棄民の一人です。いま,当事者によって,ようやく反省なき国のあり方が問われようとしています。(H)