マインドファーストは,メンタルヘルスユーザー,家族,市民一般からなるNPO 法人で,臨床心理士・精神保健福祉士・看護師・保健師・医師及びその他の支援者の協力のもとに,メンタルヘルスの推進と心のケアシステムの充実に向けて活動を行なっています。
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喪失感なき国葬
マインドファースト通信編集長 花岡正憲
9月8日,英国エリザベス女王が死去,世界中から悲しみの声が届けられた。ロイヤルファミリーや君主制への批判があるとは言え,エリザベス女王は,70年の即位の間,幾多の苦難を乗り越え,最強の君主としてイギリス現代史に大きな役割を果たしてきたことは事実である。多くの国民が喪失感に浸る中,19日には国葬がしめやかにとり行われた。女王の棺に弔問に訪れるために,待ち時間24時間,8キロの市民の行列ができたことが話題になった。
大切な人を失うと言う対象喪失には喪の作業が伴う。喪失の事実を受けいれ,故人の思いを心のうちに再配置して,生活を続けていく。喪の作業は,人が新しく生きていく上で欠かせない心の過程である。喪の作業は,大切な人が死亡したときから始まっている。葬儀とは,そうした一連の喪の作業の一つとして行われるものである。
岸田首相は,7月の参議院選挙戦で安倍晋三元首相が銃殺された6日後,閣議決定で国葬を決めてしまった。議会制民主主義を無視した決定に,国民の賛否が割れた。その後の国葬への反対の広がりの背景には,安倍氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が明らかとなったことや,第2次安倍政権での森友・加計学園問題や「桜を見る会」の疑惑など負の側面への批判など,政治家としての評価は定まっていないことがある。
遺族に対して非礼とも言える弔問外交や,自民党議員で国葬に欠席した者に対する処分の検討,国葬での弔辞に対して会場からは拍手が起きるなど,特定政党の政治ショー的なものになった。
国葬への反対は,政策次元のものだけでなく,もう一つの大切な視点があることを指摘しておきたい。なによりも「喪失感なき国葬」に多くの国民の共感が得られなかったことである。
踏絵的な葬儀への参列や香典だけを知人にことづけると言った虚礼化した葬儀は,近年,大きく変化してきた。大切な人を失った近親者や限られた友人などで行われる家族葬が主流になっている。喪の作業を共有できる人たちだけで行うために葬儀がカスタマイズされるようになったと言う点で,生活者レベルでは葬儀は進化してきたと言える。
弔意とは,人の死を弔い哀悼する気持ちである。弔意は,喪失感という個人的体験が拠りどころになっている。
半旗の掲揚や黙祷を求められ,形だけ弔いの姿を見せたところで,喪失感がない中での弔意の表明は虚礼に過ぎない。他者が侵すことができない内心の自由に関わることであるからだ。
小説『悼む人』(文芸春秋 2008)は天童荒太の直木賞受賞作である。亡くなった人のニュースをもとに,その現場へ行き,様々な不条理な死に遭遇した人々を悼みながら全国を行脚する男の話である。彼の「悼む」とは,死者が生前,誰に愛され,誰を愛したかを調べ,その生きた証を心に刻むことであり,どのように亡くなったのか,あるいは死亡した原因については関心を示さない。
一方,安倍氏の国葬は,選挙戦のさなかに銃撃で命を落とすという亡くなり方が大きく関係している。彼の死が,病死や老衰であれば国葬はありえなかったであろう。選挙戦とは,文字通り候補者同士の激しい戦いである。世間には,味方だけでなく,敵もいる。国会議員であれば,仕事柄暴漢に襲われ,命を落とす危険性はありうることだ。交通事故で高齢者が死亡することがあるように,元首相が殺されることもある。いずれも未然防止の努力が求められることだろう。
安倍元首相の国葬では,2万人余りの人が献花に訪れた。元首相だったから,非業の死を遂げたから,長期政権だったから,政策に賛同できたからなど,弔問者それぞれの思いがあるだろう。そうした中に,人の死を等しく「悼む人」がいたとすれば,救われたかもしれない。しかし,死者に花を手向ける外形的行為だけから,「悼む人」なのかどうかは知る由もない。
議会制民主主義を無視した国葬の決定に対して,図らずも民意の賛否が表明されたことは,国民レベルでの民主主義はなお健在だと言うことだ。少なくとも,私たちにとって,葬儀とは何か,弔意とは何か,あらためて考える機会になったと言う意味で,今回の国葬問題は,失われたものだけではないのかも知れない。
