シリーズ:愛着障害

第4章 愛着スタイル
 不安定型愛着スタイル ~アンビヴァレント型~

マインドファースト理事・認定ファミリーカウンセラー 上田ひとみ

今回の章では,不安定型愛着スタイルのアンヴァレント型について事例を通して検証してみたいと思います。

3歳の健太くん(仮名)は,お母さんが大好きでいつもくっついて離れないタイプでした。ある日,家族で流水プールがある施設へ遊びに行きました。遊んでいるうちに健太くんは迷子になり,お母さんもうっかり健太君から目を離してしまいました。迷子案内所で保護されていた健太くんは不安で大泣きをしていましたが,お母さんが迎えに来たことが分かると,お母さんに抱きつき「なんで居なくなったんだ,お母さんはひどい」とお母さんを拳で叩きだし怒りをぶつけました。(注意:ここで登場する事例は架空事例です)

事例の健太くんの反応は,ストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure:SSP)のCタイプ,アンビヴァレント型に当てはまります。アンビヴァレント型は,母子分離時に強い不安や混乱を示し,重要他者である養育者との再会時に強く身体接触を求める一方で,怒りや攻撃を示します。Cタイプの養育者は,気まぐれで相対的に行動の一貫性が低く,子供のアタッチメント要求に応じた応答性というよりは,自己中心的な応答性を示し,子供は養育者の行動が予測しにくい傾向にあります。

子供は「自分はいつ見捨てられるか分からない」「他者は自分の前からいなくなるかもしれない」といった表象モデルを形成し,養育者に対し過剰に用心深くなり,自らのアタッチメントのシグナルを最大限に送出することで,たえず自分の方に引き付けておこうとする傾向にあります。健太君の怒りの態度は,いつ自分のそばからいなくなるかもしれない養育者に安心できず,見捨てられるのではないか?という不安感を常に抱えており,怒りの抗議を示すことで,置いて行かれることを未然に防ごうとする対処行動の表れと考えます。安心した象徴モデルを持たないアンビヴァレント型を示す子供は,アタッチメントのシグナルに敏感で,人との関わりで絶えず甘えてきたり,そうかと思うと怒りを示したり,愛して欲しい気持ちと怒りの感情の両価性(アンビヴァレント)を示すのが特徴です。Cタイプの子供は,自分の中にあるアンビヴァレントな相反する感情にとらわれ,絶えず他者との関係に不安を示し,相手を信頼することが難しく,これらは他者との人間関係を適切に保つことを困難にすると考えます。

日本では,このようなアンビヴァレント型が多く,文化的背景があるという研究報告があります。これは,父親は仕事をし,母親は子育てをすると言う封建的な考えから,育児を母親に任せっきりにすることで,母親と子供の関係が親密になり過ぎ,母子分離をした際に強い不安を示すアンビヴァレント型のような反応を呈してしまうのではないかと考えられています。

現在では,養育者の自己中心的な対応や親密な対応よりも,情緒的利用可能性(emotional  availability)と←


→応答性(responsiveness)がアタッチメントでは重要であるとされています。情緒的利用可能性とは,子供が自分の感情や状態を表現して養育者に働きかける関係性をいいます。これは,子供への過剰な関わりや反対に無反応でない関わりをいい,子供のシグナルがあるかないか?で反応することを言います。この情緒的利用可能性に養育者が正しく応答することで,子供は安心して自律性を獲得していく事が出来ます。養育者が子供への養育に余裕をもつことでアタッチメントの安定性を保つことができ,情緒的利用可能性に正しく応答できることに繋がると考えます。

次回は,不安定型愛着スタイル〜無秩序な型〜について検証したいと思います。
(文章中の事例は架空事例であり,登場人物名も仮名を使用しております。尚,架空事例の紹介は愛着理論を分かりやすく検証するためのものです。)


引用参考文献:①遠藤利彦「入門アタッチメント理論臨床・実践の架け橋」日本評論社,2021,251p ②数井みゆき・遠藤利彦「アタッチメント生涯にわたる絆」ミネルヴァ書房,2005,275p ③岡田尊司「死に至る病」光文社新書,2019,230p ④中尾達馬・加藤和生「成人愛着スタイル尺度(ECR)の日本語版作成の試み」The Japanese Journal of Psychology 2004, Vol. 15, No. 2, 154-159


第247回理事会報告

日 時:2024年7月8日(月)19時00分~21時35分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること (説明資料有):6月期の会計報告について,島津理事長より説明があり承認された。

第2号議案 リトリートたくまに関すること:①賃貸借契約(添付資料契約書)に関すること:特別代理人上田氏から報告があった。6月18日,2回目の事前協議を電話で行った。賃貸人のセコム月額6,000円の賃借人負担が難しければ,先に示した賃借料月額15,000円を20,000円に増額したいとの要望を踏まえ,賃借料を月額20,000円とすること,敷金は賃借料3月分の60,000円とすることで了承された。②第1四半期の会計報告に関すること:会計担当の青木理事から第1四半期の会計報告が行われ了承された。

