香川県ゲーム依存症条例

その成立過程において欠落していたもの

マインドファースト通信編集長 花岡正憲

医学分野では,ヒトにおける治療法の効果を評価するための研究方法の信頼度にランク付けがされている。信頼度が高いのは,データの裏付けがある研究で,中でも最も高いのは,対象者を無作為に2群に分けて行う「ランダム化比較試験」である。2番目は,「ランダム化を行なわない比較試験」,次いで,「コホート研究」と呼ばれ,病気の原因となる可能性のある要因と病気の発生との関連を調べる追跡調査,4番目は,病気になった人と健康な人を過去にさかのぼって病気の要因を調査する「対照研究」,5番目は,「症例報告」,6番目は,実験動物などを使った「実験室の研究」,この順番で信頼度は低くなって行く。そして,最も低いのは,「経験談・権威者の言説」とされている。

経験者や権威者の意見は,具体的で説得力があるように感じるかも知れないが,実証的データや科学的根拠に基づいた内容とは限らない。自然科学分野に限らず,一般に,特定の分野における第一人者や専門家の話であっても,合理的根拠や客観的な事実に基づかず,話し手の個人的信条や思惑が入っていることが少なくない。しかし,普段,私たちが耳にしたり目にしたりする機会が多いのは,このタイプの話である。

香川県には,2020年に成立した香川県ゲーム依存症条例(いわゆる「ゲーム条例」)については,いまだに関係者から疑義が寄せられることが少なくない。その成立過程を巡っては,パブリックコメントで寄せられた多くの賛成意見に,特定のパソコンから大量に送信された痕跡が見られ,賛成意見の80%以上が,パブコメのための指定アドレスではない県議会のホームページの「ご意見箱」から送られていたという指摘もある。パブコメの内容については精査も議論も行われず,議事録も取らない非公開の場で,数の論理だけで結論を急いでいる。民主的に開かれた議論がなかっただけでなく,立法事実や科学的エビデンスに乏しい香川県だけのローカルルールだと言う批判は絶えない。

8月に,ゲーム条例の成立過程で香川県が依拠してきた専門家とされる人物を講師に招いた香川県主催の研修があり,話を聞く機会があった。

まず,講演を通して疑問を抱かざるをえなかったのが,インターネットゲームの有害性を主張したいのか,スマフォやタブレットなどIT機器の使用そのものの有害性につい

て問題提起したいのか,論点が曖昧なことである。これについては,当初から講師自身この問題のとらえ方に混乱があるのか,あるいは,どこかでネット・ゲームの有害性を主張する論拠を失い, IT機器の使用の弊害へ論点のすり替えが行われるようになったのか,不明ではあるが,いずれにしても,両者の関係が整理されない言説は,関係者の混乱を招きかねない。学術的にゲーム依存症の概念が確立していない中で,あえて「依存症」と呼ぶのは,アルコール依存症や薬物依存と同様,「依存症」の要件を備えているからだと解説するが,依存症の定義や概念を逸脱している。何よりも肝心のゲーム依存症に関する学術的データの紹介がない。にもかかわらず,ゲーム条例に基づき2020年度から,香川県教育委員会が作成,配布している「ネット・ゲーム依存予防対策学習シート」について,講師はこれを推奨する立場である。

先日,この学習シートについて,香川県教育委員会に対して,医学的,科学的な誤りや問題点があるとして「公開質問状」が提出された。提出したのは,人の行動嗜癖についての調査研究と理解促進に取り組む専門家たちで作る「日本行動嗜癖学会」である。

これについて記者会見に臨んだ香川県教育委員会淀谷圭三郎教育長は,「学習シート作成にあたっていろんな専門家の監修や助言も受けておりますので,科学的な教育の面でもおかしいのではないかというご主張もあろうかと思いますけども,現時点では『そういう意見もあるのかな』と受け止めさせていただいている」と回答した。

日本は,明治以降,近代化の過程で,西欧から学んだ大切なことの一つに「真理の感覚」がある。真理の感覚とは,不合理な命題はいかに権力を持った者の主張であっても認めないということである。科学者は,政治的思惑や私利私欲にとらわれて,真理の感覚に目をつぶることは許されない。

ゲーム条例の制定には,一部の議員の主張と医療保健分野で専門家と呼ばれている人物の言説が大きく関わっている。香川県は,公開質問状に真摯に回答し,医学的,科学的に非があれば,学習シートの回収はもとより,ゲーム条例の見直しを行うところに立たされている。

