極めて稀な精神病のケースを除いて,精神疾患と犯罪には,因果関係がないという点で,権利擁護諸団体の見解は一致している。オーストラリアうつ病イニシアティブbeyondblueの責任者ケイト・カーネル女史は,「この問題に関しては,普段でもその人がしないことやその人らしくないことは,病気になってもしないということが,精神疾患の真実である」と述べている。
うつ病は,周囲との関わりが少なくなるため,犯罪の可能性が下がることは事実である。とはいえ,法定弁論の場でそれを引き合いに出すことは,精神疾患に対するただでさえ否定的な態度を定着させてしまう。オーストラリアメンタルヘルス協議会の最高顧問,フランク・クインラン氏によれば,「エビデンスは,全く逆であるにもかかわらず,こうした状況が,スティグマを増幅し,精神疾患を有する人たちは,結局自分の行動をコントロールできず,犯罪に走りやすいといった認識を生みやすい」という。
あいにく,精神疾患であることを被告人弁護に用いることが,判決にどのような影響があるかについてのデータは存在しない。しかし,世論は,こうした弁論が乱用されていることをはっきりさせることに強い関心を持っている。
一方,心理分野における教育関係者は,「心理障害(psychological disorders)」と命名されても良い精神疾患の範疇を明確にしたいとしている。確かに,95%もの精神疾患がうつ病と不安に根ざした問題で,治療には必ずしも薬物を必要としないことを考えると,この用語は適切であるともいえる。「精神疾患というレッテル貼りは,心理障害としての考え方や本来心理治療が可能なものを医療モデルに駆り立てるだけでなく,スティグマを増強する」と心理学分野の人たちは述べている。
こうした心理学分野の努力は,精神疾患への理解が改善され,関係者が受け入れやすくなるという点では評価できる。しかし,メンタルヘルスケアの流れをこれまで以上に分断し,財源的にはさらに気前が良くなる分野を拡大することになりかねない。一方で,統合失調症や双極性障害の患者に対しては,別の新たなスティグマが生じかねない。単なるラベルの貼り換えではなく,精神疾患にまつわる根強い神話や誤解を払拭することを目的に,教育や啓発キャンペーンを継続していく方が望ましいと言えよう。
彼らのことをどう表現するにしろ,精神疾患を患っている人には支援が必要であることだけは,間違いのない事実である。
(要訳 花岡)