第3号議案 調査研究事業に関すること:①居場所づくり企画運営会議に関すること:企画運営会議を再開するにあたり,まず理事が現要項の確認を行うことを前提として,継続審議とすることで了承された。②傾聴相談力セミナーに関すること:7月28日15時45分,四番丁コミュニティセンターにおいて開催することで了承された。

第4号議案 2024年度ファミリーカウンセラー養成講座に関すること: 上田理事から,進捗状況の報告があった。6月28日19:00から講師会を開催,申し込みをQRコードで行うこと,チラシは1000枚印刷,7月23日に発送,チラシ発送先は,概ね例年通りとすることで了承された。なお,次回講師会は,7月16日19時からオフィスにて開催する。

第5号議案 世界メンタルヘルスデイに関すること:10月10日のキャンペーンに向けて,チラシ改定を作成するにあたり,オモテ面のメンタルヘルス情報を更新すること,ウラ面には,手軽にセルフケアができるヒントになる情報として,「あなたが生きていて良かったと思える101の理由(オーストラリア喪失とグリーフ協会(NALAG)版マインドファースト改編訳2008)」を掲載することで了承された。シルバーリボンについては,リボンの制作,またシルバーリボングッズとしてラベル以外に,ボールペン,缶バッジ,クリアファイル等の作成の案が出された。

第6号議案 心の健康オープンセミナーに関すること:青木理事から案が示された。2025年1月から3月までに3回開催,一回1時間30分とし,他の行事が入っている土,日,平日夜間は避けること,会場は丸亀町レッツを第一候補とすること,先に実施した認定カウンセラーアンケートを講師選定の参考にすることが了承され,今後の継続審議とすることとした。

第7号議案 理事会の開催日時に関すること:定例の第二月曜日8月12日(月)は,8月5日に繰り上げることで了承された。

第8号議案 オフィス本町の整理に関すること:継続審議。

第9号議案 「おどりば」の開催に関すること:8月の開催は,1回のみとすることで了承された。

第10号議案 メールによる理事会の審議に関すること:継続審議。

編集後記:「悲喜こもごも」のこもごもは「交々」と書き「入り交じって」のことで,「悲しみと喜びとをかわるがわる味わうこと」です。しばしば「喜ぶ人と悲しむ人が入り乱れる」の意味で使われることがありますが,これは誤りで,一人の人間が喜びと悲しみを味わったり,喜びと悲しみが交互に訪れたりすることを指すとされます。7月28日,パリ五輪柔道女子52キロ級が行われました。優勝候補に挙げられた阿部詩選手が2回戦でまさかの敗退,畳を降りるとコーチにしがみつき会場中に響き渡る声で泣き叫ぶ姿が放映されました。容赦のない観察が,周りには冷酷と映ったのか,この号泣場面を放映したことに対する批判がありました。勝利の歓喜だけを享受するのではなく,敗退の悲嘆を分ちあうのも阿部ファンや観戦者の役割でしょうから,こうした批判は当たらないでしょう。五輪憲章そっちのけで「国威発揚」をかけて行われる近代オリンピックは,国家とマスメディアが総力をあげて国民の高揚感を鼓舞しようとするワイドショーになっています。発揚とは,過剰なエネルギーと過活動,疲れ知らずのポジティブな気分が特徴です。「躁」と「うつ」を繰り返す気分障害の一種,双極性障害(躁うつ病)は,いわば,病気としての「悲喜こもごも」とも言えますが,爾来,発揚気質の人は,双極性障害になりやすいと言われてきました。そして,躁うつ病からの回復は,躁とうつの繰り返しで推移していたものが,うつだけの繰り返しか,うつだけの長い経過に移行することが一つの目安になるとも言われます。躁状態は,一見疲れ知らずの気分の高揚状態ですが,自分が見たくないものに対して無意識に目をつぶるとか,真実を直視すると傷つくのでその怖さから自分を守るための心理的防衛であるという見方もあり,これを躁的防衛と呼ぶこともあります。うつはうつで,事実と思考の区別がつかなくなる認知のゆがみがもたらすネガティブ思考によって,当人は自殺を考えることもあるほど苦しみます。しかし,もはや躁的防衛が機能しなくなった「うつ」こそ,これまでの自己の生き方や人間関係のあり方を見直す機会になるとも言えます。一般に人々は,自分たちが直面するリスクや危険を過小評価し,楽観的な見方を維持しようとする思考に流れる傾向があり,これを正常化バイアスと呼びます。このバイアスは,心の平穏を保つための機能とされていますが,「こうあるべき」「こうあってほしい」と言った根拠のない楽観主義や希望的観測が入る余地が多くなり,本来直視すべき課題が先送りされるという落とし穴もあります。灼熱の太陽が人々からエネルギーを奪う過酷なこの暑さに,ふと絶望さえ覚えつつ,気分を高揚させて五輪を観戦しながら,地球温暖化の行く末について考えてみる「悲喜こもごも」の時間も大切にしたいものです。(H.)