教育長の『そういう意見もあるのかな』とどこ吹く風と言った受けとめで済む問題ではなかろう。国内外の学術団体やWHOからの勧告という事態にもなりかねない問題である。←


→

研修報告

令和5年度 自殺対策相談窓口担当者研修会

青木節子

2023年9月1日(水)10:00~12:00 サンメッセ香川 2階 中会議室において,香川県健康福祉部障害福祉課主催による令和5年度 自殺対策相談窓口担当者研修会が開催された。この研修会は,日頃より様々な悩みを抱える方への相談対応を行っている外部講師による研修を開催し,自殺とは,様々な要因が複合的に連鎖して起こるものであり,健康問題だけが原因ではないことや,実際に悩みを抱える方への対応方法を知り,今後の業務に生かしてもらう事を目的としている。

講演は「自殺予防のために私たちにできること」と題して,当法人島津昌代理事長により,①ゲートキーパーとは,②「死にたい」をどう理解するか,③SOSに対応するために,という内容で進められた。

今回の参加者は45名。教育・福祉・保健・雇用・警察・民間など各分野からの参加があり,そのうち16名が小中高の教諭の参加であった。あらかじめ5人ずつ9つのテーブルに班分けされており,各グループでのディスカッションや,ロールプレイなどに多くの時間を割いた内容であった。ゲートキーパーとしていかにクライアントに向き合うか,死にたいというクライアントの今この瞬間をいかに支えるか,SOSに対応するために知っておく事など,具体的な事例を挙げて,「あなたならどうする?」と問いかけるアクティビティや,「今,職場で困っている事」についてのグループディスカッションは,参加者自身による気付きを促すものであり,グループ内では活発な意見交換がなされた。

最後にSOSに対応するために必要な事として,傾聴力・相談力を持ってクライアントに向き合い,クライアントが弱音をはいてもかまわない=SOSを出しても良いという体験を積みかさねていく大切さを挙げられていた。昭和の「アタックNo1」や「巨人の星」が放映されていた当時との認識・価値観の変遷を感じている。

今回の研修は,各分野からの参加者の立場や現状をグループ内で共有することで,広い視野で考えるきっかけにもなり,又,今回,教諭の参加も多く,現場サイド側からのアクティビティは,教育現場での今後の対応に役立つ内容であったと思う。とても有意義な研修でした。どうもありがとうございました。

第237回理事会報告

日 時:2023年9月11日(月)19時5分~21時28分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(添付資料有):島津理事長から,8月期の会計報告について,説明資料を基に報告があり承認された。

第2号議案 「居場所づくり事業」に関すること:「ルポ」の開催については,ピアワークスとのスタッフの兼任があり,人材確保が難しくなる日もあることから,担当の植松氏と山奥氏に,意見聴取を行った。山奥氏からは10月1日の1日だけの補助スタッフを募っても誰も応募がないなどから,開催日に関しては将来的に週2日を週1日にした方が良いとの案が出された。植松氏からはファミリーカウンセラー会議欠席が可能であれば健康上も2日開催は可能である。開催時間に関しては2時間を設定しているが,グループミーティングが超過することもある等が語られ,担当スタッフのスーパビジョンが必要ではないかとの意見も出た。10/1の補助スタッフに関しては再度ファミリーカウンセラー会議で募るが誰もいない場合は森本が臨時的に参加すること,今後の開催日数等に関しては居場所づくり企画運営委員会にて検討することで了承された。

第3号議案 共同募金に関すること(添付資料有):①テーマ募金参加団体連絡協議会が11/13~11/17の間に開催され日程調整についての連絡が届いている。山奥氏が担当を辞退したいとのことで,後任を青木理事にお願いすることで承認された。②街頭募金活動が10月9日にゆめタウンで行われる。10/9に合同会議を計画中であり,また10月8日がメンタルヘルスデーのキャンペーンで行事が立て込んでいるため今年度は欠席で出すことで了承された。

第4号議案  リトリートたくまに関すること:①チラシについては,メーリングリストで求めた意見を踏まえて修正し,印刷する。チラシの配布先は三豊市市内の学校や社会福祉協議会などの関係機関で,柾理事が持参する予定。また,土曜日開設のきっかけとなった,これまでの参加者で就労した人に対しては,その後も電話があるなど,連絡のとれる人に案内することで了承された。②リトリートたくまのスタッフより1年前から責任者を外して欲しいと言われていたが,この度12月末でスタッフを辞退したいとの申し出があった。当人は会計も担当しており,担当理事からの報告の受け,島津理事長が話をしてみることで了承された。

