伊達直人現象から見えてくるもの−私たちに何が問われているのか−
マインドファースト通信 編集長 花岡正憲
昨年の暮れから,全国各地の児童養護施設などにあいついで匿名でランドセルや文房具や衣類などの贈り物が届けられた。いわゆる伊達直人現象について,識者の中には,社会保障や社会正義の視点から考察を行なう者もいれば,寄付文化を広げるための税制論と関連づけた意見を述べる者もいる。一方で偽善的行為であると突き放した論評も見られる。今回,善意による寄付が,大きな話題になったのは,寄付者が匿名で,しかもアニメの主人公の名を語っていたこと,そして,これが報道されることで連鎖反応が起きたからに他ならない。
今後,こうした形で優しさを表現するやり方が一つの潮流になるとは思わないし,私たちの社会のあり方を考えるとき,そうなることが良いとも思わない。とはいえ,これを匿名による善意の一時的流行現象で済ますわけにもいかない。ボランティアやNPO活動を通して地域社会の課題に取り組む私たちのあり方が問われている出来事として,この現象を考えておく必要があろう。
寄付や社会奉仕は,お金であれ物であれ,相手に安心して受け取ってもらい,気持ち良く使ってもらえる形で行いたい。善意は,相手が求めるものだけではなく,断られることも含め,先方の事情に配慮した方法で伝えたい。これには異論のないところであろう。その点で,確かに匿名は相手に優しくないところがある。悪いことをするわけではないのだから堂々と名乗りを上げて寄付をすれば良いとか,名前を出すのがいやなら匿名にすることを前もって関係者に頼めばよい,などと批判はいくらでもできるであろう。しかし,ことはさほど単純ではない。
私たちは,誰かの役に立ちたいという思いから,自発的に行動したくなることがある。例えば,満員電車で人に席を譲る場合がそれである。他にも席を譲れそうな人がいる中でなぜ私なのか。席を譲る相手として,なぜ自分はこの人を選ぼうとしているのか。相手がそれを望んでいなければかえって迷惑ではないか。この程度のことで善人面をしたがっていると周りから思われやしないか。優しさを形に現すときに体験するためらいは,このように自発的に行動しようとすると,傷つきやすく,つらくなる自分がいるからである。
他人の問題に無関心でいられなくなると,いかに良き市民でいるかと悩みはじめる。自分がすすんでとった行動の結果,自分自身が苦しい立場に立たされる。このことは,金子郁容氏が,その著書『ボランティア もうひとつの情報社会』(岩波新書1992年)の中で「自発性パラドックス」として詳しく述べている。
自発的に他人や地域社会の問題に関わって行くとき,一人でやるのはつらい。無防備で,傷つきやすさがついてまわる。こうしたとき仲間や周囲の人たちの理解と協力は,大きな支えになる。しかし,良き市民として自発的に行動するときのつらさを分かってもらいたいと思っても,あなたがやりたいようにやったらと傍観者に回られてしまうことも少なくない。こうしたことは,NPOやボランティア活動の中にも見られる。近年,NPO法人として認証される数は毎年増えている。一方で,法人の解散も少なくない。その要因として,財源問題以外に,特定の人に負担がかかることが,早くから指摘されている。言い出しっぺに大きな負担がかかり,ふと後ろを振り向くと誰もついてきていない。自発的であろうとすればするほど,ますます孤立して行き,次第に自分のネットワークに期待できなくなる。
ネットワークを持たない人が,自発的になにか人のために役立つことをしようとすれば,孤独なゲリラ的ボランティア活動になってしまうこともあろう。今回は,アニメの主人公の名を借りた匿名であったことがニュースになり,こうした人々の間で連鎖が起きたとも言えよう。だが,報道による模倣の「連鎖」は本来の「ネットワーク」ではない。ネットワークは,自らすすんで人のために行動をしようとする人々に対する地域社会の真摯な態度によって成り立つものである。良き市民でありたいが,周りの理解や賛同が得られないかもしれないという葛藤,そして,地域社会におけるボランティア・スピリットを支えるネットワークの未熟さ,そうしたことが伊達直人現象を通して見えてくる。
私たちは,仕事の顔や金儲けの顔と言ったマスクをかぶることがある。しかし,優しさを形にするときは素顔でいたい。タイガーマスクも仕事の顔であるが,善意の行為者である伊達直人は素顔で寄付を行なっている。
第54回理事会報告
日時:2011年1月17日(月)午後6時30分〜9時00分
場所:高松市男女共同参画センター 第1会議室
議事の経過の概要
事務連絡および報告に関する事項:省略
第1号議案 2010年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業費補助金の年度内執行に関する事項:備品購入費並びに図書購入費の年度内執行について,次回ファミリーカウンセラー会議で協議の上決定することで了承された。
第2号議案 ファクトシートの発送と配布方法に関する事項:印刷されたファクトシート(2種類各1万部)の保管場所については,一理事宅で保管することとなった。発送の際の発送先と部数については,次回ファミリーカウンセラー会議で決めることで了承された。
第3号議案 2010年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業の報告書作成に関する事項:報告書の作成については,事業ごとの担当者が原案を作成する。2月21日19時より,担当者会議を開き,報告書作成のすり合わせを行なうことで了承された。
第4号議案 2011年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業の申請に関する事項:年度内に内示を受けるため3月中に申請を行なうことで了承された。
第5号議案 ホームページの顔写真に関する事項:サンプル写真を組み合わせマインドファーストのコンセプトにふさわしいものを選ぶことで了承された。
第6号議案 活動拠点の確保に関する事項:前回理事会からの継続審議事項であるが,現在も具体的な物件は見つかっていない。今後とも物色を続けて行くことが了承された。
第7号議案 その他
(1)事業報告書の作成について:今年度の事業報告書作成をすすめていく。総会資料としても必要なので早目の完成が望ましい。
(2)「平成23年度自殺防止対策事業」の公募について:今年度は「香川県地域自殺対策緊急強化基金事業」を受けている。次年度も継続申請を行なうため,本補助金の申請は見送る。
 編集後記:情緒的精神的欲求が充足される社会的ネットワークの基本単位は家族です。そして,「敬意ある話し合い」も人の成長に関係する重要な家族の特性の一つと言われています。マインドファーストでは,「2011年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コース」の開催に向けて講師会を重ねております。(H)