「家族は,互いに助け合わなければならない」か?
マインドファースト通信編集長 花岡正憲

「すべての幸福な家庭は互いに似ている。不幸な家庭はそれぞれの仕方で不幸である」 レフ・トルストイ作『アンナ・カレーニナ』の冒頭の言葉である。家族が話題になるとき,この言葉がたびたび引用されるのは,家族の多様性と家族という人間関係に対する深い洞察への共感があるからであろう。
自民党憲法改正草案の第24条(家族,婚姻に関する基本原則)の1項に,家族の規定が新たに設けられ,「家族は,互いに助け合わなければならない」とある。
条文を文言どおりに適応すれば,夫婦喧嘩が絶えなかったり,うっかり離婚を口にしたりすると,パートナーや関係者から通報されかねないことになる。こうしたことは,すでに児童虐待現場で起きていることを見れば,まったく杞憂とも言えない。子どもの悲鳴が聴こえると,通報があったかどうかが問題になる時代である。本来,児童虐待防止には,家族が利用しやすい社会資源や支援スキームの整備が不可欠である。しかし,未然防止策や支援策が乏しい中で,発生主義の立場から人間関係のトラブルの通報件数だけが増えて行くとすれば,これは警察国家(police state)だ。
夫婦喧嘩が絶えないのは,経済的困難がある中で子育てや教育をめぐり夫婦が真剣に話しあう過程で起きている場合もあれば,社交の場で,おしどり夫婦を演じる政財界人夫婦も,一歩家庭に入ると,夫のDVや女性問題で悩む妻の姿だってある。これが生活者の家族としての実像である。憲法改正草案24条1項に照らして,合憲か違憲かという視点で家族を見れば,違憲状態を疑われる家族が大量発生することは,想像に難くない。
憲法改正草案に家族の助け合いが盛り込まれた背景には,家族の絆の弱体化があるとも言われる。しかし,元来強かった家族の絆が,弱体化したのかと言えば,疑問である。かつては,家族というしがらみの中で,個人の自立が妨げられることが少なくなかったが,今日,そうした家族の人間関係の拘束性が緩み,家族の多様化が進んだ。その一方で,家族の危機や困難にさいして,必要な支援を得ることが難しく,家族の問題が顕在化しやすくなっていると見るのが自然であろう。
社会保障費が膨らむ中で,家族の助け合いという美名のもとに,家族のしがらみ(扶助義務)を優先させ,制度利用に制限をかけようとする,そうした国の姿を描いていると見れなくもない。子育て上の悩みを抱えた家族,離婚の危機にある夫婦,障害
者と同居の家族,老親介護の困難を抱えた家族などは,家族環境が悪化し,問題を深刻化させかねない。
わが国の家族は,従来,成長戦略に深く組み込まれてきた。ほとんど死語になったとはいえ,マイホーム主義という言葉が,組織や職場に非協力的な家族というニュアンスで使われたことが,こうした事情を物語っている。これが戦後の国家と家族の関係であった。
夫が自殺しても,家族と会社を守るために,関係者には心臓麻痺だったという。精神疾患を患うと退職を迫られ,家族も職場への気兼ねから,当人に身を引かせる。個人の利益や人権よりも,企業や組織の利益が優先されてきたというのが実情だ。家族は,言わば会社や企業のlogistics(後方支援)をつとめ,家族の犠牲や家族からの搾取の上に経済成長が成り立っていたとも言えよう。過労死や自殺で,遺族が企業責任を問えるようになったのは,つい最近のことだ。
近年,女性の仕事と家事育児の両立を図る取り組みが進められるようになった。しかし,就業環境や育児環境といった外部環境を整えることが,直接家族支援につながるというものではない。そもそも,両立支援という発想自体が,家事育児は女性の役割であるという考え方に基づくもので,限界がある。家族の助け合いを義務づけることで,女性の家事育児へ回帰という逆流現象も起こりかねない。家族の助け合いとその困難は,女性の社会進出や社会的地位の向上とは,直接関係のないことである。
人が生まれながらにして自由(born free)であるように,家族をつくることは,他者との共同生活を前提とした人生における個人の自由な選択である。単身家族,高齢家族,DINKS,同性婚など,家族の多様性と多義性は,ライフスタイルやライフステージといった家族の内部の問題である。こうした家族がその歴史を歩む中で,助け合うことが困難になるこがあることも事実だ。このことは,違法性が問われるようなことではなく,家族機能(family function)や家族倫理の問題である。
個人の尊厳よりも,家族や集団や社会システムを上位に置き,社会経済政策や国家に奉仕するために,家族の共助を義務づけようとする,これは,立憲主義の観点からも逆行である。国によって管理される家族は,社会経済政策に深く組み込まれて行き,職場や地域社会の理解や協力が難しくなり,ますます内向きになっていく。これだけは,はっきり言えることだ。
世界人権宣言16条3項には,「家族は,社会の自然かつ基礎的な単位であり,社会及び国により保護を受ける権利を有する」とある。家族は,保護を受ける権利を有する存在であるという「家族福祉」という視点が不可欠だ。多様化する家族を←