第5号議案 第2期高松市自殺対策計画策定における取組等に関する調査に関すること(添付資料有):基本施策4,7,9を島津理事長が読み上げ確認した。その後,11市民団体の1つとしてマインドファーストは市の自殺対策について意見具申を行う立場にあるという認識を共有しておくことが大切であると言う意見が出され,了承された。

第6号議案 ファミリ-カウンセラー養成講座に関すること(添付資料有):発送先を決定し,例年通りのカガミ文を作成した。発送作業を9月18日(日)15:00~オフィス本町にて行う。ファミリーカウンセラーのメーリングリストで作業の協力依頼を行うこと,講座のチラシが必要な人には9月24日(日)のファミリーカウンセラー会議で手渡すことで了承された。養成講座開催までの手順書については,現在の養成講座担当理事で作成する旨,報告承認された。

第7号議案 世界メンタルヘルスデーのキャンペーン(10/8)に関すること:①9月28日に昨年と同じデザインのシルバーリボンステッカー800枚(21,000円)が納品される。②発送作業は9月30日(土)14:00~オフィス本町で行う。シルバーリボンをチラシにホッチキスで止め,封入する。封筒の準備はAIYAシステムに依頼する。③10月8日(日)10:00~高松駅前にて街頭キャンペーンを行う。香川県障害福祉課と高松市健康づくり推進課職員の参加希望がある。今年度は10月4日~10月10日,日没から22時まで高松シンボルタワーがシルバーでライトアップされる予定である。④リトリートたくまに来られている方がボランティアとして街頭キャンペーンに参加した場合は旅費を支給する。以上4点が了承された。

第8号議案 傾聴・相談力セミナーの予算に関すること:基本的には,事前の申請と理事会の承認が必要となるので,事後の研修費の補助金申請は難しい。今年度の,日本集団精神療法学会のメンタライゼーションワークショップ研修会への参加費用は,事後相談となるため認められないが,来年度の活動を予算化し,担当者が申請することは可能である。追加説明として,傾聴・相談力セミナーが,調査研究事業であること,予算の元となる資金は,毎年行われている共同募金の中から捻出されており,予算に限りあることなどを考慮して来年度予算を申請する旨,担当者に伝え了承された。

第9号議案 「技術援助実施要領(仮)」に関すること:時間の都合で審議未了となったが,市からの依頼もあることから次回の理事会では是非承認されたいとの意見が出た。

第10号議案 ファミリーカウンセラー会議,学習会に関すること:学習会担当理事が欠席の時は,参加した理事で学習会進行を行うことや担当理事や担当スタッフについて今後検討する必要がある。10月と11月のファミリーカウンセラー会議(10/22,11/26)は養成講座と重なるため,10月11月の開催に関しては次回9月24日のファミリーカウンカウンセラー会議で検討すること,以上が了承された。

第11号議案 理事・ファミリーカウンセラー・ピアサポーター合同会議に関すること: 10月9日(月)13:30~15:00開催の合同会議は会場が未定である。会場について青木理事が男女共同参画センター(ミライエ)をあたることで了承された。

第12号議案 次回理事会開催日に関すること:次回理事会予定日である第2月曜日が祭日のため次回は10月2日(月)とすることで了承された。

編集後記:香川県ゲーム依存症条例の成立過程で欠けていたのは,日本が近代化の過程で,西欧から学んだ「真理の感覚」です。西欧から学んだもう一つ大切なことに「人権感覚」がありますが,これについても,その感覚が問われる事態が起きています。SNSなどでアイヌ民族を揶揄する投稿をし,札幌法務局から「人権侵犯」を認定されたばかりの杉田水脈衆院議員について,自民党は9月29日,環境部会長代理に起用することを決定しました。ジャニーズ性加害問題については,英国BBCが3月7日に放映したドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」で,当時の被害を訴える男性らの顔出し証言が配信されたことが,関心を集める契機となりました。国内では早くから被害状況を綴った書物が出版され,裁判所の判決も出たにもかかわらず,国内マスメディアは黙殺してきました。(H.)