報告

令和6年度第2回高松市自殺対策推進会議

-期待される中核市の役割-

2024年11月19日(火)15:00~16:30,高松市保健センターにおいて令和6年度第2回高松市自殺対策推進会議が開催され,島津理事長の代理で理事の花岡が出席しました。

高松市健康福祉局保健所健康づくり推進課課長谷本新吾氏の挨拶の後,会長及び副会長の選出が行われ,それぞれ,鈴江毅氏(国立学校法人静岡大学名誉教授),河野佳代氏(高松市健康福祉局局長)が選ばれました。

引き続き,精神保健担当から高松市の自殺の現状について報告が行われました。以下は,その要約です。

全国の自殺者数の推移については,2010年以降減少傾向にあったが,2022年,2023年は高止まりの傾向,香川県は2022年139人であったが,174人に増加,また,高松市は,2017年に52人と底を打って以来60人台で推移していたところ,2023年には,91人と増加している。

人口10万人当たりで見ると,性別では男性の方が多く,2023年は,男性が29.6,女性が15.0となっている。中核市別の比較では,2023年の自殺死亡率は,62市のうち,高松市が最も高くなっている。

年齢階級別では,2023年は,40歳代が最も多く,次いで50歳代となっており,男性では,60歳代,40歳代が最も多く,次いで30歳代,女性では,40歳代が最も多く,次いで20歳代となっている。

職業別では,男性が「被雇用者・勤め人」が最も多く,女性では,「年金・雇用保険等生活者」が最も多く,次いで,「その他の無職者」「被雇用者・勤め人」の順で多い。

自殺の原因・動機別では,2023年は,男女ともに「健康問題」が際立って多く,健康問題に分類される2022年と2023年の合計では,うつ病が最も多くなっている。さらに,「うつ病」と判断されたものは,男女総数で20歳未満が最も高く,次いで,20歳代,50歳代,40歳代,30歳代となっている。

続いて,2024年度から2028年度までの「第2期高松市自殺対策計画」の進捗状況について以下の報告が行われました。

高松市の自殺死亡率は,人口10万当たり15.1であったが,2023年度は,22.1に上昇,これは2024年から2028年までの年平均目標値を13.0以下としているが,これを大きく上回っている。ゲートキーパーの認知度については,2023年度は,18.0%であったものが2024年10月調査では,16.6%で,これも2024年から2028年の目標値28.3%には程遠い。新たに設けられた施策目標「地域の人たち等とのつながりが強いと思う市民の割合」として,「地域の人たち」「学校や職場の人たち」「家族や友人」「SNSのオンライン上の人」を掲げ, 2028年度までのそれぞれの数値目標を4%上昇に設定している。

最後に,各団体の自殺対策に関する取り組みについて報告の時間が持たれ,マインドファーストからは,従来からの8事業(相談員研修,ファミリーカウンセラー養成講座,クライシスサポートカウンセリング,ピア電話相談,メンタルヘルスユーザーの居場所「ぴあワークス」,子どもの喪失体験の支援「HOPE」,

ひきこもり家族のグループミーティング「おどりば」,自殺で大切な人をなくされた人のグループミーティング「サバイビング」)に加え,今年度実施の「心の健康オープンセミナー」の紹介をしておきました。

意見交換では,マインドファーストとして以下の趣旨の指摘を行っておきました。

(1)原因・動機別で見た自殺者数は,2013年から2023年合計で,男女とも健康問題がトップで,健康問題に分類されたもののうち,精神疾患が男女とも最も多い。こうしたことから,自殺の原因は,複合的とはいえ,医療機関につきさえすれば,自殺の低減につながるわけではないことが分かる。CDC(米国疾病予防管理センター)は,重要な自殺の予防因子の一つとして,医療や相談の質をあげており,原因・動機別の健康問題のうち,特に精神疾患を抱えた人が受けていた精神科医療の実態に目を向ける必要があろう。今後は,自殺を巡る医療の問題点を議論の俎上に挙げていく必要があるのではないか。

(2)職業別の自殺者数では,男性は「被雇用者・勤め人」が最も多く,女性も「年金・雇用保険等生活者」「その他の無職者」に次いで多くなっている。こうしたことから,自殺と働く人のメンタルヘルスとの相関が大きいことが分かる。今後は,職場のメンタルヘルスの現状について,市として情報収集と分析が必要になるのではないか。

(3)WHOは,自殺予防にとって,ゲートキーパー育成がベストプラクティスとしている。市としては,ゲートキーパーの認知度を高めていく数値目標だけを掲げるのではなく,中核市としては,実効のあるゲートキーパー育成計画を策定し,率先して地域の関係者に周知していくことが求められよう。

