会議報告

香川県子ども・若者支援地域協議会
 実務者会議及び実務者研修会

マインドファースト理事 森本雅榮

2022年7月17日(木)13:30~15:30 香川県社会福祉総合センター7階第1中会議室において,令和4年度香川県子ども・若者支援地域協議会実務者会議及び実務研修会が開催された。

コロナ禍の中,オンラインとの併用講演会となった。「ひきこもり理解と支援~当事者と家族をどう支えるか~」と題して一般社団法人ひきこもり会議代表理事の林恭子氏が講演を行った。

以下は講演の中のひきこもりの当事者たちの声を纏めたものである。

<ひきこもり女子会参加者の声>

  • ひきこもり女子会というものが存在しているということにとても救われています。ありがとうございます。(20代)
  • 外に出る大きなきっかけを貰いました。人と会うため,自分自身の手入れをしっかりしようと思えました。女性だけの集まりはとても珍しく,本当にありがたいです。(20代)
  • ひきこもり女子会のこと知った時嬉しかった。人と話すのが怖くて苦手だけど参加とてもしたいです。だけど会場が遠くて断念。田舎は交通に本当に不便。車がないと尚更。いつかうちの県でも開催してほしいです。何かきっかけ掴みたい。(40代)
  • 生きていて良いと肯定してもらえたような気持になれた。次の女子会までに達成する目標を設定して行動できた。(20代)
  • とても力づけられると共に,私たちはこんな出会いを求めていたのだと気づかされました。(30代)
  • 世の中では怠けていると批判されている,ひきこもり女性に目を向けて頂き活動をされている事に感謝しています。会などに参加できていませんがサイト等を見ると自分だけじゃないんだと自己嫌悪が和らいだりして助かっています。(30代)

<ひきこもり・いきづらさについての実態調査の2019に寄せられた声>

  • 決して働く意欲がないのではなく,社会に居場所をつくれなかった。
  • 人に悩みを話すと,怠け者とか言われ,傷つくことも多く,まだまだ理解者は少ない。何より支援者の理解のなさ,支援者が求めてくるハードルの高さ。もっと当事者の心に寄り添うことができないのでしょうか?支援を求めて傷つくことが辛いです。
  • 頑張っても普通に生きられないのならせめて安楽死させてください。

<支援についての声>

  • そもそも相談した相手に知識や理解がない場合があり,相談する勇気が持てない。
  • どこに相談していいか,窓口がわかりづらかった→たらい回し
  • とりあえず交通費が欲しい。それか無職,若しくは貧困層の交通費を軽減してくれるような国による支援が欲しい。
  • 電話予約の段階で名前や住所,相談内容を伝えなければならず,断念しました。
  • サポステでは,自信喪失や対人恐怖があるのに就労支援しかないこと。
  • 正論を語られることが辛いです。正論をぶつけられることは,寄り添うことではないから。

<どのような支援がほしいか>

  • 社会の「普通」を基準としない柔軟な価値観を持った支援
  • 家でできる仕事を紹介してほしい。
  • 様々な仕事を体験から始められるような支援
  • 定期的に通える,近くで月に2回以上やっている自助会
  • 女性スタッフがいる女性に特化した支援
  • 誰かに相談するとなると自己否定感が出てうまくいきません。共感し合える場があるだけでいいと思います。
  • 極度の電話恐怖です。メールでの相談ができたら。

<『ひきこもり白書2021』からの高年齢化するひきこもり当事者の声>

  • 兄弟がいるが「家にいるのだから」と親の介護を押し付けられる
  • 10年以上働いたことがない。親亡き後どうすれば
  • ヘルパーさんなどの支援者を家に入れられない。
  • (親の)看取りを始めている(→孤立,困窮の可能性)

以下は当事者の声から,これからの支援について語った要約である。

「就労支援」の手前の支援が求められている。階段式←


→に進むのではない。

  • 居場所は心理的安全性の確保された場で人や外の世界になれる場であり,いつでも来ることができる場であり,いつでも戻れる場である。卒業はない。
  • 行政・民間支援職員の引きこもりへの理解促進のための研修,相談窓口の増設,他部署・他機関との連携,支援年齢の規制を撤廃する。
  • 就労支援は失敗を恐れず安心して働ける職場環境作りや,何度でもチャレンジできる仕組み,正社員でなくとも暮らしていける仕組みを作る。

生きるための支援,必要な支援=生き方支援

  • 高年齢化したひきこもりの人に対して,地域で安心して生活できる仕組み,場合により働かなくとも地域で生きていける仕組みづくりをする。
  • 多様な生き方をしている人たちがいるという情報を提供する。
  • 数年前のチラシを握りしめてやって来た人もいるので,ひきこもり支援のあらゆる情報を出し続ける。行こうかなと思うようなデザインにすることも大事であり,専門家に頼んでも良い。
  • 最後に当事者団体への支援を呼びかけた。活動の持続性に困難を感じている団体・個人は多い。当事者団体は当事者へのリーチが,行政は資金確保や場の確保等が強みであり,連携はお互いの苦手分野を補完しつつより良い支援の連携が図れる。
     当事者としての林氏の話は,不登校やひきこもりの人たちが社会に出て行くにはとても長い時間と労力と費用が掛かるということを伝えるものであり,行政の人にも理解を促した有効な話だったと思った。今回はコロナウイルス感染防止のためオンライン講演会も行われたが,実際に林氏を目の前にしての聴講は,心を奮い立たせるものとなった。マインドファーストの活動事業(リトリートたくまやREPOS,ピアワークス,ピア電話相談,ひきこもりの家族支援等)をあらためて誇らしく思い,さらに全く外に出れないひきこもりの人たちの家族が1日も早く相談に来ることを切に願った時間となった。