令和4年度
自殺対策相談窓口担当者研修会
マインドファースト認定ファミリーカウンセラー
青木節子
2022年9月9日(金)14:00~16:00 サンメッセ香川2階中会議室において,香川県健康福祉部障害福祉課主催による令和4年度自殺対策相談窓口担当者研修会が開催されました。この研修会は,相談対応を行っている外部
講師による研修を開催し,実際に悩みを抱える方への対応方法を知り,今後の業務に活かすことを目的として開催されたものです。県や市町の機関を中心に民間団体等も含めて34名の参加者がありました。「くらしのなかのグリーフワーク~自殺予防として何ができるのか~」と題して,特定非営利活動法人グリーフワークかがわ副理事長ローマ真由子氏,同認定グリーフカウンセラー秋山美智子氏両名による研修が行われました。
はじめに,香川県健康福祉部障害福祉課の土手課長より挨拶がありました。現在の香川県の自殺者は令和2年149人,令和3年141人と多少の増減はあるものの高止まりしている。県の対策の一つとして,LINEによる相談窓口を開設し毎日17時~22時まで受け付けている。毎月3桁を超える相談がある。土手課長個人の見解として,相談支援に正解はなく,その時の気持ちや状況によってその内容は変わり,誠意を持って対応しても相手に届かないこともある。福祉に限界設定は必要であり,我々はスーパーマンではありえない。しかし,少しでも悩みを軽く出来るような寄り添いは可能であり,それには,専門的知見が必要である。この研修を通して各自考える機会を持つことが出来ることを望むと締めくくられました。
講演の内容は,グリーフの説明から始まりました。グリーフワークは,自分で自分のペースで行う心のワークであり,グリーフケアは,その人を支える人のことである。グリーフとは喪失・悲嘆と訳されることが多いが,変化に置き換えることもできる。私たちは毎日変化の中で生きており,皆が等しく喪失経験者であり,ケアする人である。死にたいという言葉を聞いたなら,死にたいと思うほど辛かった,苦しかった,逃げたかった・・死にたいの後に続く言葉を,対話をしながら引き出すのが大切である。相談窓口担当者に必要なのは,まずは真剣に相手の話を聞く姿勢であり,信頼関係を築き,安心感をもたらすための傾聴・対話が大切であると締めくくられました。途中で,グループワークが2回あり,自分の喪失史を書いた後のディスカッションでは,喪失は決して他人事ではなく自分の生活の中に絶えず起こっている自分事であることを再認識することが出来ました。
質疑応答において。自殺者と医療機関との関係についての質問に対しては,それは把握していないとのこと。また,統計的な自殺者数だけでなく,その背景等具体的な事例も分かれば現場も迫った形で対応できるように思うのだが,という質問に対しての回答は,また,示していけたら,との事。
自殺の具体的な事例に関する質疑は,数年前のMF通信の報告にも同様の質疑が書かれてあり,県の自殺対策への姿勢が問われているようにも思いました。又,対話の大切さを改めて感じた研修でした。
第223回理事会報告
日 時:2022年9月12日(月)19時00分~21時10分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 会計に関すること(事前配布資料有):島津理事長から,8月期の会計報告について,説明資料を基に報告があり承認された。県男女共同参画・県民課から届けられた,内閣府発の「電子帳簿保存法の改正による電子取引データの保存方法の見直し」(添付書類参有)については,当法人への該当事項について,なお内容の詳細な吟味が必要であることで了承された。
第2号議案 香川県共同募金会テーマ募金チラシ及びテーマ募金参加団体連絡会(2022年度)に関すること:募金チラシ部数は,例年通り2,000部とすること,参加団体連絡会は,植松理事が出席することで了承された。
第3号議案 2022年香川県地域自殺対策強化事業に関すること:①「2022年度ファミリーカウンセラー養成講
座・基礎コース」に関すること:講師とアシスタント講師が定まり,事前講師会の回数は概ね3回とし,島津が講師及びアシスタントにメールにて出席調整を行うことで了承された。②ブロシュール等の発送に関すること:ブロシュール「フォークス21」を2,000部増刷発注済,9月19日に納入予定,発送は,年間を通して随時行うことで了承された。③新規作成ファクトシートに関しては,「愛着障害」「若者と心の健康」「ヤングケアラー」(いずれも仮題)のうちから,いずれか一つを作成することが了承された
