シリーズ:愛着障害

第1章 愛着スタイル
 ~ストレンジ・シチュエーション法(SSP)~

マインドファースト認定ファミリーカウンセラー 上田ひとみ

発達心理学者 Ainsworth M,D,S エインスワースの考案したストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure:SSP)とは,重要他者との分離が子供の不安を喚起し,アタッチメントの行動システムを活性化させるというJohn Bowlby ジョン ボウルビィの洞察に基づき,子供に分離によるマイルドなストレスを実験的に与えるという手法を考案しました。SSPとは,1歳児を対象とし実験室で母子分離(母親は部屋から出て子供だけ残す)と再会で子供の反応を組織的に観察する方法です。エインスワースは,SSPにより愛着スタイルを4つに類型化しました。Aタイプ(回避型)母子分離の混乱がほとんどなく,親との再会も無関心な態度を示します。Bタイプ(安定型)母子分離時に多少の混乱を示しますが,親との再会時には積極的に身体接触を求め,混乱は容易に沈静化し親が安全基地として機能しています。Cタイプ(アンビバレント型)母子分離時に強い不安や混乱を示し,親との再会時に強く身体接触を求める一方で,怒りや攻撃を示します。Dタイプ(無秩序型)突然のすくみ,顔を背けて親に接近するなど,不可解な行動パターンや本来は両立しない行動が同時に活性化される態度を示します。A,C,Dタイプに関しては,親は安全基地としてあまり機能していないと言えます。SSPで見られる子供の行動の特徴はタイプは異なりますが,生きるための愛着反応であり人間の生涯にわたるパーソナリティの発達と心理社会的適応性およびときにそこに生じるさまざまな問題を整合的に解き明かすための実証研究結果として有効なtheory セオリ

ーであると考えます。では,SSPの子供の反応を具体的に検証するために次の事例を紹介致します。

3歳の花子ちゃん(仮名)は,ある日,同い年の洋子ちゃん(仮名)と遊んでいて近所の小学生に連れられて公園に行きました。遊んでいるうちに迷子になり気がつくと花子ちゃんと洋子ちゃんは,床屋さんにいました。お店の方は,花子ちゃん達にお菓子などをくれながら親を探してくれました。洋子ちゃんは泣きながら「お母さんは,絶対来てくれる。絶対お迎えにきてくれるもん」と大声で叫んでいましたが,花子ちゃんは,そんな洋子ちゃんを横目で冷静に見ながら,心の中で「お母さんは来ない。来るはずがない」と泣くこともなくテレビを見ていました。有線放送で迷子の案内がされる中,夜遅くにやっとそれぞれの親が迎えに来ました。洋子ちゃんは親との再会に泣きながらも両手を広げ駆け寄り抱きつきました。ところが花子ちゃんは,親が来たことに無関心で親に駆け寄る様子もなく洋子ちゃんとは全く違った反応を示したのです。(注意:ここで登場する事例は仮想事例です)

次回第2章では,事例の花子ちゃんや洋子ちゃんの愛着スタイルを検証してみたいと思います。(文章中の事例は架空事例であり,登場人物名も仮名を使用しております。尚,架空事例の紹介は愛着理論を分かりやすく検証するためのものです)


引用参考文献:(1)遠藤利彦『入門アタッチメント理論臨床・実践の架け橋』(日本評論社,2021,251p)(2)庄司順一・奥山眞紀子・久保田まり『アタッチメント子ども虐待・トラウマ・対象喪失・社会的養護をめぐって』(明石書店,2008,225p)(3)数井みゆき『遠藤利彦,アタッチメント生涯にわたる絆』(ミネルヴァ書房,2005,275p)(4)岡田尊司『死に至る病』(光文社新書,2019,230p)←


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2022年度通常総会開催のお知らせ

下記の通り,2022年度通常総会を開催いたします。ご多忙とは存じますが,会員の方は,万障お繰り合わせの上ご出席いただきますようご案内申し上げます。

日 時:2022年6月19日(日)11:00~12:00
場 所:高松市四番丁コミュニティセンター

高松市番町二丁目3-5

議 題:

  • 1)2021年度事業報告
  • 2)2021年度収支決算報告
  • 3)監査報告
  • 4)2022年度事業計画案
  • 5)2022年度収支予算案
  • 6)その他

「コロナうつ」とは何か

パンデミックにおける政治の役割は,人々の日常性をできるだけ損なわない方向で対策を講じることだとされる。ルーティンが中断されることは,大きなストレスになるからである。2020年2月の一斉休校は,人々の日常性を大きく揺るがすものであった。科学的根拠も示されず,どこでどう決まったのかも不明で,最悪の政策だったと言えよう。

一方,コロナ禍が,日常性を取り戻す機会になった人たちもいる。残業,休日出勤,出張がなくなり,家族と過ごす時間が増え,これが当たり前だと思えるようになった人も少なくない。外食の機会が減ったことでクッキングの楽しみが増え,ジム通いよりも散歩が日課になった人たちもいる。