高松市自殺未遂者支援関係機関ネットワーク会議

マインドファースト理事 花岡正憲

2022年7月28日(木),高松市保健センターにおいて標記会議が開催された。この会議は,自殺対策関連機関の連携を図るために,高松市保健所長が呼びかけたものである。マインドファーストからは理事の花岡が出席した。

高松市健康づくり推進課課長の挨拶に続き,担当者から高松市の自殺の現状についての説明の後,高松市の自殺対策関連事業の紹介があった。その中で,自殺予防対策の要とも言える人材育成事業については,個別の医学的,心理学的テーマについて,それぞれ講師を呼んで行われる単発の市職員向け研修が中心で,一般市民や関係者に呼びかけて行うゲートキーパー育成など広がりのある人材育成プランが示されなかったことは,残念である。

また,ネットワーク会議を掲げながら,警察,救急隊,民間団体,精神保健福祉センターなど,自殺予防の第一線機関でもある地域組織との情報交換や意見交換の時間を設けなかったこと,そのため持参したファクトシートの説明が行えなかったこと,事例検討では,ヤングケアラーとされるの子どもと家族を巡るネットワークを呼びかけながら,出席の関係者からは,本ケースについての連携の接点を探すことは難しいとの意見が出されたことは,本ネットワーク会議の今後のあり方に課題を残したと言える。

終わりに,香川大学医学部精神科神経科の木戸瑞江氏から,コメントと話題提供があった。ヤングケアラーという概念で見えてくるものもあるが,あえてヤングケラーという概念が必要なのかどうか,かえって子どもが置かれている養育上の問題が見えにくくなるのではないかという鋭い指摘があった。「ヤングケアラー」では,確かに,家族の介護・介助など,外形的に見えやすいところだけが強調されて,木戸講師も触れた子どもの親への「情緒的サポート」いう側面が見落とされがちになることもあろう。

これに関連して,親の悩みや両親葛藤などを吸収・調整するなど,本来の子どもとしての成長が阻害されている事象への気づきと支援が大切であるこという意見を述べておいた。

今回は,関係機関の欠席が目立ったことや保健所長の出席がなかったこと,担当者に丸投げで政策科学が乏しいことなどから,この課題への中核市としての姿勢が問われかねない会議になった。


第 222回理事会報告は,次号以降に掲載いたします。

編集後記:あらゆる集合体のアイデンティティ形成において,集合体の物語りが重要であることは言うまでもありません。家族もしかりです。それぞれの家族成員が自律性を持ち,集合体の語りの場に,子どもを含めたすべての成員が参加することが大切とされています。家族の意思決定をはじめとした物語りの形成過程は,成員間の信頼関係と成員の個々の自己実現を育む過程でもあります。世界平和統一家庭連合(Family Federation for World Peace and Unification 旧 統一教会)は,国家や世界平和と言う思想を上位に置き,家族はその思想に奉仕することを義務づけています。家族は,連合体の神話に取り込まれ,現実機能が否認されてしまい,家族の物語りが成員間で共有されなくなります。個々の家族成員のアイデンティティ形成が損なわれ,家族が苦境に陥ることがあっても不思議ではありません。親世代が旧統一教会に取り込まれ,一方で,子ども世代は家族分断の中であえぐ。安倍元首相を銃殺した山上容疑者は,世界平和統一家庭連合の言わば反家族思想の犠牲者であったとも言えます。自民党憲法改正草案第 24 条(家族,婚姻に関する基本原則)の 1 項に新たに条文が設けられ,「家族は,互いに助け合わなければならない」とありますが,これは統一教会の思想と軌を一にするものです。家族は,社会的に尊重され,必要な保護を受ける権利を有する存在でありながら,家族が相互協力を強いられ,他者の野心のために利用されることになります。このことは,マインドファースト通信2013年8月号(99号)で,「家族は協力しあわななければならないか?」と題して問題提起を行いました。安倍元首相銃撃事件は,家族や地域社会に居場所がなくなりつつある子ども・若者の危機の延長線で起きたと言う見方もできます。2009 年,子ども・若者育成支援推進法が制定され,子ども・若者が社会生活を円滑に営むことができるように,国と地方公共団体の責務を定め,地域で子ども・若者支援事業が進められてきました。将来の社会を担うことが期待されている子ども・若者が置かれた状況は,目先の政策の変更ではどうにもならないほど深刻なところにあるのでしょうか。(H)