(4)第2期計画で新たに設けられた施策目標「地域の人たち等とのつながりが強いと思う市民の割合」の指標の一つとして,「SNSのオンライン上の人」とつながっている市民の意識を高めていく上昇数値目標を設定している。しかし,今日,SNSとつながることがメンタルヘルスの向上や自殺予防につながるというエビデンスはない。むしろ,近年,ソーシャルメディアの頻繁な使用は幸福度の低下につながるだけでなく,過剰なスマフォの使用は,共感能力の低下やうつや社会的孤立の要因になりやすいといった知見が蓄積されつつある。SNSとサイバーいじめ,自傷や自殺,うつなどメンタルヘルス問題との関連が指摘される中で,諸外国では,若年者のSNS使用の規制が進んでいる。単純にSNSとのつながりを推進することは,慎重であるべきであろう。

2023年の香川県の自殺者数の増加は高松市が寄与しています。また,中核市では高松市が最も高くなっています。委員会では,こうした現状に対して,2023年単年で考えるのではなく,今後の推移を見守るべきであるとの意見もありましたが,正常化バイアスの中で,2028年度の第2期計画終了時点での総括を待つ姿勢ではなく,直近の統計数値の分析や委員会での議論を踏まえ,実施計画の必要な見直しを行うなど柔軟な対応が求められます。

昨年の第2期計画案協議の席では,中核市として,外国人移住者への支援計画を提言しましたが,第2期計画には盛り込まれていませんでした。ハイリスク生活者である外国人への支援の無関心は,一般の生活弱者への支援にも無関心になるのではないかと気になるところです。

マインドファースト理事 花岡正憲←


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活動報告 技術援助

2024年度香川県ゲートキーパー普及啓発事業

観音寺市PTA連絡協議会ゲートキーパー養成講座

マインドファースト理事 上田ひとみ

 2024年11月16日(土)9時30分から11時05分まで(95分),ハイスタッフホール多目的ホールにて,市内小・中学校PTA会員,ヘルスプランに関わる方(合計150名程度)を対象とした観音寺市PTA連絡協議会ゲートキーパー養成講座の講師として,花岡と上田が派遣された。

最初に,観音寺PTA連絡協議会会長高城氏より,過去に生徒が自殺をほのめかすことがあり,話を聴いてみると自分なりに力になれることがあった。その時は,サインを出してくれたから未然に防ぐことができたが,心の健康とは,まず,休養をとることであり,そのことをどう人に話せばよいのかと考えるきっかけとなった。今回のゲートキーパー養成講座の内容は,私にとって念願のテーマであったと挨拶があった。

次に,香川県精神保健福祉センターの酒井氏より,香川県の自殺の現状として,香川県での自殺者は,前年度より25%の増加があり,増加率では,全国ワースト1位であると説明があった。また,精神保健福祉センターにおける自殺対策として,県立中央病院に搬送された自殺未遂者の訪問等支援事業を病院と連携して実施していることや,支援者技術の向上を目的とした専門職や学校教員向けの自殺予防のための対応力向上研修会を開催しているなど説明があった。最後にゲートキーパーとは,自殺予防の門番である。人はいろんな悩みを持って生きており,日常の生活の中で,誰もが相談に乗り話を聴くことができる。そのことで,7~8割はゲートキーパーの役割を果たすことが出来ると説明があった。

マインドファーストの講義では,花岡が「若者の心の危機へどう向き合うか-自殺予防のために私たちができること-」と題して,①はじめに~自殺とはなにか~②ゲートキーパーの役割③自殺に関する神話④自殺の危険因子と防御因子⑤気づきのポイント~だれかが自殺をしたがっているのは,どうすればわかるか~⑥わたしは何ができるか?⑦自殺が起きてしまったら⑧自傷行為とは何か?⑨子ども・若者の自殺を防ぐ⑩「心の理論」~心の危機の基礎理解のために〜⑪SNS時代の子どもと若者⑫まとめに代えて〜メンタルヘルスリテラシーの向上~について資料をもとに講義を行った。追加の配布資料として自殺関連や愛着障害に関するファクトシートを配布した。参加されている方が,市内小・中学校PTA会員,ヘルスプランに関わる方,教員であったこともあり,花岡が学校での場面や家庭での子供との場面を例に出すと,熱心に聴き入る様子が伺えた。

