「自死」と「自殺」
〜ここからの議論も深まることを期待したい〜
マインドファースト通信 編集長 花岡正憲
自殺者遺族や支援者がシンポジストをつとめるある自殺予防シンポジウムに参加したときのことである。自殺とは,本当は死にたくないが,追いつめられての死であるといった論調で意見交換が行なわれ,そこでは「自死」という言葉が繰り返し使われた。こうした中で,「自死とは,理性的熟慮に基づく個人の意志決定によるものと理解する向きもあるが,なぜ自殺と言わずに自死というのか」という聴衆からの質問に,シンポジストの一人が,「当事者が自殺と言えないからだ」と語る場面があった。
「自死遺族支援」「自死で大切な人を亡くされた人たち」などと「自死」という言葉をよく聞くようになった。広辞苑第6版には,自死は「自殺」とある。しかし,自死と自殺は,イコールではない。日本人の自殺がもつ意味を文化論的に捉えた『自死の日本史』(モーリス・パンゲ著 竹内信夫訳 筑摩書房 1986年)では,宗教的罪悪とか病理的兆候の響きがまとわりつく自殺(suicide)ではなく,生きるための理由と死ぬための理由とが冷静に測られた上での意志的な死(mors voluntaria)が論じられている。私たちの社会には,自ら命を絶つのは当人の意志によるものだから,果たして支援が必要なのかといった考え方もいまだ根強い。
このところ,一部の支援者や専門家にも,自死という表現を用いる傾向が見られる。誤解や偏見にまみれた言葉は使いづらく,それに代わる別の言葉を使いたくなる事情は理解できなくはない。これに似たことは,「精神科」と標榜しにくいため「心療内科」を掲げたり,「障害」者ではないから「障がい」者と表記する事情にも伺える。だが,意に反して,新たな誤解や混乱を招く場合があることも事実である。こうした理由から,自殺に代えて自死という言葉を使うのを控えた方が良いと言いたいのではない。自殺と言えないから自死というのは,当事者性のある人たちのいわば,誤解や偏見からの緊急避難でもある。支援者や専門家に求められるのは,当事者性を持った人たちを生きづらくさせている地域社会の問題から目をそらすことなく,冷静な議論を重ねて行くことであろう。
2002年8月,「精神分裂病」が「統合失調症」へ呼称変更された。家族など当事者性を持った人たちの強い要望を受け,呼称変更までには,学会をはじめ関係者の間で長い議論の過程があった。呼称が変更されたとは言え,この病気については,スティグマや早期対応のあり方など,これからも解決が必要とされる課題は多い。それでも,病気の事実,治療のあり方,社会参加などについて関係者や地域社会の理解が深まり,呼称変更に到るまでの議論を通して得られたことは決して少なくない。
ある職場で自殺をテーマにした研修を受けた人たちに感想を聞く機会があった。「これまで自殺は他人ごと思っていた」「この問題を避けていたが,正面からとらえることが大切だと感じた」「自殺の事実について,誤解していたことに気がついた」という
声を聞くことができた。自殺という言葉が使いにくいのは,使いこなされていないことにもある。そのためにも,研修や啓発活動をとおして,この問題への人々のリテラシーを高めて行くことが大切である。自殺の危険因子やその兆候についての知識や情報を提供する,自殺以外の解決方法に焦点を当てるなど,自殺を自死と呼ばざるを得ない現状も含め,自殺予防には,地域社会が自殺について率直かつ正確に語れるようになることが欠かせない。
第55回理事会報告
日時:2011年2月14日(月)午後6時30分〜9時00分
場所:高松市男女共同参画センター 第1会議室
議事の経過の概要
事務連絡および報告に関する事項:省略
第1号議案 活動拠点の確保に関する事項:具体的な候補物件が提示された。物件の借上げに際しては,執行部が法人の経済状況を常に把握し,財源確保の見通しを持っておく必要がある。そのためには毎月の会計報告が必要である。財源の確保については,会計担当者の意見も参考に,その進め方を検討していく。次回理事会で継続審議を行なう。
第2号議案 2010年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業の報告書作成に関する事項:各担当者が原案を作成し,21日(月)に持ち寄る。県の指導による報告書の修正等に要する時間も考慮にいれ,報告書の完成した事業から県担当者に意見を求める。
第3号議案 ファクトシートの発送と配布方法に関する事項:発送先リストに目を通し,必要な追加訂正を行なう。鑑文の案は理事長が近日中に作成する。発送作業は,会員にも参加呼びかけ3月6日(日)10:00から行う。
第4号議案 2011年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業の申請に関する事項:2011年度も別のファクトシートの作成に向けて追加申請を行なう方向で,県担当者に連絡し確認を取る。
第5号議案 2011年度事業計画および総会の準備について:    各担当理事は,理事長により示された様式に基づき,今年度の事業について報告書作成のための確認を行なう。
第6号議案 その他:メーリングリストの履歴を参照された実績がないので,保存場所のオンラインストレージサービスを解約してはどうかという提案があったが,審議時間不足で次回持ち越しとなった。
 編集後記: 2010年度香川県自殺対策緊急強化基金事業報告書の作成,5月からスタートする2011年度ファミリーカウンセラー養成講座の講師会,2011年度香川県自殺対策緊急強化基金事業申請書の作成, そして2011年度の総会に向けての準備など,年度末を控え,スタッフ一同スケジュール調整に追われながらタイトな日々を送っています。(H)