オーストラリアのメンタルヘルスネットワーク
beyondblue
プライマリケアにおけるうつ病治療のガイドライン
オーストラリア うつ病全国プログラム(下)
マインドファースト通信編集長 花岡正憲
うつ病は,オーストラリア社会においてはごく一般的な精神疾患とされている。最近の精神保健及び福祉に関する全国調査によると,調査前12か月間に約18%の人がなんらかの精神科的問題を経験しており,そのうち38%の人がなんらかのヘルスケアサービスを求めており,さらにその76%がかかりつけ医を訪れている。うつ病経験者のほとんどが日常生活に深刻な中断をきたしており,多くの者が不安障害や薬物乱用障害を合併している。
このように,うつ病の有病率の高さ,その結果もたらされる障害の重大性,そしてかかりつけ医が中心的な役割を担っている事実を考えると,とりわけプライマリケア(一次ケア)部門において,うつ病に対して質の高いケアを提供することが重要である。
ところが,これまでのうつ病治療のガイドラインは,二次ケア現場における深刻なうつ病に焦点が当てられがちであった。しかし,二次ケア現場で見られるものは,病気のパターンの点でも,不安や物質乱用やその他の健康障害との合併においても,かかりつけ医段階で見られるものとは,かなり質的に異なるのが実情である。
このように,これまで第一線のヘルスケアの専門家の指針となり,またユーザーにも役立つ科学的根拠に基づいたガイドラインが存在しなかったことを踏まえて,beyondblueでは,プライマリケア部門が,うつ病の治療とそのヘルスケアに対して中心的役割を取れるためのガイドラインを定めることになった。
beyondblueは,科学的根拠に基づいた治療を推奨するためのガイドラインを開発するにあたり,文献調査におけるデータベースや医学ジャーナルの検索に関する一定の基準と手順を設け,ガイドラインで使用されるエビデンス(科学的証拠)のレベルを5段階に分けて示すようにしている。
以下はガイドラインの基本的事項である。
 重度のうつ病の治療においては,患者,かかりつけ医,二次的メンタルヘルスサービスとの間のパートナーシップが大切であるが,ほとんどの人が軽度ないし中等度のうつ病であることから,通常うつ病はかかりつけ医で扱われている。
 数の上では少ないが,深刻で複雑なうつ病を経験している人々に,専門的メンタルヘルスのアセスメントや薬物療法以外の専門的治療が必要になるのは急性期だけであり,これらの人々に対しても,かかりつけ医の多くが治療を行っているのが実情である。
 個々の患者にとって適切な治療計画を立てるためには,綿密なアセスメントが不可欠である。アセスメントでは,うつ病のタイプ,重症度,うつ病エピソードの持続期間に加え,うつ病エピソードの発現に関与し,かつ症状を悪化させるストレス要因を特定すること,そして,それぞれの患者が活用できるサポートや資源を確認しておくことが大切である。また,自殺(または自傷)や暴力や無視(例えば,子どもの養育場面における)など,他者への危険性のアセスメントも必要になってくる。
 治療は,うつ病のタイプ,現在の重症度,持続期間と病歴によって異なる。いずれにしても,ヘルスケアの専門家と患者の間に良い治療同盟が構築され,適切な治療が充分な期間提供されてこそ最善の成果が期待できる。
 治療の第1選択では,軽度及び中程度のうつに対する主な薬理学的および心理的な治療の選択肢に大差は見られない。
 第1選択で充分な反応が得られないときは,第2選択及び第3選択の治療が適応になる。いずれにしても,あらゆる薬理学的および心理的な治療において,早期に治療を中止する人々の間では高い再発率が見られる。
 多くのうつ病に,認知行動療法(CBT)と対人関係療法(IPT)の効果があることが証明されおり,その期待がますます高まっているにもかかわらず,すべてのセラピストが行えるとは限らない。CBTとIPTは,スキル(技能)と豊富な実践経験を持つ者だけが実施可能であり,すべてのセラピストに効果を期待することはできない。
 臨床経験上は,CBTとIPT以外の心理療法も,大きな対人関係の困難や重たいトラウマを抱えた人たちには役に立っているが,他の形態の心理療法に関して,CBTとIPTと同等の有効性についての研究はほとんどない。(「beyondblueプライマリケアにおけるうつ病治療のガイドライン」から)
2009年度定期総会のご案内
2009年5月11日(月)午後7時から,高松市男女共同参画センターにおいて,2009年度マインドファースト定期総会が開催されます。審議事項は,以下に示すとおりです。
  1. 2008年度事業報告
  2. 2008年度収支決算報告
  3. 2009年度事業計画案
  4. 2009年度収支予算案
  5. 役員改選
  6. その他
 編集後記:自殺者が11年連続で3万人を超えている現状を踏まえ,政府は自殺対策に3年間で合計100億円の「基金」を設け,相談に訪れる人に対する窓口での応対業務の強化,電話による相談体制の充実,自殺を考えている人が訪れる可能性の高い場所のパトロール活動の支援などを検討しているとか。利権に群がる人だけが増え,自殺者は一向に減らない,ということがないようにしっかり見守って行きましょう。(H)