オーストラリアのメンタルヘルスネットワーク
Suicideline vic:1300 651 251 ビクトリア州の自殺予防ライン
マインドファースト通信編集長 花岡正憲
ビクトリア州は,オーストラリア南東部の最小の州で,面積は日本の約5分の3,22万7千平方キロ,人口は約500万人,州都はメルボルンである。
SuicideLine(ビクトリア州自殺予防ライン)は,オーストラリア唯一の自殺関連のコーラー(通話者)を支援するために設けられた専用のヘルプラインである。プロのスタッフを配置し,24時間体制が取られている。ビクトリア州内であれば,ローカル通話料金で利用可能である(携帯電話は除く)。非英語圏の者には通訳がつく。2008年度は,28,000件を超えるコールを受け,自殺の危険性がある人,家族や友達,自殺者遺族に対して,次のような専門的支援を行なっている。
(1)自殺予防カウンセリングとサポート (2)危機介入 (3)誰かの自殺の危険性を心配している人への情報提供 (4)自殺者遺族への支援 (5)ビクトリア州の各種関連サービスの紹介
SuicideLineは,ビクトリア州の最も自殺の危険性が高い人たちを対象にしており,コーラーの27%以上が,電話があった時点で中程度ないし高度の自殺ないし自傷の切迫したおそれがあることが明らかになっている。2007年度及び2008年度は,24歳以下と35から44歳の人たちからの電話が増えており,リスクが高い階層から切実なサポートが求められるようになっている。
ビクトリア州のSuicideLineだけでも,安全確保のための緊急介入が必要になるコールは,週に10件以上あることから,オーストラリア全土に向けては,別の機関Crisis Support Services(危機サポートサービス)が,専門的自殺予防電話サービスを24時間提供している。
Suicide Call Back Service(自殺予防再電話サービス)
「自殺予防再電話サービス」は,自殺予防にとって画期的ともいえる重要なサービスである。これまでに,孤立し最もリスクが高い250人以上の人々の自殺の危険性を劇的に低減してきた。以下のような専門家によるサービスである。
  • 幅広く自殺の危険性のある人やその関係者及び自殺者遺族を対象にした無料の全国電話サポートサービスである。
  • コーラーそれぞれのニーズにあわせてスケジュールが組まれ,構造化された1回50分間の電話カウンセリングセッションを6回にわたり行い,コーラーをサポートしている。
  • 毎日,午前10時から午後8時30分(東部標準時)まで運営されており,自殺関連問題に関する専門的スキルを持ったカウンセラーが,クライエントが抱える難しい情緒的問題を乗り越えるための心の作業を支援している。
コールバックサービスの支援対象となるのは:
(1)自殺をしようとしているクライエント
(2)自殺をしたがっている人をケアしている人
(3)自殺者の遺族
(4)特に地理的または精神的に孤立している人々
最近の事業評価で,こうしたサービスの重要性が一層明らかになっている。自殺の危険レベルが低減できるのは,4回までのコールでは18%であったが,6回目以降のコールよって,中程度から高度の自殺の危険性があるとされた人々の83%において,危険レベルを下げることに成功している。
2006年度,SuicideLine全体としては,全州から約14,000件のコールに対応し,コールをしてきた人の3分の2以上(68%)が女性で,男性は32%であった。コーラーで最も多いのが35〜44歳(37%)で,25から34歳は31%,15〜24歳が14%,45〜54歳が10%,55〜64歳が7%となっている。
SuicideLineにアクセスする圧倒的多数の人々は,自分自身の自殺願望や自殺行動(84%)に関するものであった。残りの16%の内訳は,だれかの自殺に関すること(14%),そして,身近に自殺した人がいて,それについてサービスを求めてくるもの(2%)となっている。
SuicideLineの電話相談が,自殺のリスクを低減させることは,科学的にも立証されている。カウンセラーが,(1)共感的かつ支持的で,(2)コーラーと問題を解決するために協働でき,(3)コーラーに尊敬を持って接することができる場合は,コーラーの自殺可能性を大幅に減らすことができるとされる(Misharaら,2007)。最近の研究によれば,自殺予防電話にコールをしてきた人たちは,電話カウンセリングのセッションを開始して,数週間で安定した状態が得られるようになっている(Gould, Kalafat, Harris-Munfakh & Kleinman, 2007)。
SuicideLineは,危機電話相談の分野でのもっとも優れた実践活動とされている。ラインで働くすべての相談員が,心理学,ソーシャルワーク,カウンセリング分野等でなんらかの資格があり,さらにSuicideLineカウンセリングモデルによる16時間のトレーニングを受けている。
カウンセリングモデルは以下の点に焦点を当てている。
  • コーラーと強固な関係を構築
  • 綿密で継続性のある自殺のリスクアセスメント
  • コーラーの速やかな安全確保
  • その後の安全プランの展開
  • エンパワーメントと目標設定
 編集後記:今月号は,オーストラリアの自殺予防相談電話(SuicideLine)をご紹介いたしました。旧態依然とした事業や,目的が曖昧な人材確保では,とても自殺を考えている人たちのニーズを受けとめることはできず,その危機を乗り切るだけの支援を行なうことは難しいと言えそうです。(H)