年頭所感

私たちにできること

マインドファースト理事長 島津昌代

のどかな元旦を迎えた2024年,それが夕方に一変してしまいました。

能登半島地震そして航空機火災により犠牲となられた方々,ご家族の皆さまにお悔やみ申し上げます。また,被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

日々のニュースを通して被害の規模の大きさがどんどん明らかになり,その大変さに圧倒されて,ともすれば無力感に苛まれそうになるのですが,こういう時だからこそ,今,自分にできることを考えたいと思います。

一昨年度,私たちは「大規模災害とメンタルヘルス-回復のためのセルフケア」というファクトシートを作成しました。自然の脅威に直面し,それまで当たり前と思っていた日常が壊された時,動揺してそれまでに体験したことのないような感情や感覚にとらわれるのも無理ありません。そして,それは,TV等メディアを通して脅威にさらされている人にも起こります。まずは,そうした反応が起こっても自然なことなのだと知っておくことが,セルフケアの始まりです。その上で日常を取り戻すためのちょっとした工夫,人や大事なペットとのつながりを大事にしてください。自分が独りぼっちではないことを実感する時,それは心の支えになります。

私たちにできること―これは,自殺予防のためのゲートキーパー普及啓発に関する研修会でも,かならず副題につけているのですが,自分にできるささやかなことを見つけること,そしてそれらを少しずつ積み上げて行動に移すことが心のバランスを取り戻し(これがレジリエンスです),人とのつながりを紡いでいくと思うのです。

どうぞ,今年もよろしくお願いいたします。

オンライン参加報告

令和5年度自死遺族等支援団体向け研修・意見交換会

~自死遺族等支援活動の課題と今後の展望~

(2024年1月13日土曜日13時~15時開催)

マインドファースト理事 上田ひとみ

今回初めて,令和5年度自死遺族等支援団体向け研修・意見交換会に参加させて頂いた。令和4年度から実施されているこのオンライン意見交換では,いのちを支える自殺対策推進センター(JSCP)が,全国の自死遺族等支援団体の活動を展開する上で,ヒントを得るための場として開催している。

今年度のテーマは,各団体が直面している課題や自治体との連携における留意点であった。各団体から①残された遺児の支援窓口が少ない②不適切な指導による自殺と教育現場への指導の問題③各支援団体の人手不足と人材育成への課題など意見を聞くことができた。また,自治体と連携できている団体では,毎月開催場所の提供をしてもらえるなど,予算のある自治体と繋がることで,安定した事業を展開できることが分かった。また,相談窓口として,若年層ではSNSを使用することが増加しているなどの意見もあった。

電話相談も必要であることやその後の継続的な支援として,個別カウンセリング・自死遺族のグループミーティングへの参加へ繋げることも見逃してはいけないと意見を述べた。また,自死遺族の心のケアにおいて,メンタルクリニックに受診しても短時間診療で,十分な心のケアには至らず,支援団体のグループミーティングをネットで探されることもあることや,自死遺族の心の過程を考えると,求めているものが医療現場で提供されるものとは違うのではないかと意見を述べた。他の団体の方より,日本の精神医療が追いついていない現状と,世界から日本はこの←


→分野においてかなり遅れているなどの意見を頂くことができた。

「自死遺族等を支えるために〜総合的支援手引き」2018年改定にあたり,内容の検討と情報共有についても,今回の大きなテーマであった。まずこの手引きの成り立ちを振り返りたい。2006年に自殺対策基本法が成立,2007年に自殺総合対策大綱が策定され,自殺(自死)の問題が,「個人の問題」から「社会の問題」へと大きく進歩した。そして,2015年都道府県で自死遺族の「わかちあいの会」が開催されるようになり,その後も総合的支援が目指される中,2016年自殺対策基本法が改定され「生きることの包括支援」として,誰もが自殺対策に関する必要な支援を受けられるよう,全国の都道府県および市町村において,自殺対策計画が策定されることとなった。2017年の自殺対策総合対策大綱の策定では,この自殺対策基本法の理念と趣旨に基づき,新しい「自殺総合対策大綱」が策定された。

このように歴史をたどると,今回のテーマである「自死遺族等を支えるために〜総合支援の手引き」の内容については,法律に基づいた「生きることの包括的な支援」を示すものであるということが分かる。私たちNPOマインドファーストでは,サバイビング(自殺で大切な人を亡くされた人たちの支援グループ)を開催している。これは,手引きの中にある自死遺族等の自助グループ支援や民間団体による「わかち合いの会」等の運営支援に属する。自死遺族等の誰にも話すことが出来ない現状やその感情に苦悩していることなど,社会からの心理的孤立は回復を妨げるとされている。自死遺族が同じような経験をした人と思いや経験を共有することは,重要な自死遺族等への支援活動である。自死遺族のグリーフGrief(喪失による悲嘆反応・変化)とは,他者の悲嘆と比べようがないことであり,さらに自殺というイメージが,間違った偏見を与え自死遺族の心のケアを困難にしている。だからこそ,個人に合わせた心の支援が大切であると考える。

私も支援者の1人であり,自死遺族に接する時の態度として慎重な対応を心掛けることや「グリーフケア」についてしっかり学ぶ必要があると感じた。今回,自死遺族等支援団体向け研修・意見交換会に参加し,広い視野で自死遺族支援について考えるきっかけとなった。これからもこのような意見交換に積極的に参加し,今後の活動に生かして行きたい。


第241回理事会報告

日 時:2024年1月15日(月)19時00分~21時35分

場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること:理事長から12月期に関する報告があり,承認された。