③の自殺に関する神話の説明では,「神話」についての感想を会場の参加者に問いかけ,上田がマイクを持ちインタビューをして意見を拾い上げた。例えば,神話5「自殺をしたがっている人に,そのことを尋ねたり,自殺のことを話題にするのは,自殺の危険性を高めることになる」に対して,インタビューを行うと,2人の方は,神話どおり「話題にしない」と答えたが,1人の方は自ら手をあげて「自殺したい思いを吐き出してもらうことが大切です」と答えてくれた。その後「真実」の説明として,花岡講師より,自殺を話題にすることは,それがコミュニケーションの機会となり,自殺をしたいほどの原因となる悩みをアセスメントするきっかけとなる。自殺のことを話題にすることは重要なことであると説明があった。自殺の神話とは,間違った考え方や問題と真正面から向き合いたくない言説である。今回,手を上げて答えてくれた参加者の姿勢は,自殺の真実と向き合う姿勢があり,発言にも力強さとゲートキーパーになりたいという意思が伺える一場面でもあった。

次に,⑩「心の理論」のところで,サリーとアンのテストの説明があった。サリーがボールをかごの中に入れて居なくなり,アンがかごの中のボールを箱の中に移す。そこにサリーが戻ってくる。「サリーはボールを取り出そうとどこを探すでしょう?」と質問を会場の参加者の方に投げかけてみた。上田が,会場をラウンドしながらインタビューしてみたが,正解者は1人であった。簡単な心の理論のテストであるが,ボールの在りかを追いかけてしまうと正解にたどり着けない。ここではサリーの心の事情を想像することが出来ると正解にたどり着ける。「他者が何を思い,何を考えているのか」相手の事情を考え想像する力は,若者だけでなく,大人も見失いがちになっているのかもしれないと感じる場面であった。最後に,普段私たちが大切にしていること「メンタライゼーション」については,上田から「メンタライゼーション」とは,Holding mind in mind日本語に訳すと,心でもって心を思うこと,心を包むことである。私たちカウンセラーは,相手の心の景色を想像し,自分の心でもってしっかり相手の心をholdすることを大切にしている。それは,ゲートキーパーも同じである。子どもにとってのゲートキーパーは両親や教員かもしれない。このような相手の心の景色をイメージしながら対話することを体感する企画を傾聴・相談力セミナーワーキンググループの中で検討していることも付け加えて説明をした。

時間の関係で,花岡講師の準備したスライド⑪SNS時代の子どもと若者⑫まとめに代えて〜メンタルヘルスリテラシーの向上〜の説明ができず資料として持ち帰って頂いた。

第252回理事会報告

日 時:2024年12月2日(月)19時00分~21時22分

場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 リトリートたくまに関すること:リトリートたくまを担当する理事から理事長に対して,来年度は対応できないとの意思表示があったことから,次年度のリトリートたくまの運営について集中審議を行うために,次回の定例理事会を待たず,今回の理事会が招集された。2023年11月に,体調不良と管理業務の負担を理由に管理者が退職したが,以来,後任が確保できないまま経過している。リトリートたくまを継続するには,現状では管理者が欠かせず,スタッフやボランティアでローテーションを組んで運営を続けることは限界であること,今後も管理者の確保が難しいようであれば,リトリートたくまの運営規模を縮小ないし閉鎖せざるを得ないという議論になり,結論は持ち越されたが,今回の理事会には欠席した担当理事に対して,理事長が出席要請を行い,あらためて集中審議のための理事会を開催し意見を聞くことで了承された。

編集後記: 11月29日,オーストラリア政府は世界初とされる「16歳未満のSNS利用を禁止する法案」を可決しました。YouTubeやネットゲームを除く,「X」「インスタグラム」「TikTok」などのプラットフォームが対象です。違反した場合は最大5,000万豪ドル(約50億円)の罰金が科されるとなっていますが,これは保護者や利用した子どもに科されるものではなく,SNS運営会社が年齢確認を怠った場合となっております。オーストラリアの世論調査では,国民のおよそ77%が,これに賛成しています。SNSの若者への影響は米国でも社会問題となっており,超党派による規制強化が進んでいるようです。ワシントン特別区は,TikTokが若者の心理に悪影響を与えると知りながら,アプリを意図的に中毒的な設計にしたと主張,動画の投稿の表示順を決めるアルゴリズムについて,ドーパミンの分泌を刺激するように設計し,若者の心理的健康よりも利益を優先したとして訴えを起こしています。スマートフォン使用が,若い世代に,睡眠不足,注意の断片化,孤独,完璧主義などを招いている,若い世代のうつ病,不安障害,自殺,自傷行為が上昇させているなど,メンタルヘルスとの関連を指摘する研究や,子どもは,SNS上で仮想的につながる集団行動という罠に陥っているため,子ども時代の同期性のあるエキサイティングな遊びを取り戻すことが大切であるという意見を述べる社会心理学者もいます。性同一性は複雑なダイナミクスによるもので,オンライン上の相互作用を含めた社会的・文化的要因が,性の理解や経験に影響を与えているという議論もあり,SNSの若い世代への心理社会的影響については,今日,様々な角度からの議論が必要になっていることは確かでしょう。(H.)