こうした中で,マスメディア界隈では,「コロナうつ」と言う言葉が踊る。「うつ」は国際疾病分類で定められた気分障害の一つである。ストレスが「うつ」の要因になることがあるとは言え,症候学的に「コロナうつ」と呼ばれる新たな疾病概念や診断基準が設けられたわけではない。「コロナうつ」とは,社会生活環境の変化がもたらす精神的不調を想定した造語に他ならない。

「コロナうつ」は,有名人の自殺報道と関連して登場してくることが多い。「コロナ禍で,心身の不調をきたすと,はじめは一般内科を訪れるが,自殺する人は精神医学的に診断がつく人が多い。したがって,うつの早期発見,早期治療が大切である」これが,テレビ番組などでコメンテーターとして出てくる精神科医の定型化した語りである。「コロナうつ」による自殺を防ぐカギは,精神科医療が握っているかのように話が導かれる。一見もっともらしく聞こえるが,論理的には飛躍があるだけでなく,これまでの調査で,自殺する人は,精神科についていた人が少なくないことが明らかになっている。自殺企図者の半数以上が,処方された向精神薬の過剰摂取であったと言う研究もある。こうしたことから,精神科につながることが自殺のリスクを高めると言う見方をする研究者もいる。

マスメディアが,自殺の危険因子や予防因子について議論の場を設けたり情報を提供したるすることは大切だ。自殺をメンタルヘルス問題としてとらえ,メタルヘルスの取り組みが自殺者を減らすと言う諸外国のデータもある。しかし,わが国では,自殺対策はうつ病対策と言う医療モデルに特化されがちだ。「うつ病はこころのかぜ」「抗うつ薬をのめばうつは治る」いわゆるうつ病キャンペーンで精神科医療は市場を拡大してきた。「コロナうつ」も,こうした流れに乗ったものである。

近年,精神科・心療内科を受診する人が増え続けている。中でも気分障害患者数は,増加の一途だ。精神科医療が取り込み,解決されず,残留する事例が多くなっている

と言うことであろう。精神科医療は,薬を処方するだけで,心のケアが行えると言うのは幻想にすぎない。

最近は,人が生きて行く上では当たり前の悩みも「うつ」と診断される「みなしうつ病」が問題になっている。ただでさえ,うつ病そのものが診断学的にも治療学的にも,曖昧になっているところに,精神科医療は「コロナうつ」と言う新しい病名で取り込みを図ろうとする。精神科医療とその背後にある製薬産業の市場拡大のプロパガンダに振り回されないことが,命を守ることになる。そうだとすれば,うつ病治療は疑似科学だと嘆いているだけでは済まされない問題である。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)


第219回理事会報告

日 時:2022年5月8日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(事前配布資料有):島津理事長から,4月期の会計報告について資料を基に報告があり承認された。

第2号議案 「居場所づくり事業」に関すること:①REPOS:5/1,5/8開催した。5/1には広報活動に関して,チラシやSNSの活用等の具体的な提案がなされた。5/8には参加者が知り合いに声をかけたことで新規の参加者1名があった。今後参加者を巻き込んで活動の幅を広げていくことで了承された。②リトリートたくま:三豊市から補助金40万円では運営は厳しいことから財源確保のために賃借物件の更なる有効活用方法が提案された。学童保育の場として提供もできるが教育委員会の要件を満たす必要がある。将来の子ども家庭庁に期待するところではあるが,いずれにしても収入を考えていくことで了承された。

第3号議案 香川県共同募金事業に関すること(事前配布資料有):①令和3年度共同募金(4年度助成事業)テーマ募金助成事業変更申請書を作成する。②令和4年度テーマ募金目標額を100万円とし申請書を作成する。以上のことが承認された。

第4号議案 2022年度通常総会に関すること(事前配布資料有):5/29(水) 決算書の監査を受け,6/19(日)11:00より四番丁コミュニテイセンターで2022年度通常総会を開催する。事業報告書,事業計画(案),次第,案内状に関しては資料に基づき島津より説明があり,出欠確認は葉書とする。当日の役割は次回理事会で決めるなど以上が承認された。

第5号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること:担当の花岡がAIYAシステムと相談して進めている。ズームは45分無料であるが再ログインすれば大丈夫であることが分る。恐らくオンライン会議はズームと対面のハイブリッドになるなど以上が了承された。

第6号議案 香川県NPO基金分野指定寄附補助金の補助対象事業の募集要項に関すること:今年は見送りとするが今後考慮の余地はあることで了承された。

編集後記:古代ギリシャ時代の医聖ヒポクラテスは,医師の介入がかえって害を及ぼし得るとの自戒から,「First, Do No Harm」(何よりも,害を与えてはならない)と言う名言を吐いています。現代精神医学は医療における大切なことを忘れているのでしょうか。医療は,人の健康問題を扱うため,委託契約ではなく,必ずしも出来栄えや成果が問われない準委託契約とする民法に守られていることも忘れてはなりません。私たちNPO活動には,公益性,先駆性が期待されています。そのため,自主的に社会に役に立つことをしているから喜ばれるはずという思い込みに陥りやすいところにいます。社会貢献と言う自己満足から理論や議論を軽んじた反知性的活動に流れると,かえってharmful(有害な)になることに気づいておく必要があります。そのためのには,日々の自己点検が欠かせません。ヒポクラテスの言葉は,私たち自身への戒めでもあります。(H)