人づくりの作法-大切にしたい相談支援活動における生活者の視点-
マインドファースト通信 編集長 花岡正憲
30年も前の話である。はじめて海外の精神保健関連施設を見学する機会があった。当日の朝見学者一行はビジターズセンターでオリエンテーションを受けた後,いくつかのグループに別れ1時間から2時間単位で複数の部門をまわる。各部門では最初に担当者から業務について解説が行なわれ,その後意見交換が持たれる。意見交換では施設職員からも遠慮なく質問が飛んでくるから,物見遊山で見学というわけには行かない。施設側は,外来者との意見交換を通して,ともに学ぶことを大切にしている。観光ツアー型の見学に慣らされていた私には,これは目から鱗が落ちる体験であった。
その後も何度かいくつかの国の施設を訪れることがあったが,いずれも見学者の受け入れはこうした形で行なわれていた。本来施設見学とは,建物や設備を「見」て回るだけでなく,人がどのようなポリシーを持って,どのように仕事をしているかを「学」ぶ機会にすることであろう。今になって思えば,日本がハコモノづくりに狂奔していたころ,早くから「コンクリートから人へ」を実現していた諸外国の一面でもあった。
ともあれ,わが国も遅ればせながら「ハコモノづくりから人づくり」である。子育て支援,DV対策,グリーフケア,被害者支援,心のケア,自殺予防など,近年,人材育成・人材確保のニードは,とりわけ対人援助の分野で高まりつつある。従来の医療や保健福祉対策では対処が難しい多様で複雑な問題が起こりやすくなっていることは否定できない。
最近,各種の助成事業において,ソフト事業への補助がつきやすくなった感はある。しかし,本当に地域社会が求めている方向で人材育成や人材確保の体制づくりが進んでいるかといえば疑問である。例えば,相談に訪れると一通り話は聞いてくれるが,毎回相談員が変わり,相談の終わりには,決まって「またなにかあったらどうぞ」と言われる。多くがこうした窓口である。今日,家族や地域社会で起きている問題は,一時しのぎの相談で解決するほど単純ではなく,一定の見通しのもとに継続した関わりを求められることが多い。そのためには,それぞれの分野において専門的知識と技術を備え,責任を持って支援が行える人材の確保が欠かせない。このところそうした相談支援活動をしてみたいという声を聞くことが少なくない。変化しつつある相談支援活動現場のニードに向き合い,人材育成のあり方を根本から見直す必要があろう。
新しい人づくりは一朝一夕にかなうものではない。人集めの苦労が比較的少ないこともあり,遠来の著名人や特定分野の第一人者を招いて,講演会を開催することが好まれがちである。こうした学習方法が,必ずしも無駄だとは言わない。しかし,セレブの美辞や学者のアカデミズムだけで,人は育たないことも事実であろう。日頃から地域社会の課題に取り組んでいる人たちが,知恵と経験を持ちより学び合う場をつくる。生活者の視点を大切にしたパートナーシップこそ人づくりの原点である。人材育成のノウハウの開発や人材育成事業をプロデュースできる人を育てることも課題である。活動の場づくりやフォロー体制も欠かせない。人材育成事業も多様化しつつあり,この分野は,当分,百花繚乱ならぬ玉石混交は否めない。育てる側も,育つ側も,しばらくは試練の時である。
第43回理事会報告
日時:2010年3月8日(月)午後6時30分〜9時00分
場所:高松市男女共同参画センター 第1会議室
議事の経過の概要
事務連絡および報告:省略
第1号議案 香川県地域自殺対策緊急強化基金事業費補助金申請に関する事項:対面型相談支援事業,普及啓発事業及び強化モデル事業の3事業について基金からの補助がおりることになった。事業実施に向けて,責任体制を明確にするために,事業ごとに担当者が定められた。
第2号議案 他NPO法人主催のシンポジウムへの後援ならびにパネリストの派遣依頼について:事業趣旨に賛同し,後援を行なうとともにパネリストを派遣することで了承された。
第3号議案 ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コースについて:3月7日にチラシ発送作業,3月8日にはホームページへの掲載作業を行い公募が開始された。これに伴い今後の受講申込の受理体制について確認作業が行われた。
第4号議案 メンタルヘルスユーザーの拠点と作業所の開設について:若年のメンタルヘルスユーザーを対象に,当面場所を高松市男女共同参画センターとし,月1回2時間枠でインフォーマルな形で開催を試みることで了承された。
第5号議案 2010年度事業計画及び総会の準備に関する事項:5月10日の総会に向けて,2009年度事業報告ならびに2010年度事業計画を各担当理事でまとめるよう理事長からの指示があった。
 編集後記:ある「ひらめき」が,形をなして人の動きとなるまでには,いわば議論と試行錯誤のprimordial soup(原始スープ)とも言えるステージが必要な場合があります。気が遠くなるほど長く感じられることがあっても,これは確かな何かを生み出すためには避けて通れない時間のように思います。(H)