→それぞれ家族として支援するための地域社会の合意形成と政治の役割が求められる。
第99回理事会報告
日 時:2013年8月5日(月)19時40分〜21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 「高松市 まちかどトーク」に関する事項:8月9日の市当局との事前協議のさいに,報道関連について具体的なことを確認しておくことで了承された。また,当日の役割分担とすすめ方について議論された。当日は,当会の活動の紹介の後,広く生活者としてのメンタルヘルスの課題について,市長と意見交換を行うことで了承された。
第2号議案 ユーザーの活動の場づくりに関する事項:審議未了。
第3号議案 グリーフワークかがわの「2013年度ヘルプラインカウンセラー養成講座」周知協力に関する事項:NPO法人グリーフワークかがわで開催される「2013年度ヘルプラインカウンセラー養成講座」の周知を当会のホームページ上にリンクすることが承認された。
第4号議案 ファミリーカウンセラー養成講座講師会に関する事項:ファミリーカウンセラー養成講座が終了し,最終の講師会を開催する。日時については,理事長が調整の上,メーリングにて招集をかけることが承認された。
第5号議案 理事の任期に関する事項:法務局へ理事の変更届けをしたところ,前期の理事長就任の登記の月日が6月28日だったことから,今年度は新任の理事がいるために,6月28日以降の日付での理事の互選書の提出を求められた。当会内部では,実際には,総会時に理事を決定し,その後の理事会で理事長の選出を行っている。今後もその手順を踏めるよう,総会の前日に理事には退任届を出してもらい,総会からのスタートが切れるようにすることが承認された。理事の就任承諾書に任期2年を明記する案も示されたが,2015年の総会の前日に退任届を提出することで,新旧役員の任期を明確にすることが承認された。
第6号議案 理事の互選書に関する事項:6月28日以降の理事の互選書が必要であり,作成して提出することが承認された。
第7号議案 第96回,第97回理事会議事録の有効性に関する事項:新理事就任前に,新任理事と重任理事で開催された第96回,第97回の理事会の有効性についての議論がなされたが,第96回,第97回理事会は,招集手続きに瑕疵がある中での開催であったが,いずれの理事からも異議の申し立てがなく,また,出席理事全員も異議なく議事に参加したこことから,軽微な手続き上の瑕疵は,もはや治癒していると判断して,第96回,第97回理事会の議事録の有効性があるということで承認された。
第8号議案 使途が制約されている寄付金の会計上の扱いに関する事項:本議案は,懸案である認定NPO法人取得に関することでもあることから,まず専門家のコンサルテーションを受けることが承認された。なお,専門家の第1候補者として岡山市清水税理士務所の清水税理士,当法人の希望日は10月13日で調整に入ることで了承された。
第9号議案 2013年度自殺対策緊急強化基金事業に関する事項:事務局より今年度の相談件数の実績が示された。対面型相談支援事業が4月から7月までで16件,強化モデル事業が1件であった。これまで広報について,高松市報の掲載が効果的であるが,ここ数か月対面型相談支援について掲載されないため,近日中に,藤澤理事が保健センターへ出向き改めて依頼をすることが承認された。
9月10日は世界自殺予防デイ
 国際自殺予防協会(IASP)は,今年の活動目標を「世界をめぐる(Cycle Around the Globe)」としています。地球は,一周40,075キロメーター,24,900マイルですが,世界自殺予防デイの
Cycle Around the Globe
ために,私たち一人一人が力を合わせることができれば,この距離は克服できます。ゴールを達成するためにどうか協力してください。どれだけの距離を走るかが問題ではありません。自分の家にいても,出かけていても,やれることです。メンタルヘルス問題と自殺を考えている人たちに対するスティグマに一緒に立ち向かうことです。
2013年9月10日の世界自殺予防デイには,夜8時に,キャンドルを燈し,自殺予防のためのあなたの気持ちを表わしてください。失った愛する人を思い出すために,そして,自殺を乗り越えてきた人たちのために。
9月10日は世界自殺予防デイ
(「国際自殺予防協会2013年世界自殺予防デイ」から要訳)

 編集後記:2020オリンピック東京招致委員会がブエノスアイレスで開いた記者会見で,汚染水問題について聞かれたJOC会長は,「東京は福島から250km離れているから危険性はない」と語りました。「福島でなく東京で良かった」と聞こえなくもありません。1972 年11 月に採択されたロンドン条約(正式名称は,「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」)は,’75 年8 月に国際発効。日本は,’80 年10 月に批准しています。その後の世界的な海洋環境保護の必要性への認識の高まりを受けて,1993 年11 月に附属書T及びUが改正され,同改正により,‘96 年1 月1 日から放射性廃棄物の海洋投棄は,原則禁止となっています。国際社会への責任を果たすという点では,7年後の国際的イベントのホスト役以上のことが求められていると言えます。(H)