私たちにできること
マインドファースト理事長 島津昌代
2011年度は,日本中が東日本大震災のもたらしたショックの中でスタートしたと言っても過言ではないでしょう。20世紀末の阪神・淡路大震災以後,ほぼ毎年のように世界各地で大きな災害が起こっていましたが,それらを上回る規模の圧倒的な自然の力に直面し,私たち人間の非力さを突きつけられた気持ちにおそわれた人は少なくないと思います。多くの犠牲者を出し,平穏な「日常」が瞬時に破壊されるという事態は,被災地の方々はもちろん,直接被災していない人々にもたくさんの「いたみ」をもたらしました。「悼み」であり,「傷み」であり,「痛み」であり…それらは物心両面に及び,今,このような状況の中から復興に向かっての取り組みが行われています。
自分の力が及ばないと感じるとき,つまり,自分にとって勝手知った事態の解読方法やこれまでもっていた対処法では間に合わないときに,私たちは「危機」に陥ります。それは災害時に限ったことではありません。生きているということは,常にいろいろな体験にさらされているわけで,大なり小なり,幾度となく「危機」に遭遇するものとも言えます。もちろん「危機」の程度はさまざまですが,その「危機」を乗り越えるのがとてつもなく困難に感じられるとき,何とかなりそうな可能性や支援してくれる他者の存在が感じられないときに,人は「死にたい」気持ちにおそわれるのではないでしょうか。困難な事態の真っ只中にいるときは,それを受け止める心が折れそうに感じられることが少なくありません。ともすれば,不安は坂道を転がる雪玉のようにどんどん大きくなり,絶望的な気分を強めていきます。だから,ひとりで不安を増幅させ心が折れないように支える方法として「心のケア」が注目されているのでしょう。
人はロボットではないので傷つきやすい心を持っています。だから精神的な「危機」に陥りやすいとも言えますが,その「危機」こそが“今”の自分たちの不足や曖昧やまちがいなどを乗り越えるための「機会」であるとも考えられます。そこには,自分だけが頑張るのではなく,自分がやっていくために必要な手を借りるという柔軟な姿勢(開かれたシステム)を受け入れていくことや,支援を提供する側のあり様が進化することも含まれているでしょう。事態は常に双方向的に影響を及ぼし合っていますから,何とかしたいという思いを形にしていくための知恵や技術や方法を磨いていくことは,私たち全員に求められているのだと思います。
さて,私たちマインドファーストは基本理念として「利用者本位の心の健康の推進と心のケアシステムの充実」を掲げてまいりました。私たちは誰もが傷ついた当事者として「心のケア」を求める立場にもなれば,傷ついた人を支援する側にもなります。だからこそ,傷ついた人が自分で主体的に自分をケアできるようサポートすること,すなわち主体性の回復を支えていくための活動を行っていきたいと思っています。発足以来,当会では学習会の開催やメンタルヘルスに関する普及啓発活動等に取り組んでまいりましたし,2008年度からは,ひきこもりに悩む家族
のためのグループミーティングや自殺で大切な人を亡くされた人たちのグループミーティング,個別相談にも取り組んでいます。こうした相談事業をさらに充実させていくべく,今年度も昨年度に引き続き,香川県地域自殺対策緊急強化基金事業費の補助を受けて,自殺予防カウンセリング,自殺で大切な人を亡くされた人たちのグループミーティング,予防啓発のためのファクトシートの作成を行う予定です。こうした「私たちにできること」を常に振り返りながら,「危機」に対する新たな挑戦として歩んでいきたいと思います。
第57回理事会報告
日時:2011年4月11日(月)午後6時30分〜9時00分
場所:高松市男女共同参画センター 第1会議室
議事の経過の概要
事務連絡および報告に関する事項:省略
第1号議案 2011年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コースに関する事項:担当理事より,4月11日現在で受講申込者2名,受講料入金確認されたため,受講申込受理の書面を発送済との報告があった。4月3日に講師会を開き,5月22日からはじまる講座のスケジュール確認等の打ちあわせを行った。
第2号議案 2010年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業に関する事項:4月6日に県担当者に書類を提出,受理された。微細な問い合わせを何点か受け対処済。近いうちに県から補助金精算額の確定通知があり,指定請求書用紙が事務局宛て届く予定。
第3号議案 2010年度事業報告ならびに収支決算書に関する事項:2010年度事業報告の記載事項について確認,修正が行われた。収支決算については,2011年3月31日で現金収支を締めた時点での収支計算書が事務局より提示された。正式な収支決算書については,2010年度香川県地域自殺対策緊急強化基金が下りた後に調整を行う。
第4号議案 2011年度事業計画と予算編成について:2011年度の予算,事業計画は収支決算を待ってからの審議事項となる。但し,収支決算の概算が出されているため,予算の審議は可能であることから,4月18日に理事会を召集し,予算の集中審議を行う。
 編集後記:海外旅行帰りの若者が「エビアン」を持ち歩く姿が,気障っぽく見えていたのは30年以上も前のことです。新しい水の文化は,「健康ブーム」にも支えられて,瞬く間に私たちの生活の中へ浸透し,今日,スーパーや自販機で水が売られるのは,当たり前の風景になりました。その水が店頭から忽然と消えました。近所に,お遍路さんがよく立ち寄る食堂があり,先日,歩き遍路の方が,店の人にペットボトルを差し出して水道水を入れてもらっていました。なにか懐かしいものを見る思いでした。そう言えば,かつて水筒はサバイバルキットとして必須でした。マイ箸ならぬマイボトルを持って歩くことが様になる「サバイバルブーム」が訪れるでしょうか。いずれにしても,3/11は,これまでの私たちのライフスタイルを見直すきっかけになることは間違いなさそうです。(H)