第4号議案 世界メンタルヘルスデーのキャンペーンに関すること:シルバーリボンのステッカー800部を発注,9月末までに納品予定,チラシとシルバーリボンステッカー発送作業を10/2(日)10:00に行なう。キャンペーンチラシは従来通りのものとするが,今年は,昨年度のチラシ「COVID-19」に替えて,ファクトシート「大規模災害とメンタルヘルス」を加えることで了承された。県下の看護系公立高等学校に,キャンペーン活動の情報提供を行い,生徒の自主的参加を促すことで了承された。
第5号議案 「居場所づくり事業」に関すること:①「居場所ルポ」運営に関すること:8月27日開催の理事会選出運営委員3名(植松,花岡,山奥)による企画運営準備会で提案のあった企画運営委員候補者に,島津が呼びかけることで了承された。②リトリートたくまに関すること:以下の報告があり,いずれも了承された。・9月8日,三豊市こどもの居場所ネットワーク交流会(社協主催)に参加。・9月9日,三豊市ライオンズクラブ寄付(54,000円分の寄付)について照明器具の見積書を提出。・9月10日,香川県社会福祉協議会香川県子どもの未来応援ネットワーク事業「しえんの場」への登録。・三豊市こどもの居場所作り活動助成金(三豊市社会福祉協議会)を申請予定。・ボランティアスタッフのSNS発信担当。なお,これについては,随時,責任者が監督助言を行うこととする。
第6号議案 ホームページの2016年度以降の「あゆみ」の掲載に関すること:2015年度を最後に2016年度以降更新追加されていないホームページの「あゆみ」について,広報担当理事が,追加分1年ごとの原稿を理事に提示し,必要な加筆訂正を行なった後に,ホームページへ掲載することで了承された。
第7号議案 執行部のガバナンスに関すること:全役員出席の理事研修を定期的に行うことで了承された。講師及びテーマはその都度決めることとするが,NPO活動の基本問題,経理運営に関することなど,執行部のガバナンスの向上を図ることを目的とすることで了承された。
第8号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること:複数台のノートパソコンや無線ルーターなど機材購入や管理費等に関わることであるため,2023年度の予算化を図るために,広報担当理事がAIYAシステムと打合せを行うことで了承された。
編集後記:世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者の両親を持つ元2世信者の小川さゆり(仮名)さんが,10月7日に日本外国特派員協会で記者会見を開きました。合同結婚式で結婚した両親は教会に多額の献金をし,小川さんは,アルバイト代や貯金も親に没収されてきました。職場に親が押しかけてくることもあったと言います。家庭崩壊や教義に対する矛盾を理由に,6年前に親元を離れて脱会したと言います。この日の外国特派員協会の会見に先立ち,同連合側から同協会に対し,両親の署名が入ったファクスが届いていたことがわかりました。同協会によると,ファクスは7日午前と午後に各1通届き,いずれも「女性には精神疾患があり,安倍元首相の銃撃以降その症状がひどくなっており,多くの嘘を言うようになっている」として会見の中止を求める内容でした。会見の場では,このファックスを同席した小川さんの夫が代読し,指摘された精神疾患については,小川さん自らが「解離性人格障害とかパニック障害とか診断をされ,救急車で運ばれたり,入院をしたこともあるが,4年前に治っており,現在私は正常です」と反論しました。文書を送った同連合の弁護士は,送付を認めた上で,「野党の公聴会で事実と異なる発言をしていて,今回も嘘を言う可能性があり,本人のためにも会見を中止させた方がいいと旧統一教会側から連絡があった」と説明しました。家族全員が信仰しないと皆が地獄に落ちるなどと,歪んだ家族観を根づかせ子どもの人格権を求めず,精神を病んでいる人の話は,聞かなくてよい,信用しなくてよいと言う精神疾患に対する偏見に満ちたメッセージを発信する。高額な献金の要求だけでなく,神の名を借りて,社会悪を増幅させる活動を果たして宗教と呼んでよいのか,基本的疑問を抱かざるを得ません。(H)