第2号議案 調査研究事業に関すること:①居場所づくり企画運営員会:12月26日,第4回企画運営員会開催,中間報告書作成を植松理事が作成して運営委員メーリングリストで供覧した。次回は1月26日に開催。②傾聴・相談力セミナーワーキンググループ:12月24日,15:45~17:00,四番丁コミュニティセンターにて第3回ワーキンググループを開催。議事録をファミリーカウンセラーメーリングリストで供覧した。次回は1月28日に開催。以上報告が了承された。

第3号議案 令和5年度自殺対策強化月間に係る啓発キャンペーンに関すること:3月1日,17:30から高松駅頭において,香川県が標記キャンペーンを実施するにあたり,参加協力要請があり,これについては,島津が参加することで了承された。また,同日同時刻,コトデン瓦町駅頭にて高松市が同キャンペーンを実施するにあたり,啓発資材の提供依頼があった。これについては,サバイビングのカードを提供することで了承された。

第4号議案 テーマ募金に関すること:①実施状況:12月29日(金)14:00から,オフィス本町において発送準備作業を行い,1月4日メール便で発送とホームページ掲載を行なった。来週以降募金状況を確認することで了承された。②チラシの配布方法ないし配布依頼に関すること:チラシの配布については,郵送分以外にも,個別の手渡しで依頼を行なっているが,

今般,一理事が所属する職場宛に募金協力を依頼する形で,相当部数のチラシを手渡されたことで,当該理事からの疑義が提起された。同理事からは,職場宛の募金活動となると,上司に対して,私的な社会活動について説明を行なった上で,募金活動の協力を求める手続きが必要になることから,職場における募金活動は控えたこと,郵送分だけが募金活動における正規のルートではないが,各理事が個人的に依頼しうる募金以外に,組織団体等へ手渡しで募金依頼を行う場合は,理事者間で意思統一を図っておいた方がよいのではないかとの意見表明があった。これについては,寄付は個人とその任意性を基本とし,寄付を依頼する側と依頼される側の関係が損なわれない配慮を行うこと,特定の職域全体への寄付依頼は行わないことで了承された。

第5号議案 2023年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:標記事業の一つである新規ファクトシートの作成については,「発達障害」と「ヤングケアラー」の案が出されているが,NPO法人が作成するファクトシートの活用・配布の意義に立ち返って議論を行なった。「発達障害特性と自殺予防」「離婚を巡る子どもへの説明とケア」と言った案も示されたが,親子それぞれの生き辛さに目を向け,子ども・子育て関連で親に役に立つ情報提供と言う視点で,今後とも理事の意見集約を行いながら原案を作成することで了承された。また,ファクトシートの配布については,これまで専ら技術援助場面で活用されてきたが,今後は関係機関へ発送することも課題とすることで了承された。

第6号議案 リトリートたくまに関すること:①会計報告:人的経費の比率が大きく,助成金によっては,人件費として支出制限がかかっているものもあるので,今後は,支出だけでなく収支の相関が見える形で報告すること。②ブロシュール:Twitterは,「X(Twitter)」に変更。マインドファーストの構成員に「公認心理師」を追加する。スタッフに「その他マインドファーストが認めた者」と「ボランティア」を追加。駐車場に関することは表記しない。バス停の名称標記。③賃貸借契約:締結することで了承され,詳細は次回理事会において審議。以上が了承された。

第7号議案 ファミリーカウンセラー養成講座業務(マニュアル)に関すること:基本的には,次年度事業計画の段階で,開催期日と会場を明記できることが望ましいが,開催時期等は明示しておくことで了承された。

第8号議案 学習会についてのアンケートに関すること:ファミリーカウンセラー会議と一体化して行われている学習会がすべてではないため,会員の多様な学習ニードに対応するために,アンケートの雛型を作成することで了承された。

第9号議案 人材・組織育成事業の業務内容に関すること:継続審議

第10号議案 電話受理担当者に関すること:電話受理担当者から,電話受理の段階で,「死にたい」と漏らすなど,実質的に相談電話になるケースがあり対応に苦慮しているとの報告が一理事を通じてあった。ピアサポートラインと言う選択肢を提示する方法もあるが,まず,理事長が,担当者に状況を確認することで了承された。

第11号議案 次回理事会に関すること:2月定例理事会は,第一月曜に繰り上げ,5日(月)19時から開催とする。

編集後記: 「周囲には訪問看護や訪問介護などの支援をしてくれる人がいた」「人間関係で嫌なことがあれば関係を切るという自身の考え方で支援を切った」1月25日,京都地裁で死刑の判決を受けた京アニ放火殺人事件の青葉真司被告は,1時間半余の判決理由の読み上げを聞く中で,前述の量刑理由の説明の部分のところだけは,首を横に振ったとのことです。犯行に至るまでの半生は,貧困,虐待,両親の離婚,不登校,コンビニ強盗による服役,出所後は,生活保護や精神科訪問看護を受けていました。心身の不調を訴えるとすぐに薬を出したがる精神科医,受診が途絶えると定期的受診と服薬だけを言い置き立ち去る訪問看護師,人間関係の悩みの解決に療法やトレーニングを持ち出してくる心理カウンセラー,経済的窮状を訴えると就労をすすめるワーカー,こうした現状があることを見聞きすると,裁判官の「支援」と言う言葉が,空疎に聞こえます。社会的に孤立した人を支えるために,私たちの社会には何が欠けているのか,青葉被告が首を横に振った事情を詳しく聞いたみたいところです。2001年の大阪池田小学校で起きた無差別殺人で死刑判決を受けた宅間守被告も,犯行に及ぶ前に複数の精神科へ受診していました。この時は,私たちの社会は,事件の深層を解明することよりも,彼の死刑を急いでしまいました。(H.)